

国産小麦粉の特徴とは? 「江別製粉」高野扶佐子さんに教わる北海道産小麦で作る製パンのコツ Pancierge Salon vol.6レポート

11月12日に開催された第6回「Pancierge Salon(パンシェルジュサロン)」。江別製粉株式会社で商品開発担当をなさっている高野扶佐子さんが登壇しました。日々パンやお菓子づくりに使う小麦やその種類のこと、どの小麦を使うとどんなパンになるかなど、知っているようで知らない小麦の知識満載のお話でした。北海道小麦の生産状況についても気になる話題もあって、これまで以上に盛り上がったパンシェルジュサロンの様子をレポートします。
江別製粉株式会社 営業部商品開発担当 高野扶佐子さん

大学卒業後、一般企業で勤務の傍ら、料理教室に通い製菓製パン講師の資格を取得。講師や製粉会社勤務を経て、2024年北海道江別市に本社がある江別製粉株式会社に入社。東京ラボにて現職。製菓衛生師の資格も持つ。
製粉会社の「江別製粉」と北海道産小麦

「江別製粉」の会社紹介からスタート。
会場の東京・神田「Happy Cooking」には、熱心なパンシェルジュのみなさんが集結。「今日はパンづくりの楽しさを共有したい」と高野さんが挨拶してサロンが始まりました。
日本で消費される小麦のうち、国内で生産されるのは16%程度です。その国内生産量の68%が北海道で栽培されています。「江別製粉」の本社がある江別市も、札幌から20kmほどですが、小麦の産地です。

高野さんが用意した小麦粉が違うプチフランスパンにもみなさん興味津々でした。
冷涼で雨が少ない北海道では、何種類もの小麦が栽培されてきました。製粉会社の「江別製粉」が取り扱うのは、「きたほなみ」「はるきらり」「ハルユタカ」「春よ恋」「キタノカオリ」「ゆめちから」の6種類です。半数以上を占めるのが「きたほなみ」で、その次に多いのが「ゆめちから」。残りの4種類は、1%以下と貴重な小麦です。
特に「キタノカオリ」は病気に弱く、「江別製粉」でも5年間も販売できなかったそう。「おいしい『キタノカオリ』を絶やしたくないというパン屋さんの声や、農家さんの努力で現在は販売可能になりました」と高野さん。

小麦は品種によって「芒(のげ)」があったり、なかったり。
ところで、小麦には穂にひげのような突起、「芒(のげ)」がある品種とない品種があります。芒がない小麦のほうが内部が黄色っぽいのだとか。「江別製粉」で取り扱う6つの品種の中では、「きたほなみ」と「キタノカオリ」に芒がなくパンにしたときも黄色く見えます。
3種類の小麦を使った食パンをみんなで食べ比べ

参加者の皆さん全員に配られた3枚の食パン。
試食用にと高野さんが3種類の小麦で作った食パンが用意されていました。「『きたほなみ(ドルチェ)』、『ゆめちから』、『キタノカオリ』の順番で食べてみてください」と高野さん。

お土産として用意されたドルチェの粉とドルチェで作ったパン。
「ドルチェ」は、お菓子作りに使う小麦粉として、よくネット通販や店頭でも見かけます。「実は中力粉の『きたほなみ』を製粉技術で薄力粉のようにして販売している商品です。一般的な薄力粉よりたんぱく質が多いのでパンにも使えます」と高野さん。
「ドルチェ」で作った食パンの注目ポイントはクラストです。「グルテンが弱いので、クラストがはがれやすく、サクッとしたパンになります」とのこと。

「ゆめちから」の粉とパン。
「ゆめちから」は「力という言葉がついているだけあってグルテンが強い小麦です。もちっとした食感になる特徴で人気があります」とのこと。

「キタノカオリ」の粉とパン。
「キタノカオリ」は、「窯伸びがよくてボリュームが出やすく、甘みが強いパンになります。生地も黄色が強くなります」とのこと。「キタノカオリ」を最後に食べてくださいと伝えた理由は、同じ配合で作っても、「キタノカオリ」がいちばん味が濃いからとのことでした。

和やかに食べ比べ。
さすがパンシェルジュのみなさん。食べ比べの最中は、「『キタノカオリ』から乳製品のような香りがする」「確かに食感が違う!」「シチューが合うのはこれ、ジャムはこれ」などと声が聞こえてきました。
小麦とパンの特徴の関係は?灰分にも注目

色がそれぞれ違うのがわかりますか?
今回、「江別製粉」さんからお土産に5種類の小麦粉がセットで用意されていました。植野さんの細かなレシピ付き。さらに小麦によって製パン方法が異なることまで教えてくれました。
たんぱく質の量が多い小麦は、
・水を吸収しやすいこと
・しっかりミキシングするほうが特徴が出やすいこと
・ベンチタイムを長めにとったほうが成形時に生地へのダメージが少ない
・メイラード反応するアミノ酸の量も多いため焼き色が濃くなる
たんぱく質が少ない「ドルチェ」は、発酵時間は長めにするほうがボリュームが出やすいそうです。

レシピは同じでも、小麦によって、味・膨らみ方・気泡の入り方はそれぞれ。
また、でんぷんの一種であるアミロペクチンが多い「キタノカオリ」を使ったパンはもちもちした食感になり、アミロースが多い「はるよこい」は高さが出るそう。小麦によって成分が異なり、それによってパンの作り方や仕上がりにも差が出るとは! ますますパンをこだわって作りたくなります。

熱心にメモを取る姿も見られました。
サロンの最後に質疑応答が行われ、何人もの方から手が挙がりました。
「小麦粉の成分は毎年変わるのですか?」という質問に「小麦は農作物なので毎年変わります。商品の味や品質が一定になるように多年度産の麦を確保していて、そのため味や品質が一定になるように、マイスターがブレンドしています」と、実は品質の陰に職人技があることまで教えてもらいました。
自社の講習会にも関わっているという植野さんに「『江別製粉』のセミナーに、個人でも参加できますか?」という質問がありました。「家庭製パンのグループに向けて講習会を行うこともあります」と今後も小麦粉とパンの知識を得られるヒントが返ってきました。
北海道小麦の特徴とパンづくりのコツを知る機会となった今回のパンシェルジュサロン。みなさんますますパンを焼きたくなり、小麦についても知りたくなったようです。
「Pancierge Salon」は、今後もパンにまつわるさまざまなプロを招き、パン作りのコツや食べ比べなど、パンの奥深い世界を楽しく学ぶことができる機会を提供していきます。進めば進むほど深い深いパンの沼。ますますパンについて一緒に学んでいきましょう。
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