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パンを日本の観光資源に「dough-ist」川原司シェフをゲストに迎えて「湯種」に迫る!Pancierge Salon vol.2レポート
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パンを日本の観光資源に「dough-ist」川原司シェフをゲストに迎えて「湯種」に迫る!Pancierge Salon vol.2レポート

野崎 さおり
野崎 さおり

2025年7月にスタートした「Pancierge Salon(パンシェルジュサロン)」。第2回は8月28日、東京・神田のパンと料理の教室「Happy Cooking」で開催されました。ゲストは東京・笹塚にある「dough-ist(ドウイスト)」の川原司シェフです。会場には約30名のパンシェルジュが参加。川原シェフのお話に熱心に耳を傾ける様子が見られました。

川原シェフの経歴についてはこちら!

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深夜ラジオ風トークからスタート。湯種を使ったパンを日本の観光資源に

約30名のパンシェルジュが参加して8月28日(木)19時からスタート。

川原シェフは、なぜか学生時代に深夜ラジオのスタッフとしてアルバイトしていた話からトークをスタート。まるで深夜ラジオのパーソナリティのように自己紹介したり、ライブのMCってすごいですよねと話したり。その度に会場からはくすくすっと小さく笑いが起こって、シェフが放つ独特の空気で場が和んでいきました。

「dough-ist」は京王線笹塚駅から徒歩10分の場所にあります。

「dough-ist」は、2024年5月に東京・笹塚にオープンした川原シェフのお店です。参加者の皆さんの前には、お店の商品の中から、「サワードウカントリーブレット」にチーズなどをかけて焼いたもの、「ドウイスト食パン」、お店の名前を冠した「ドウイスト」で作ったあんバターサンド。そして謎の白い物体が小さなスプーンの上に置かれています。

左から時計回りに、チーズとハチミツ、コリアンダーをのせて焼いた「サワードウカントリーブレット」、「ドウイスト食パン」、「ドウイスト生地のあんバター」、そしてスプーンにのった謎の物体。

最初に紹介されたのは、「サワードウカントリーブレット」。湯種が30%入っていて、もちもち、しっとりした食感です。酸味が苦手な人もいるサワードウのパンをおいしく食べてもらいたいと考えて作ったパンだと川原シェフ。

「サワードウカントリーブレット」を準備中の川原シェフ。チーズなどをのせてオーブンで焼いた後、バーナーで炙りました。

「多くの人がおいしく感じる、食べやすいパンを作れる人はたくさんいます。長くパン作りをしていると、もっとおもしろくパンを作りたいとか、パンじゃないパンを作りたいみたいなことをいう人も出てきます。僕はその気持ちがすごくわかります」と続けた川原シェフの言葉に、参加者はやや困惑気味。

「今、日本は、独自にパンというものを再解釈して、自分たちの文化の中に落とし込んでいる最中だろうと僕は思っています。海外やヨーロッパの真似ではなくて、日本人にとってのパン、“ジャパン”みたいな」と、どこまで本気でどこまで冗談なのかと、参加者を惑わせる川原シェフのトークテクニックが炸裂。

次第に伝わってくるのは、日本に来たらおいしいパン、おもしろいパンある、パンが観光資源になるような文化を作りたいという熱い思いでした。そして、川原シェフが辿り着き、日々研究しているのが湯種やお湯を使ったパンの作り方なのです。

パンのキャラクターは何が作る? 「発酵・熟成・水和」と「湯種・高加水・サワードウ」

川原シェフがパンの製法の中で大切にしているのは、発酵、熟成、水和の3つ。「この3つにこだわって工夫するのが、パンを作るっていうことなんです」と川原シェフ。

熟成には酵素の働きが関係していて、その働きは発酵よりもずっと高い60度や65度でより強くなると川原シェフ。そこで目をつけたのが湯種やお湯を使った製パン方法でした。

川原シェフのパンに重要な麹液種、熟成湯種、麹元種、麹熟成発酵湯種。

ここで、先ほどスプーンに乗せられて登場した謎の物体が「熟成湯種」だと明らかになりました。湯種をさらに熟成させ甘さを引き出したものです。材料が異なるものの、作り方は甘酒と同じで、澱粉が分解されて糖に変わっているため口に入れるととても甘くなります。

そして水和については、「澱粉のアルファ化で、カスタードクリームやホワイトソースのように、小麦と水に熱を加えると、硬くなる現象です」と説明。

「何がいちばんパンのキャラクターを作れるかというと、発酵です」と川原シェフ。酵母を純粋培養したイーストは、酸味が出にくいというメリットがある一方で、キャラクター(独自性)が作りにくい。そのため、自宅でのパン作りに慣れてきたら、ライ麦を使って起こすルヴァンリキッドや、レーズンを使ったぶどう種など、「自然発酵の発酵種でパン作りに挑戦するのもいいですよ」と参加するパンシェルジュたちに語りかけました。

「ドウイスト生地のあんバター」断面。もっちりしっとりした他にはない食感の生地があんことバターと相性よし!

そしてもうひとつ、川原シェフが明言したのが、「湯種と高加水とサワードウは親和性がある」ということ。川原シェフによれば、湯種を入れることで高加水の生地は扱いやすくなり、カビが発生しやすい高加水のパンは、カビが発生しにくいサワードウにすることで、そのデメリットを排除することができるというものです。このそれぞれを特徴を川原シェフのやり方で組み合わせてできたパンがお店の名前を冠した「ドウイスト」です。「『ドウイスト』は僕の中で、すごく理に適ったパンです」と川原シェフ。

看板メニュー「ドウイスト」の秘密

イベントでは分割前の「ドウイスト」の生地が用意されていました。触ってみた参加者からは「ふわふわでもちもち」「気持ちいい」と声が上がります。

希望者は「ドウイスト」の丸めに参加。

分割して、希望者も一緒に丸めた生地が焼成されるまでの間に、「ドウイスト」の湯種生地の作り方も実演。あんバターサンドとして食べた「ドウイスト」が、いかに川原シェフの独自の考えが反映されていて、作るのに手間と時間がかかっているっているかを垣間見ることができました。

焼き上がった「ドウイスト」は参加者へのお土産になりました。

最後に行われた質疑応答では、「ドウイスト」は、生地の開発にどれぐらい時間がかかったかという質問が寄せられました。その質問に川原シェフは、「まだまだ日々レシピを変えています。レシピができる時はすぐにできることもありますが、意外と、(レシピを)考えていないときの経験が生きることがあります」という、実に深い答えが返ってきました。

イベント中に参加者に配布された「ドウイスト食パン」について、焼成当日は柔らかすぎて、スライスが難しいとも教えてくれました。「パンはもっと自由であるべきだから、スライスしなくてもいいのでは?」とそもそも私たちが持つパンに対する固定概念に揺さぶられるような一幕も。

宇宙やティッシュなど、前半のトークで繰り広げた伏線を最終的に回収した川原シェフ。

川原シェフは「このパンを食べて感動したり、幸せになってもらいたいと、すごく強く思ってるんですよ」と話します。川原シェフが作るパンが日本全体にあるパンのイメージを変える日も、遠くない将来にやってくるのかも知れません。

「Pancierge Salon」は、今後もパンにまつわるさまざまなプロを招き、パン作りのコツや食べ比べなど、パンの奥深い世界を楽しく学ぶことができる機会を提供していきます。進めば進むほど深い深いパンの沼。ますますパンについて一緒に学んでいきましょう。

申込はこちらから!
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「Pancierge Salon」
ー次回以降も豪華なラインナップー
Vol.3 パンシェルジュ 榎プロデューサー登壇 「最新関西パン情報」に迫る!@大阪
Vol.4 朝ドラ「あんぱん」監修 竹谷シェフ登壇 「パンづくりの極意」に迫る!

※本イベントは定員がございます。
※本イベントはパンシェルジュ検定合格者及び第31回パンシェルジュ検定申込者のみ参加可能です。
※先着順となっております。上限に達し次第申し込みを締め切ります。

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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