大手パンメーカーを詳しく知ろう
パンシェルジュを目指すために学ぶ基本的な知識を、写真とともにわかりやすく紹介する『パンシェルジュ 基本のキ』。第3回は大手パンメーカーについて紹介します。
スーパーやコンビニなど、私たちの身近にある大手メーカーのパン。日常的に食べている人も多いと思いますが、そのパンを作っているのはどんな会社なのか知らない人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、パン好きはもちろん、パンシェルジュを目指す人ならぜひ知っておきたい、大手パンメーカーの歴史や特色について紹介したいと思います。
大手パンメーカーとはどんな会社なの?
“大手パンメーカーってテレビCMで見かける会社でしょ”って思う人も多いかもしれませんね。それも間違いではありませんが、『ぱんてな』では、パンシェルジュ検定のテキストで定義する「自社生産工場を持ち、主にスーパーやコンビニなどに自社ブランドのパンを卸しているパンの生産業者」や「全国展開しているベーカリー」など、一般社団法人日本パン工業会・会員企業と考えます。今回はその中でも、業界における売上高シェアの高い大手メーカーにフォーカスし、各社の歴史や特色を紹介します。
山崎製パン
パンの生産額における、売上高シェア1位のメーカーで、独自の湯捏製法で作られた「超芳醇」シリーズや「ロイヤルブレッド」、耳までやわらかい「ダブルソフト」など食パンをはじめ、アンテナショップも登場した「ランチパック」などが定番商品です。また、シールを集めて白いお皿がもらえる「春のパンまつり」でもおなじみですね。ベーカリーカフェやコンビニエンスストアなど、さまざまな事業展開も行っています。
技術革新を進めながら幅広く事業を展開。積極的な社会活動によって業界にも貢献
飯島藤十郎氏が1948年3月に、千葉県市川市に開業した委託加工の製パン所がはじまり。ほどなくして、和菓子や洋菓子の製造も開始しています。その後、欧米の先進機械設備導入など、技術革新を進めながら事業を拡大。皆さんご存知の「ヴィ・ド・フランス」や「デイリーヤマザキ」もその事例ですね。近年では、スポーツイベントスポンサーや国際援助活動といった社会活動も行う先駆けとして、業界の地位向上にも貢献しています。
既存商品の改良への取り組みや 徹底的な衛生・品質管理も特色
大きな特色として挙げられるのが、原材料の入荷から製造・販売までの徹底的な衛生・品質管理。そのため、「AIB国際検査統合基準※」を基にした食品安全管理システムの導入や、衛生管理の専門部門設置なども設置しています。また、新製品の開発だけでなく、既存商品の改良にも取り組み続けているのも特色です。だからこそ、幅広い世代に愛されるロングセラー商品が、多数生み出されているのかもしれませんね。
※AIB国際検査統合基準とは、American Institute of Baking(米国製パン研究所)が独自に作成したもので、アメリカやヨーロッパの食品安全衛生に関する法律や規則を基に構成された5つのカテゴリーによって、原材料の入荷から出荷までのすべての工程において、安全性を確保するための基準です。
<山崎製パン ホームページ>
https://www.yamazakipan.co.jp/
敷島製パン
「Pasco」というブランド名で知られている老舗のパンメーカーです。定番商品は「超熟」シリーズで、食パンは、業界で大きなシェアを誇ります。また、ロングセラーの「イングリッシュマフィン」も「超熟」シリーズの一つ。テレビCMを見て、“カリッとトーストして、玉子サラダと一緒に食べたい!”そう思った人も多かったのではないでしょうか。人気ブーランジェリー「PAUL」の日本展開を、グループ企業が行っていることでも知られています。
パンで民衆を救いたいと創業。さまざまな製パン法も開発
今から100年ほど前の1919年に盛田善平氏が、第一次世界大戦の影響で価格が高騰した米の代用食として、パン製造し民衆の窮地を救いたいと、名古屋に敷島製パン株式会社を設立し、翌年にドイツ人の製パン技師ハインリッヒ・フロインドリーブを迎えて創業しました。1924年には製パン業では画期的な研究室を創設。事業を拡大しながらさまざまな製パン法を開発していき、1998年には特許登録された「超熟製法」の食パンが誕生しました。
低糖質やロングライフブレッドなど 幅広いニーズに応えるパンづくり
「超熟製法」で小麦本来の甘みや香りを引き出した定番の「超熟」シリーズなど、商品自体に大きな特色があるのがPasco。独自ブレンドでおいしさはもちろん、食料自給率の向上につながるようにと誕生した「国産小麦」シリーズのほか、健康が気になる人向けの「低糖質」シリーズ、パネトーネ種を使い、長期間の日持ちとおいしさを兼ね備えたロングライフブレッドなど、さまざまなニーズに応えるパンづくりをしています。
<敷島製パン公式ホームページ>
https://www.pasconet.co.jp/
フジパン
90年以上、ひと味違うパンづくりを行ってきた名古屋発祥の老舗パンメーカー。最近では、テレビ番組で話題に上った「スペースアポロ」を、復刻販売したことでも注目を集めていました。また、20年以上プレゼントを続けている、ミッフィーグッズのイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。埼玉の工場内には、社員を対象とした知事認定の職業訓練校を設置し、パンのスペシャリスト育成にも力を注いでいます。
パン完全自動包装は国内初!現在は4つの部門を柱に事業展開
舟橋甚重氏が1922年に創業した、パン和洋菓子製造販売の「金城軒」がはじまり。終戦後は配給用パンの委託加工などを行い、1958年には国内初のパン完全自動包装を始めました。現在では、工場で製造したパンなどを店舗に卸す「ホールセール」、焼きたてパン屋を展開する「リテイル」、お店のメニュー用食材などを調達・配送するロジスティックス、コンビニなどのお弁当を製造配送する「デリカ」の4つの部門が柱となっています。
日本人が好む食感を追及した「本仕込」。店舗は製法の使い分けで焼きたてを提供
商品の特色は、やはり「本仕込」シリーズですね。飽きのこない味と香りを引き出し、日本人好みのもっちり食感を生み出すため、ストレート製法を採用しています。メーカーとしては、全国の量販店などで600店舗以上、ベーカリーを展開していること。新商品の開発はもちろん、粉からつくるスクラッチ製法や、冷凍生地からつくるベイク・オフ製法を使い分けて焼きたてを提供するなど、製法にもこだわっているのが特色です。
<フジパン公式ホームページ>
https://www.fujipan.co.jp/
神戸屋
2018年に100周年を迎えた神戸屋。スーパーなどでもパンを販売していますが、ベーカリーや、焼きたてパンのおいしい食べ方を提案する直営レストランもあるので、そちらもよく利用している、なんて人も多いかもしれませんね。クリームを包んだデニッシュ生地に、ケーキ生地をのせて焼き上げた「サンミー」が有名。3月31日はサンミーの日に制定されていますが、関西限定なのでほかでは食べられないのが残念ですね。
製パン法やパンの包装など 日本初の試みを数多く成功
創業者が神戸から大阪へ運んだパンを「神戸のパン」と販売していましたが、取引量が増えてきたため、大阪・福島に工場を建設。そこでパンを生産するようになった1918年がはじまりです。1928年には従来のホップス種ではなくイースト菌を使用した製パン法を、1939年にはパンの包装販売、1957年には国産パン自動包装機導入と、日本初の試みを数多く成功させながら事業展開をしてきたメーカーです。ちなみに、直営店1号店は、1936年にオープン。パンや料理を味わうのはもちろん、喫茶として人気になりました。
世界レベルの技術やテクノロジーで、小麦本来のおいしさを引き出すパンを
商品の特色はもっちりとした湯種製法のパンや、イーストフードや乳化剤無添加の、小麦本来のおいしさを引き出したパンがそろっていること。また、世界レベルの技術を持つパン職人が在籍しているのも特徴です。ベーカリー・ワールドカップ(クープ・デュ・モンド・ラ・ブーランジェリー)では、日本が初参加した1994年から選抜メンバーに選ばれ、2002年、2012年の総合優勝にも貢献。2020年も準優勝の好成績を収めています。一方で、コンピュータ管理する独自の生産ラインで、「職人レベルの技」を生み出すなど、テクノロジーによる生産にも力を入れています。
<神戸屋公式ホームページ>
https://www.kobeya.co.jp/
ドンク
創業から116年と、今回紹介する中ではいちばん歴史があるパンメーカーです。ドンクのみでも130店舗以上ありますが、「ミニワン」や「ジョアン」など、別ブランドの店舗も、国内外に多数展開していることでも知られています。
講習会で習ったパンに感動し、本格的にフランスパンづくり
初代藤井元治郎氏が、前身である「藤井パン」を開業したのは1905年。「ドンク」の名前になったのは1951年でした。フランスパンが商品の中心になるきっかけとなったのは、1954年に日本各地で開催されたフランス国立製粉学校教授のレイモン・カルヴェル氏の講習会。参加した三代目の藤井幸男氏が、その時のパンに感動し、本格的なフランスパンづくりを開始。1966年に東京・青山に出店した後、日本にフランスパンブームが巻き起こり、1970年の大阪万博出店で全国に「ドンク」の名が知られるようになりました。
時間と手間を惜しまず 最高品質のパンを届ける
フランスパンなどの販売だけでなく、ヨーロッパ伝統菓子の製造販売や、カフェ・レストランなど、幅広く事業展開しているのも特色ですが、「ドンク」が一番こだわっているのは、スクラッチベーカリースタイルです。粉から生地を仕込んで、成型して焼き上げるまでを、各店舗内で行っています。時間や手間がかかる方法ですが、新鮮で個性豊かな最高品質のパンを届けるために、大手ながら手間を惜しまずに毎日焼き上げているのが特色です。
<ドンク公式ホームページ>
http://www.donq.co.jp/
リョーユーパン
九州を基盤としているパンメーカー。テレビアニメにもなった人気漫画で登場した「マンハッタン」が、全国的に知られています。これは、発売から50年近く愛されているロングヒット商品で、季節限定バージョンなども登場する九州のご当地パンです。直営のベーカリーのほか、デリカ、幼稚園経営までと、関連会社が幅広い業界へ事業を展開。また、キャラクターの「リョーちゃん」は、文具や雑貨なども登場するほど人気です。
自動仕分け機導入で物流を効率的に!九州から中国・四国へも市場を拡大
グループの母体である「唐津糧友製パン株式会社」が、1950年に発足したのがはじまりです。1980年にグループ管理本部が福岡に置かれてからは、佐賀・山口・熊本と工場を増設。1991年には福岡工場に自動仕分け機を導入し、物流の効率化に成功。1994年には、別法人だった5社を合併して、「株式会社リョーユーパン」として発足しました。現在は九州のみならず、中国・四国地方へも市場を拡大しています。
自社ノウハウを生かしたシステムでパン屋さんの開業をサポート
自家製発酵種とパネトーネ種を使用した風味豊かな「超」のほかに、餡を巻き込んだものなど、バラエティ豊富な食パンもリョーユーの特色ですが、自社のノウハウを生かした「ベイクオフベーカリー」も大きな特色です。工場で半製品化した生地をお店に配送し、必要な時に解凍・発酵を経て焼成。誰でもプロのパンを再現でき、人員・スペース、そして、食品ロスも抑えられるシステムで、パン屋さんの開業を支援しています。
<リョーユーパン公式ホームページ>
https://www.ryoyupan.co.jp/
第3回は大手パンメーカーについて紹介しました。
大手パンメーカーについて知っていれば、店舗でパンを買う時に、商品により親しみを感じることができますね。今回の内容は、パンシェルジュ検定2級試験の時に、もう少し詳しい内容で学びます。まずは3級からの受験を目指す人でも、今回の内容は予備知識として、役に立つこと間違いなしです。
次回は「パンの材料を知ろう」。皆さんの好きなパンを作る時には、どんな材料が使われているのかご紹介しますので、次回もお楽しみに♪
大手パンメーカーなどパンの基本が学べる!パンシェルジュ検定
現在、「第26回パンシェルジュ検定」の申込を受付しています!
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※受験会場は受験票に記載されます。
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WRITER
辻 美穂