どんなパンでも、感動の切れ味。職人の手仕事が際立つ「曜YO-U パン切り包丁」
今秋、パンシェルジュ検定合格者特典として、パン切り包丁が登場しました。「曜YO-U パン切り包丁」は、「うねり刃(登録意匠)」と呼ばれるゆるやかに波うった刃と、手になじみやすい10角のハンドルが印象的。パンに吸い込まれるようなその切れ味は、一度体験すると忘れられない心地よさがあります。製造しているのは、刃物の名産地・岐阜県関市にある刃物メーカー・株式会社ヤクセル。同社の製造部次長・織部さん、製造部主任・日高さん、企画部部長・青木さん、そして国内営業部部長・山田さんにお話を伺いました。
──「曜YO-U パン切り包丁」開発のきっかけを教えてください。
山田さん(以下敬称略 山田)もともと弊社では海外向けに包丁を盛んにつくっており、好評を得ていました。せっかくとてもいい包丁を製造できる環境があるので、日本でもしっかり売っていきたい。そうした思いから、国内向けに洋包丁の最高級ブランド「曜-YOU-」を立ち上げ、2019年に「曜・パン切り包丁」を発売しました。
弊社では今まで、三徳包丁やペティナイフなどを長く作り続けてきました。「曜-YOU-」をヤクセルの最高級ブランドとして展開していくにあたり、一般的なギザギザのパン切り包丁ではなく、新しいことをやろうと思い開発に取り組んできました。
──パン切り包丁というと、ギザギザの刃のイメージでした。本品には「うねり刃」が使われていますね。
織部さん(以下敬称略 織部)一般的なパン切り包丁のようなギザギザの刃ですと、前後に動かして切るしかありません。ノコギリを想像していただくと分かりやすいのですが、往復して切ると、波に入ったところのパンがボロボロと崩れてしまいます。パンくずが出るとフードロスに繋がりますし、切断面もガタガタであまり見た目がよろしくない。そこで少しでも切りくずが出ない、切断面がきれいなパン切り包丁が作れないか?を目指して開発しました。
最近は、ふわふわもちもちのパンが多いですよね。買ったばかりの包丁なら、パン切り包丁でなくても切れるんですが、直刃だと切れ味が持続しづらい。また、ご家庭では使うたびに包丁を研ぎ直すというのはなかなか難しい。そこで少しでも切れ味を継続させるために考えられたのが「うねり刃」です。万能包丁に少し波を与えると、波状になった刃の谷の部分はまな板やシンクの中で当たることが少なくなります。こうすることで、切れ味を持続することが出来るんです。切れ味を少しでも持続させるために、あえてこういう風に大きい波を作っています。
──本品は、2022年にリニューアルしたと聞きました。どのような点が改良されたのでしょうか。
山田 「曜・パン切り包丁」は刃渡りが23cmあり、結構長めだったんです。ご家庭のキッチンでより使いやすいもの、軽いものが欲しいというお声をいただき、刃渡りを20cmに変更し、包丁の刃とハンドルとをつなぐ「口金」をなくすことで軽量化しました。「うねり刃」の切れ味はそのままに、より使いやすくなったと思います。
──リニューアルにあたって、いちばん苦労したところはどこですか。
山田 コンパクトにしようということでスタートしたリニューアルですが、単純に小さく・軽くするだけでは、狙い通りの切れ味にならないという悩みがありました。本体をよく見ていただくと分かるのですが、「曜YO-U パン切り包丁」の刃の先端は少し波が細かく、刃元に行くと緩やかになっています。ここの設計をいちから見直しました。
青木さん(以下敬称略 青木)具体的には、うねり刃のカーブの設計に苦労しました。板厚、焼き入れ方法、刃付け方法など、様々な要素が組み合わさり、何度も試作とテストを繰り返すことで、最終的にこの形状にたどり着くことが出来ました。
山田 3Dプリンターなどを使い、かなりたくさんの種類の型を抜いてもらいました。また、ハンドル部分も大きさ・長さを考えて、重さのバランスをとるようにしました。
──持ち手部分は、リニューアルにあたり10角ハンドルへ形状を変えられたんですよね。
青木 この10角ハンドルのデザインは、和包丁のハンドルをモチーフにし、シンプルで手に馴染むデザインを追求しました。
織部 出刃包丁や刺身包丁といったものが和包丁にあたるのですが、これらの特徴というのは、円い柄に刃が挿してあることです。一方で洋包丁には、刃と柄を繋ぐ「口金」があります。これが和包丁と洋包丁の大きな違いです。
青木 軽量でありながら、優れた切れ味を持つパン切り包丁を実現するため、ハンドル素材には金属パーツを使用せず、精密に削り出した2種類の積層強化木のみを用いています。さらにテーブルに置いた時の安定感も考慮しました。
山田 デザイン性も高く、機能美を兼ね備えたつくりになっています。
──ほとんどの工程で、職人の手を使って作っているとお聞きしました。1本を作るのにどのくらいの時間がかかるのでしょうか。
織部 時間で言いますと、他の製品も作りながらではありますが、大体3ヶ月から4ヶ月というところが大まかな目安です。
日高さん(以下敬称略 日高)砥石を使って一本ずつ刃付けをしているのですが、前シリーズのパン切り包丁からリニューアルする際に、主に刃付け業務を担当している自分からすると「やめてください」というのが正直なところだったんです。(笑)
一同 (笑)
日高 やっぱりそれだけ、波形の刃をつけるのは、他の包丁と比べて手間がかかっているんですね。それでも使ってみると、よく切れると自分でも実感しています。また、そうした声をお客様から聞くと、これは頑張ってやるしかないなと。
山田 真っ直ぐの刃をつけるのと、かかる時間も違うんじゃないですか。
日高 だいぶ違いますね。先ほども話がありましたが、刃先と刃元で波の大きさが違います。それに沿って包丁を動かすので結構神経を使いますし、真っ直ぐの刃のときと比べ、2倍から3倍ほど時間がかかります。 大変ではありますけど、それだけお客様に喜んで貰えればと思って作っています。
──包丁の切れ味や品質を保持するために、どのように取り組まれているのでしょうか。
織部 毎日生産に携わっている私ども職人ですと、刃を平気で触れるようになり、手で触ることでどれぐらい尖っているかな、と切れ味などを確認することができます。それから髪の毛で確認することもあります。後頭部に垂直に当てると、刃が髪に引っかかるんですね。刃が入る瞬間に髪の毛が引っ張られ、地肌が引かれる感覚があります。この刃の食いつき具合で判断します。
人によっては、爪の上に包丁を置いて確認することもあります。包丁の重心だけで横に動かしますと、切れない部分は滑るのですが、刃の付いている切れる部分は、動かそうと思っても、爪に食い込んでしまって動かない。切れ味が少しでも悪くなると、食いつきがなくなるので滑ってしまう、というように判断しています。
また刃物メーカーでは、「切れ味試験機」というもので切れ味を計測しています。何枚も重ねられた油取り紙のような薄い試験紙に、決められた重量で荷重を加え、決められた距離を往復することによって、それが何枚切れるか?ということで、数値を出します。ちなみに、関市の刃物メーカーはどこも同じ機械を使っていまして、共通する条件のもとで数字が出るようになっています。
山田 この試験機がひとつの目安になっていて、弊社では他社の同価格帯の包丁と比べて、プラス20枚から50枚ぐらいは多く切れることを目指すというのを基準に作ってもらっています。
──私も実際に使ってみましたが、今まで使っていたパン切り包丁に比べ切れ味がとてもよく驚きました。必要以上に前後に刃を動かして切らなくていい。刃が自然にパンに沈んでいくということを実感しました。実際、お客様の声はいかがでしょうか。
山田 おっしゃっていただいたとおり、切ったときの驚きはとても感じていただいています。手前味噌ではあるのですが、弊社の包丁はすごくよく切れます。パンに対して刃の入り方がガリガリというような抵抗ではなくて、ちょっと刃先が入るとスッと落ちていくという感じには本当に驚いていただけると思います。
また、ご家庭でメンテナンスができるということも、好評の声をいただいています。一般的な包丁と同じ直刃なので、シャープナーで研ぎ直すことが可能です。
「曜YO-U パン切り包丁」は決して安い包丁ではありません。家にある今までの包丁と比べて「まぁこんなもんか」というレベルでは満足していただけないと思っています。「おっ!他のものとは違うね」と思ってもらう商品づくりを大事にしています。
正直に言うと、他のメーカーではこうした包丁はなかなか作れないのではないかと思います。製造部門がしっかりあって、企画部門とコミュニケーションが取れていて、そこで織部さん・日高さん・青木さんを始め、みなさん方に頭をひねってもらい、技術を駆使して開発されました。そうした上に立っているパン切り包丁であるのは間違いないですね。この場をお借りしてみなさんにお礼を言いたいと思います。本当にありがとうございます。
各部門の知識と経験を結集させたからこそ生まれた「曜YO-U パン切り包丁」。驚きと感動の切れ味を、ぜひあなたのお気に入りのパンで試してみては。
■株式会社ヤクセル
- 公式オンラインストア
- https://yaxell-store.com/
■パンシェルジュ検定
- パンシェルジュ検定公式サイト
- https://www.kentei-uketsuke.com/pancierge/
- 合格者限定グッズ オンラインストア
- https://ec.kentei-uketsuke.com/i/4500652-PANS-N-0001