絵本作家 柴田ケイコさんインタビュー。20万部突破の大ヒット絵本『パンどろぼう』ができるまで
『パンどろぼう』は、今、子どもたちを虜にしている絵本です。2020年4月に発売して以来、シュールなキャラクターや、盗んだパンがまずいという意表をつくストーリーが大人気。2021年2月には20万部を突破しました。2021年1月には待望の第二弾『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』を発売された作者の柴田ケイコさんに、絵本ができるまでや登場するパンのことまでお話しいただきました。
※『パンどろぼう』を読んだことがある方向けのインタビューです。一部、ネタバレも含んでいます。
柴田ケイコさん
高知県在住のイラストレーター、絵本作家。『パンどろぼう』(KADOKAWA)が第11回リブロ絵本大賞、第1回TSUTAYAえほん大賞、第13回MOE絵本屋さん大賞2020第2位となる。他に「しろくま」シリーズ(PHP研究所)など。
どろぼうの正体を隠すため、パンで全身をすっぽり
──パンを被ってパン屋さんからパンを盗む「パンどろぼう」が主人公というストーリーはどうやって生まれたんですか?
私が名刺に使っているイラストを「これおもしろいですね」と編集者さんに言っていただいたんです。頭にパンを被った2匹のしろくまを描いたものです。そのイラストの作品名が「パンどろぼう」でした。
──それからどのように1作目の絵本が出来上がったのでしょうか?
絵本を作るときは、まずキャラクターとプロット(物語のすじ)を考えます。主人公のキャラクターは、まずクマ、そしてサルの案がありました。クマやサルのときには、頭にだけパンを被っている姿を考えていました。サルだったら、木を伝って逃げていくサルをパン屋のおじさんが追いかけるというシンプルなストーリーです。
あるとき、犯人が読者からは見えないほうがいいかなと思ったんです。どろぼうの覆面は正体がバレないようにするためです。でも、どうぶつは顔を隠しただけでは、なにものかバレてしまって、どろぼう感がありません。読んでいくうちに「犯人はこの子だったんだ!」と分かる方がおもしろいだろうと思いました。
それで、パンにすっぽり入る大きさの動物がいいなと考えました。ネズミには、昔からお米を盗むイメージもあるし、雑食だし、小さくていたずらっぽい。足も速い。ピッタリだ!と思ってネズミがパンどろぼうに決まりました。
ストーリーを決めたのはパンが「まずい」という衝撃の展開
キャラクター設定とプロットに1年、ラフ(画面構成の下書き)にさらに1年かかりました。プロットを考えているうちに、パンどろぼうが盗んだパンを食べると「まずい」という展開が決まって、そのときはフィット感がありました。こんなにカチッとハマることは、なかなかありません。今でも奇跡だと思います。
──「まずい」という予想外の展開から、そのあとのストーリーが固まったんですね。
普通は、盗んだパンがおいしいだろうと予想します。その期待を裏切りたかったんです。そしてパンがまずかったら、パンどろぼうはきっとパン屋に戻るだろうと思いました。そうすると最後までストーリーがうまくいきます。
──「パンどろぼう」は目がとても印象的です。ときどき悪い目もしたり、ニコニコと清らかな表情をしたりします。
本当に悪い目ですよね。どろぼうは悪い目をしているものですし、かわいいとインパクトもどろぼう感もありません。それぞれの場面で表情を変えていきたいとも考えていました。しれっと隠れる場面はしれっとした目、盗んでわーっと逃げているところは喜んでいる顔に。
どろぼうなんだけど、憎めない感じも出したかったんです。読んだ人から「こいつ悪い顔しているけど、なんか憎めないな」と思われるように。
それにパンどろぼうくんはパンが大好きなんです。だからパンへの愛情を表現している場面はかわいい感じに描きました。どんな悪い人でも、好きなものに対しては素直でかわいい一面があるんじゃないかなと思います。
──パンどろぼうの部屋にはパングッズがたくさんあります。ソファも冷蔵庫も時計も、植木までパンですね。
最初はこんなにたくさんパンのグッズを置いていませんでした。深く考えた訳ではありませんが、パンの形は他のものに描きやすいこともあって、この子だったら、部屋にこんなものを置くだろうなと考えて追加していきました。そうすることで、文章で起こさなくても、キャラクターの性格や本当にパンが好きだということを読む人に見せることができます。
世界をまたにかけた大泥棒は高知にも出没?!
──2021年に発売された第2弾『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』の中で、柴田先生のお住まい、高知県のご当地パン「ぼうしぱん」を発見しました。パンどろぼうのパン屋さんに並んでいます。
パンどろぼうは世界中でパンをどろぼうしていた設定で、高知にも来ていただきました! 高知ではいろんなパン屋さんでぼうしパンを作っていますが、それぞれ味や特徴が違います。モデルにしたのは、私のお友達のパン屋さんが作っているリボン付きのぼうしパンです。つまりパンどろぼうくんは私のお友達のパン屋さんで、ぼうしパンを盗んだということです。
そのパン屋さんには、厨房でパンを作っているところを見せてもらいました。第1弾の『パンどろぼう』で、パンどろぼうが「にゅーっと こねこね」しながらパンを作る場面に登場する、はかりやパンを切る道具は取材に基づいています。
──パンどろぼうがパンを「にゅーっと こねこね」するところが、とても楽しくて、何度も声に出したくなります。
パンをこねるときに、「にゅーっと こねこね」という音が本当にするかという話になりました。担当編集者さんが「私、確認してきます!」とパン教室に行って試してくれて、それでこの「にゅーっと こねこね」という表現を使うことが決定しました。
──柴田先生の絵本は『パンどろぼう』に限らず「しろくまくん」シリーズでも色々な食べ物が登場しますね。
『パンどろぼう』ではパン屋さんで子どもが選びそうなパンをイメージしてパンを描きました。『しろくまくん』シリーズは、子どもに馴染みがある食べ物を前提にして選んでいます。お母さんが作れるメニューかどうかもポイントにしています。
──柴田先生ご自身の思い出のパンはありますか?
小さいころ、フレンチトーストを焼いてもらった記憶があります。お母さんが忙しかったら自分でも焼いていました。今もフレンチトーストは大好きで、息子たちにも焼くことがあります。フレンチトーストも絵本の中で今後商品として並べることもあるかもしれませんね。
──ファン待望の第2弾『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』もすでに大人気です。ストーリーのポイントを教えてください。
『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』では、にせパンどろぼうくんが登場して事件が起こります。1作目ではどろぼうをしていたパンどろぼうくんが更生してパン職人になりました。パン屋のおじさんに優しく諭されたパンどろぼうくんが今度は教えてあげる側になります。
「ぱんてな」の読者のみなさんも、お子さんと一緒でも、もちろんおひとりでも読んで楽しんでいただけたらと思います。そして読み終わったら、パンが食べたくなってくれたら万々歳です。子どもたちには、ぶどうパンはあまり人気がないようですが、本をきっかけにぶどうパンにチャレンジしてもらえたらうれしいです。
個人的には第2弾で描きたかったのは、私の大好きなぶどうパンを使った「かくれみのじゅつ」です。まず浮かんだのが、パンどろぼうくんがぶどうパンを被ってダンボールに座る場面なので注目してください。