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パンにようかん!? 京都の老舗「亀屋良長」で「スライスようかん」が生まれた理由
開発物語

パンにようかん!? 京都の老舗「亀屋良長」で「スライスようかん」が生まれた理由

野崎 さおり
野崎 さおり

今、アレンジトーストが大人気。忙しい朝は手間なくおいしいアレンジができたらいいですよね。そんななか話題になっているのが、創業から210年以上続く老舗和菓子店「亀屋良長」の「スライスようかん」です。ようかんをパンにのせてトーストするという、これまでになかったアイデアが生まれた背景など、発案と商品化を担当された8代目女将、吉村由依子さんに伺いました。

きっかけは、スライスチーズのように簡単にあんこをパンにのせたいと思ったこと

──京都の老舗和菓子さんである「亀屋良長」について、改めて教えてください。

創業は享和3(1803)年で、主人が8代目で社長をしています。代表銘菓は「烏羽玉」という黒糖を使った餡玉のお菓子で、創業から200年以上ずっと作っています。

亀屋良長 8代目女将 吉村由依子さん

「スライスようかん」を開発した「亀屋良長」 8代目女将 吉村由依子さん。

──吉村さんご自身は結婚されてから「亀屋良長」に関わられるようになったのですよね。

2001年に結婚した時は、店のことは手伝わないという約束でした。主人もその方がいいと言っていたのですが、2年ほど経って、時間もあったので、ちょっとだけ手伝うことになりました。

まずは勉強をということで、京都の和菓子屋さんの組合がやっている京都府菓子技術専門学校に。そこで、和菓子の基本的な知識や実技を学んでみたら、和菓子がすごくおもしろいと思ったんです。

私は大学で食物栄養科学を専攻した後、フランスに留学してフランス料理を学びました。和菓子には洋菓子やフランス料理とも共通する部分があるとわかりましたし、大学で学んだ調理科学の視点からみたおもしろさ、それから和菓子ならではのやり方にも新鮮さがあって、どんどん興味が沸きました。

そして、そのころ会社の経営もうまくいっていないということがわかって、「これはいかん」と商品開発を少しずつ手がけるようになりました。

亀屋良長 スライスようかん

「スライスようかん【小倉バター】」540円。

──「スライスようかん」のアイデアは、どんなときに生まれたのでしょうか?

2018年6月に自宅であん炊きを試していたんです。そしたらあんこが大好きな次男に、朝ごはんはトーストにあんこを塗ってほしいというリクエストを受けました。一方で、長男は甘いものをあまり食べないので、スライスチーズをのせてほしい、と。スライスチーズはのせて焼くだけで、すごい楽!それなのに次男のあんこはうまく塗れなくて、めんどくさいと思ってしまったんです。

それで、スライスチーズみたいにパッとのせるだけのあんこはどうかな、ようかんをスライスしたらいけるかな、と思いました。そのときは、そんなものを欲しがる人はいないだろうと、商品化までは考えていませんでした。

その後、取引先の百貨店から「秋にあんこの催事をするから、あんこを使った変わった商品があったら教えてほしい」という声がかかったんです。それで、ようかんのスライスをやってみたらどうかなと思って、催事に合わせて商品化しました。その催事ではそんなにたくさんは売れませんでしたが、百貨店のバイヤーさんが気に入ってくれたこともあって、「やってよかったね」という感想でした。

当初は小倉とさつまいも、ラズベリーの3種類のようかんをスライスし、3枚を1袋に入れて販売していました。私がいろんな味を食べたいほうなので、そのほうがお客さんも喜んでくれるかなと思ったのですが、「小倉だけはないの?」「小倉だけだったら買いたい」という声がありました。小倉だけでいいなら、その方がこっちも楽だなあ、と(笑)。でも小倉だけではちょっと、ということで、バターようかんをのせる製品に変更しました。それが翌年、2019年3月のことで、そのときから売れ始めました。

亀屋良長 スライスようかん

「スライスようかん」は1枚ずつフィルムに挟まれているので、手が汚れません。

──小倉ようかんにのっているバターようかんの塩加減と、バターの風味がおいしさのポイントになっていますね。バターのようかんというのも新鮮です。

うちでバターでようかんを作るのは初めてでしたが、1回目の試作でなかなかいいものができました。それから塩味を効かせて、バターの風味を残すように調整しました。たまたま食パンブームも盛り上がっていて、トーストをアレンジする方も多くなったことも人気が出た背景でしょうね。

こだわりは、おいしい小豆とようかんの厚み、手が汚れないこと

──他に「スライスようかん」を作るにあたって、こだわったポイントはありますか?

材料に丹波大納言小豆というおいしい小豆を使っています。

「スライスようかん」は自宅で食べる普段使いのものなので、初めは廉価な北海道産の小豆で手頃な値段にしようかと思っていました。ところが、社長が食べ比べて「多少高くてもおいしいものを作る方がいい」というので、小豆の香りが高い丹波大納言小豆を選びました。

次に2.5ミリという厚みです。この厚みはトーストしたときに、パンが焼けるのと同時にようかんがとろけて、パンに密着するように調整しました。

それから、パンにのせるときに手が汚れないようにも工夫しました。ようかんを固めるのは寒天ですが、切ると寒天の組織がつぶれて、水分が出てしまうことがあります。そうすると包装もねちょねちょになって、手を洗わないといけません。それは私も嫌なので、水分が出にくい配合に変更しました。包装もフィルムを裏側から剥がすとパンにさっとのせられるようにしてあります。

店のインスタグラムでは、アレンジレシピも紹介しています。「スライスようかん」はシート状なので、お手持ちの型で抜いたりして、かわいくデコレーションも楽しんでいただけたらと思います。

古いお客さんにも受け入れられた老舗和菓子店の新しいチャレンジ

──伝統を守ってきた老舗で新しい挑戦をするのは、難しそうなイメージがあります。新しい取り組みについて、職人さんたちの反応はいかがでしたか?

今、働いている職人さんは、新しいことに取り組む和菓子屋だと思って入社した人が多いので、柔軟に対応してくれます。ただ、私が最初に考えた「宝入船(懐中しるこ)」を作った18年ほど前は、昔からのベテラン職人さんばかりでした。私がこうしてほしいと言っても、なかなか。それでもなんとか作ってもらった「宝入船(懐中しるこ)」が思ったより売れたので、少しずつ話を聞いてもらえるようになりました。

亀屋良長 スライスようかん

ようかんは、1枚1枚、2.5ミリの厚みに切られています。

──「スライスようかん」がヒットして、お店のお客さんに変化はありましたか?

「スライスようかん」が、多いときでひと月に8000袋も売れるヒット商品になってびっくりしています。男性のお客様が増えて、年齢層も幅広く買いにきてくださるのはうれしいことです。「スライスようかん」も含めて、新しいことをすると常連さんが離れてしまうのではないかと心配していたのですが、そんなことはなく、応援してくださるお客様が多いのでありがたく思っています。

亀屋良長 スライスようかん

トースターで焼くと、ようかんがグツグツと沸いて、とろり。

これまで和菓子屋に来られるのは、年配の女性が圧倒的でした。やはり若い方は、洋菓子を好まれる方が多いです。私も結婚する前には和菓子を買うことはほとんどありませんでしたが、今思えばおいしいあんこを食べたことがなかったのだと思います。

和菓子には日本人の豊かな感性が凝縮されていると思います。五感で食べるものだと言われる意味や、この日にこのお菓子を、どんな思いで食べるという慣習などもわかってくると、とてもおもしろいものです。

残念なことに和菓子業界は縮小していますが、そういったおもしろさが知られないまま、なくなってしまうのは惜しいなと思います。「スライスようかん」を見て「なに、これ?」と興味を持ってもらい、それを入り口にして、京都にたくさんある和菓子とその奥深さに興味を持ってもらえたらうれしいです。

伝統のある京都の和菓子屋さんが生み出した和菓子のおいしさをパンと一緒に味わえる「スライスようかん」。お取り寄せもできるので、甘いものが好きな方は是非トライしてみてくださいね。

亀屋良長
https://kameya-yoshinaga.com

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WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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