パンをビールにアップサイクル。六本木「bricolage bread & co.」のパンの耳を使ったクラフトビール「BREAD」
東京・六本木にある「ブリコラージュ ブレッド&カンパニー(以下ブリコラージュ)」は、ミシュランガイドの常連「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ、生江史伸さんのお店。カジュアルにおいしいパンや料理が食べられますが、その「ブリコラージュ」のパンを使って作ったビールがあります。その名も「BREAD」。どこかパンの風味を感じる「BREAD」を醸造する「Anglo Japanese Brewing Company(アングロジャパニーズブルーウィングカンパニー、以下AJB)」の代表、リヴシー絵美子さんにおいしさの秘密を伺いました。
長野県野沢温泉で特徴的なクラフトビールを作るAJB
──絵美子さんとトーマスさんご夫妻のブルワリー、AJBは長野県野沢温泉にありますが、どんなブルワリーなのでしょうか?
夫のトーマスと野沢温泉に2人で移住してきたのが2012年です。最初はスーツケースだけで身軽に移住してきましたが、1年ほどたったあるとき、温泉に入った後においしいビールが飲みたいねという話になったんです。野沢温泉ならおいしい湧き水もあるから、ビールを作れないか調べてみようと、唐突に動き出しました。
トーマスはペールエールやIPAというクラフトビールの発祥地、イギリスのダービーシャーの出身で、ビール工場で働いた経験がありました。そのおかげで話はスピーディーに進んで、2014年には300リットルの醸造施設のあるビアパブを始め、2017年には2500リットルのタンクを持つ工場になりました。クラフトビールのファンの間では、酸味のあるサワービールなど、特徴のあるビールが得意なブルワリーだと認識されています。
AJBの個性的なビールに星ツキシェフも納得。3者で始めたプロジェクト「BREAD」
──「BREAD」が最初に発売されたのは2019年ですね。どんな経緯があったのでしょうか?
「BREAD」のプロジェクトは東京・六本木にある「ブリコラージュ」、社団法人530week、そしてAJBの3者で一緒にやっています。
私たちが関わる前から、530weekの中村元気さんは、「ブリコラージュ」の生江シェフと「ブリコラージュブレッド」のオープンサンドで残った耳を使う方法を一緒に考えていました。そんなときに中村さんがAJBのビールを知って、私たちと生江シェフを繋いでくれました。
生江シェフは環境に配慮したお店作りに力を入れていますが、最初は本当においしいビールができるのかとブレッドビールに懐疑的だったようです。生江シェフに最初に会った2017年秋に、AJBの代表的なサワービールや柿樽熟成のビールを飲んでもらったところ、とても気に入ってくれたのでプロジェクトをスタートさせることができました。
パンの特徴を感じる味を目指して鍵になったのは、あの古代小麦
──商品化にあたって、どんな点が大変だったのでしょうか?
最初の1年間に3回のテストバッチ、つまり試作を行いました。まず課題となったのがパンをどういう形で入れるか、納品してもらうか、ということです。初回はパンの耳が冷凍されていて、そのまま入れたところ、タンクが詰まりやすくなるなど、うまく仕込めませんでした。反対に全て粉にしてしまうと、澱粉質が出過ぎてしまいます。
最終的には、小さく切ってオーブンで焼いてカリカリのクルトン状にしたパンの耳を受け取って、それを仕込んでいます。クルトン状だと仕込みやすいだけでなく、日持ちもするし、パンの香ばしさも出やすくなりました。
実は1度目の試作でも、生江シェフにはおいしいと言ってもらえました。いちばんの信頼を置く生江シェフからの言葉はうれしかったのですが、私たちはもう少しおいしくしたいと考えました。他の副材料を入れるときもそうなのですが、「BREAD」はパンを入れたビールなのだから、パンが入っているからおいしいと思える味を目指そうとしたのです。
──「BREAD」を飲んでみたら、ちょっとピリっとした風味を感じます。パンが入っていることと関係がありますか?
「BREAD」のピリッとした味は、ちょっとした秘訣があります。注目したのが「ブリコラージュブレッド」の材料です。
「ブリコラージュブレッド」には、ライ麦、古代小麦の一種のスペルト小麦、そして国産小麦が使われています。一方、ビールの主な材料は麦を発芽させた麦芽と小麦です。この麦芽の一部を、ライ麦とスペルト小麦のものにして配分を増やしました。ほとんどの人がピリッとした味を感じるのは、このライ麦の麦芽のせいなんです。
パンを配合する量も、たくさん入れれば入れるほどパンの風味が出るわけではないので、全体の5%ほどに調整しています。
今のレシピで作ったビールを飲んだ生江シェフも「これはうまい、いける」と言ってくれて、それはとても強く印象に残っています。
── 一度の仕込みで、どのぐらいの量のブリコラージュブレッドの耳を使うのでしょうか?
一度に仕込む2500リットルに対して50kgほどです。ブリコラージュさんから50kgほどパンが溜まったら連絡をもらいます。それで仕込みのスケジュールを立てて、他の用事と合わせて私たちが東京で受け取るようにしていました。このプロジェクトそのものが「無駄をなくすこと」や「アップサイクル」がコンセプトなので、送料を払うことや、余分なエネルギーを使わないようにと考えています。今もパンを単体で送ってもらうことは、なるべくしないようにしています。
アップサイクルなクラフトビール「BREAD」が広げる新しい循環
──パン好きとしては「BREAD」をパンと合わせてみたいと思います。おすすめはありますか?
白いラベルの「BREAD」は、ピリッとしたライ麦の風味が特徴です。アルコール度数も4.5%と高くなく、軽い口当たりが楽しめます。「ブリコラージュ」のレストランではオープンサンドと合わせていますが、やはりサンドイッチと相性がいいと思います。
黒いラベルの「BREAD BARREL AGED BARLEY WINE」は、芳醇なナチュラルワインのような味わいです。アルコール度数も9%あります。カンパーニュのようなしっかりした味わいのパンに、パテのようにクリーミーな肉をのせたものが合うと思いますよ。
クラフトビールをあまり飲んだことがない方は白い「BREAD」の方を最初に試してみていただきたいですね。パンが好きなみなさんにも、そこからクラフトビールに興味を持ってもらえたらうれしいです。
──今後「BREAD」はどんな展開が予定されていますか?
「BREAD」は最初からシリーズ化を考えていました。今販売している白いラベルの「BREAD」は定番商品です。黒いラベルの「BREAD BARREL AGED BARLEY WINE」は、木樽のなかで長期熟成させた一度だけの商品なんです。今後はAJBが強みにしているサワービールタイプや、商品にならなかったフルーツを使うなど、アップサイクルのコンセプトに合ったビールができないかなどと考えているところです。
私たちが大切に思っているのは、「BREAD」をきっかけに、たくさんの人にフードロスやアップサイクルについて考えてもらうことです。だから、他のブルワリーがロスになったパンを使ってビールを作ってもいいし、私たちが「ブリコラージュ」以外のパンを使って醸造することもありだと話しています。実際にレシピを教えて欲しいという問い合わせもあるので、近いうちに同じような取り組みがもっと広がっていくのかもしれません。
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AJBではブリコラージュブレッドの耳を使ったビール作り以外にも、醸造後に出る麦芽のカスを牛の餌にしたり、地元の休耕地だった場所で育った小麦を使ったりするなど、環境や循環に配慮した活動を行なっています。現在は瓶入りで販売していますが、今後はリサイクル率が高いアルミ缶に切り替えていく予定だそうです。
SDGs=持続可能な開発目標という言葉がさまざまなメディアやSNSなどで取り上げられることが増えてきました。パン好きとしても、身近なところでできることを探していきたいものですね。
- Anglo Japanese Brewing Company(ABJ)
https://anglojapanesebeer.com - 530WEEK
https://530week.com - ブリコラージュ ブレッド&カンパニー
https://bricolageBREAD.com