ふかふかが続く!福岡の老舗桐箱メーカー「増田桐箱店」が作った「パン箱」
ぱんてなの記事「8割以上が不満ありと回答!冷凍した食パンをおいしく食べるコツとは?」にあるように、パン好きさんの多くが「パンの保存方法」にいろいろと思うところがあるのではないでしょうか。そんなパン好きさんならきっと気になる桐製の「パン箱」があります。製造販売している福岡県の桐箱メーカー「増田桐箱店」の代表取締役社長 藤井博文さんに、開発の経緯と桐のパン箱の特徴を伺いました。
おいしいパンをおいしいまま保存できる箱があったらきっと喜ばれる
──まず「増田桐箱店」について教えてください。
昭和4(1929)年福岡市で僕の曽祖父が創業しました。祖父が2代目を継いで、僕は3代目です。当社の桐箱はオーダーメードで作ることも多く、人間国宝に認定された陶器や漆などの作家さんからも注文を受けています。もちろんお菓子やお酒など、贈答品に使われる箱もひとつひとつ手作業で作っています。
──そんな「増田桐箱店」で、パンを入れる桐箱が生まれたのはどうしてでしょうか?
「パン箱」が誕生したのは2020年春です。コロナ禍でデパートは閉まるし、結婚式や会社の記念行事といった桐箱が使われる機会も軒並み減ってしまいました。こんなときこそ新しい商品をと思っていたところ、おうち時間にパンを焼くことを楽しむ人が増えたとか、パンを買うときにも1斤ではなく1.5斤や2斤とまとめ買いする人が多くなったという話が聞こえてきました。せっかくのおいしいパンをおいしいまま保存できるものがあると喜んでもらえるのでは? と思ったのが直接的な理由です。
理由はもうひとつありました。お菓子やお酒などを入れたギフトに使う桐箱は、中身を消費したあとは捨てられてしまうことがほとんどです。結構頑丈に作っているので、受け取ったあとも繰り返し使ってもらえる桐箱があったらいいな、という気持ちがありました。
──確かに作ったパンをプレゼントしたり、手土産にパンを持っていくパン好きは多いと思います。
高級なパンや手作りのパンも「パン箱」に入れると、お中元のようなギフトとして贈ることができると思います。そうすると、中のパンを食べたあとも、またパンを入れて使ってもらえる。さらに桐が食品保存に向いていることも伝わるはずだ、と思いました。
大切なものを保存するのに適した桐箱
──そもそも桐箱がパンの保存に適しているのはどうしてなのでしょうか?
まず桐には調湿効果があるんです。箱内部の湿度を一定に保ってくれるので、パンのふかふかが続きます。
そして桐に防虫効果があることはよく知られています。食品を虫から守るのにはぴったりです。これはパン箱だけでなく米櫃にも向いている理由ですね。
それから桐は香りが強くないので、中に入れたものの香りも邪魔しません。例えば杉は香りもいいですが、中に入れた商品に匂いが移ってしまう可能性もあります。パンのいい香りも続いてほしいですよね。
桐は日本にある木材の中でいちばん比重が軽いんです。軽くて扱いやすいので、お米やパンなど、日常的に出し入れする食べ物を入れるのには向いていると思います。
──パン箱は1.5斤用と2斤用のサイズがありますね。サイズはどのように決めたのでしょうか?
試作品をいくつも作ってみました。パンもメーカーごとにいろんな形状があって、この会社の食パンは背が高いな、などと言いながら微調整をした結果、高さは約170mmに。
容量も、食パンよりもひとまわり大きくしました。これはパンに限らず台所周りの食品、調味料や煎餅、食べかけのポテトチップスなども入れてもらえるといいなと思ったからです。
──蓋は持ち上げて開けるようになっていますね。
蓋も何度も実験して、ぽこっと垂直に開けるタイプにしました。「パン箱」は機密性が高すぎるとパンの湿度を桐が全て吸収してしまうことがわかりました。だからきっちり閉まるよりも、少しゆるい蓋の方がパンの箱に適していることがわかりました。蓋や隙間の形状で4回ほど試しましたが、今の形状がいちばんパンのふかふかを長く保てます。
──蓋には平たい紐がついていますが、これにも理由があるんでしょうか?
この紐は真田紐と言います。よくお茶の道具を入れる箱に十字に結んで使われるものです。紐を付けたのは、パン箱を開ける動作を考えたとき、両手より片手の方が開けやすいだろうと考えたからです。置き場所は電子レンジ用のラックを想定しました。ラックからいちいち取り出して、蓋を開けて、パンを取り出して、また箱を戻すよりは、真田紐を持って上に持ち上げると、中のパンをもう一方の手で取り出すことができますよね。ここは結構、こだわりました。
高級感のある桐の箱を、身近に感じてもらえる価格と作り方を追求
──桐箱というと、高級なイメージがあります。でも1.5斤サイズは2,500円。思ったより手頃な値段ですね。
桐といえば桐ダンスを思い浮かべる方も多いかもしれませんね。他にも秀吉が桐の家紋を使ったり、今も日本政府や首相官邸に桐の紋章が使われて、高貴な木材とされてきました。でも僕たちは身近な木材として、多くの人に手に取ってもらいたいという気持ちがあります。
いくらぐらいなら身近に感じてもらえるだろうと考えたときに、やはりギフトとしての値段を考えました。800円から900円ほどの高級食パンを入れて、全部で3,500円ぐらいならどうだろう、と。それで2,500円という価格を目指しました。この価格の実現のためには、桐箱屋として作りやすいこと、材料の無駄が出ないサイズにすることを考慮した結果、2,500円という値段を実現することができました。実際に福岡市天神の「西鉄グランドホテル」にあるパン屋さん「ル プティパレ」で、パンと一緒にギフトとして販売してもらっています。
──繰り返し使えるように工夫したことはありますか?
お酒やお菓子の箱に使うのは6mmの板ですが、パン箱にはそれよりひとまわり厚みのある7.5mmの板を使っています。1.5斤サイズは440gしかなく、軽くて扱いやすいですが、耐久性もあるように工夫しました。
──最後にぱんてなの読者にメッセージをお願いします。
パン屋さんも自宅でパンを手作りする人も、作ったパンを最後までおいしく食べてもらいたいと思っているだろうと思います。桐のパン箱に入れてもらうと、パンのふかふかしたおいしさを長く保つお手伝いができるので、ぜひ使ってみていただけたらと思います。もし手作りのパンやお菓子をぴったりの桐箱に入れてギフトにしたい方がいらっしゃったら、ご相談にのることもできますよ。
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実際に手に持ってみると、増田桐箱店の桐のパン箱はびっくりするほど軽くできています。食パンを半分に切って、桐の箱に入れたものとそうでないものを比べてみたところ、翌日パン箱に入れた方がよりふかふかが続いていました。木目の美しい桐の箱がキッチンにあるだけで、すがすがしい気分にもなる桐の「パン箱」。パンの保存方法に迷っているパン好きさんは、試してみてはいかがでしょうか?
株式会社増田桐箱店
福岡県古賀市青柳町100-1
092-942-3061
オンラインショップhttps://kirihaco.shop-pro.jp