東京・恵比寿「世界のパン『パダリア』」誕生の秘密とは? パンシェルジュ検定に出るあのパンも並びます
2022年11月28日、東京の恵比寿に新しいパン屋さん「世界のパン『パダリア』」がオープンしました。その名の通り、世界の色々な国のパンを販売しています。オーナーの木村顕さんにオープンの経緯などを伺いました。
世界のパンのお店は、世界の朝ごはんを提供してきた店がオープン
──「世界のパン『パダリア』」には世界各国のパンが並んでいますね。どうしてこのお店をオープンすることになったのでしょうか?
2013年から「WORLD BREAKFAST ALLDAY(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)」というお店をやっています。1日中、世界の朝ごはんを提供するお店です。これまで約10年で約60カ国の朝ごはんを紹介してきました。やはり主食にパンを食べる国が多いんです。
「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」では2ヶ月ごとに世界のどこかの国の朝ごはんを紹介しますが、逆にいうと、2ヶ月が経つとその朝ごはんは提供を終了してしまいます。そのことは少し寂しく、残念に思っていました。
そこで、これまでの朝ごはんからパンだけでも楽しんでいただいてはどうかと思いました。パンなら同時にいろんな国のものを紹介することもできます。
──そもそも「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」はどうして生まれたのでしょうか?
僕は建築士としても仕事をしています。大学院では日本の建築を研究して、背景となる文化にも興味を持ちました。その後、日本の建物と文化を体験してもらうために、古い日本の建物を改装したゲストハウスを日光で運営していたこともあります。
そのゲストハウスには、海外からのお客様もよく宿泊してくれました。お客様に出身国について伺うとき、食べ物、特に朝ごはんについて質問すると短時間でも話が弾むと気づいて、朝ごはんについて尋ねるようになりました。いろんな国の朝ごはんの話を聞いて、朝ごはんにはその国の文化が凝縮されていると感じました。
東日本大震災でゲストハウスは打撃を受けて、これまで教えてもらった朝ごはんの知識を生かすことを思いつきました。自分が教えてもらって楽しかったのだから、それがお客様にも伝わると、きっと楽しんでもらえるだろう、と。
──それで、世界の朝ごはんのお店ができたんですね。食べたことがない朝ごはんを再現するのは難しかったのではないでしょうか?
インターネットで調べて作ってみても、お金をいただけるほどその国の味になっているかわかりませんでした。だから改めてその国の人を探して、食べてもらって、その国の味に近づけました。
徐々にお店が知られるようになると、各国の政府観光局や大使館のような国をPRする機関から、ぜひうちの国の朝ごはんもやってくれないかと言われるようになってきました。おかげで信頼できる人にサポートしてもらったり、食材を扱うお店を紹介してもらったりするようになって、信憑性も上がったと思います。
日本で馴染みのないパンはまだまだたくさん!
──なるほど。そういう背景があるとパンも本格的な味になりますね。お店でパンを作っている方は、パンが専門の方ですか?
大きな店ではないので、パン専門のスタッフがいるわけではありません。スタッフの中で、パンを作りたいと希望してくれた人が担当してくれています。
それぞれの国のパンはレシピに共通している部分もありますが、作り方こそ似ていても、ずいぶん違うので、作るのはなかなか大変です。
──看板には19種類ほどのパンが並んでいますが、ラインナップは決まっているのでしょうか?
これまでたくさんのパンを朝ごはんとして提供してきました。その中でも他のパン屋さんにはないような珍しいパンを紹介する方が意義があると考えて、オープンしたばかりの今は、中東や南米、ヨーロッパでも東欧や北欧などのパンを中心に販売しています。ただ、まだまだ紹介したいパンがたくさんあります。
──これからどこの国のなんというパンが登場する予定ですか?
ぜひやりたいと思っているのは、ボリビアのサルテーニャです。インドのサモサに形が似ている餃子型ですが、サモサは油で揚げるのに対して、サルテーニャはオーブンで焼くタイプです。中に肉などが入っているので、ボリュームもあるし、見た目もかわいいと思います。
イタリアのコルネットも考えています。日本ではクロワッサンがよく食べられますが、コルネットはまだ馴染みが薄いですね。イタリアでは、朝ごはんはたくさん食べず、コルネットやビスケットをエスプレッソと一緒に食べる程度です。「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」は、ワンプレートにいろいろな食べ物をのせて提供するスタイルなので、イタリアの朝ごはんは出したことがありません。でもイタリアは魅力的な国。イタリアの食べ物を扱いたいと長く思ってきました。
──他にも「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」では実現できなかったけれど、「パダリア」ならできるものがあるのですか?
朝ごはんの店なので、朝食以外で食べるパンは出してきませんでした。世界にはおやつに食べるパンや、イベントのときだけ食べるパンもあります。特にパンは宗教的な要素を含むものも多いですから、そういうものはイベントの時期に紹介できたらと思っています。
──木村さんご自身が好きなパンはどれですか?
フィンランドの「カルヤラン・ピーラッカ」は魅力を感じます。形もユニークですが、パンの中にお米のおかゆが入っているところが不思議ですよね。フィンランドという国のイメージもいいからか、人気があります。
パンのおいしさだけでなく、背景の文化と一緒に楽しく伝えたい
──ところでパダリアというお店の名前は、なにか由来があるのでしょうか?
パダリアはポルトガル語でパン屋です。ブラジルの特に都市部では、朝ごはんにパンにハムとチーズを挟んだシンプルなサンドイッチを食べます。その食材を買うお店がパダリアで、日本のコンビニと同じようにたくさんお店があります。
一家のお父さんや子どもは毎朝、パダリアにその日に食べるパンとハムやチーズを買いに行く習慣があるそうです。ブラジルの人たちの日常の生活に溶け込んだ素敵なお店だと思って、「パダリア」という名前をつけました。
その話から派生して、店には海外のチーズやジャム、ビスケットなども並べています。近々ハムなども置きたいと思っています。
朝ごはんと同じく、パンにはいろんな文化的背景があります。おいしさ以上に文化を知る楽しさや、海外も日本も含めて文化を大切することを届けていきたいと思っています。
一般的な日本のパン屋さんではあまり見かけないパンがいくつも並ぶ「世界のパン『パダリア』」。パンという食べ物を通じて、世界の文化を垣間見れるお店です。パンの名前と価格、背景を書いたカードを読んでいるだけでもワクワクしてしまう、パン好きにとってはワンダーランドのよう。しかも1つ100円以下の小さなパンも複数あって良心的で、好奇心が一層くすぐられます。
特にパンシェルジュ検定の勉強をしているみなさんはぜひ足を運んでみてください。きっとあれこれ食べたくなってしまうはずです。
■世界のパン「パダリア」
- 住所
- 東京都渋谷区恵比寿西1-17-2-103
- 電話番号
- 03-6416-1157
- 営業時間
- 8:00〜19:00 (パンがなくなり次第終了)2022年12月中10:00〜19:00
- 定休日
- 無(2022年12月は水休)
- 公式サイト
- https://www.padaria.jp