

博多で注目の新店「épi」。フレンチ×名店の技法を融合したベーカリー

2025年8月6日に、博多駅からほど近い美野島エリアに誕生した「épi」(エピ)。オープンから2ヶ月ほどにもかかわらず、早くも博多エリアで注目を集めているパン屋さんです。
オーナーシェフは、同じ福岡の「パンストック」出身で、フレンチシェフからパン職人へと転身したという中原秀平さん。パンづくりに対するこだわりや想いをうかがいました。
高加水生地を基本に、製法をアレンジした「épi」ならではのパン
──épiのパンの特徴について教えてください。
当店のパンは高加水生地を基本にしています。私が修業した「パンストック」と似たパンもありますが、同じレシピの生地はほとんど使っておらず、学んだ製法に僕なりのアレンジを加えた生地でパンづくりをしています。ハムやベーコンをはじめ、フィリングもほとんど手づくりしています。ハード系からソフト系まで揃えていて、幅広い層のお客様にご利用いただいています。
──店名の由来や、店舗デザインについても教えてください。
店名の「épi」は“麦の穂”という意味です。「穂」や「収穫」「実り豊か」と幸せを表すニュアンスを感じるので、パンで皆さんに幸せを届けることができればと名付けました。
店舗のデザインはシンプルにしています。お客さまがパンを選んでいる間、厨房の様子や焼き立ての香りを楽しんでいただきたいという思いをイメージしました。




北海道と九州の国産小麦、ドイツのライ麦を使用。歯切れのよさにこだわりあり
──パンづくりや材料のこだわりを教えてください。
意識しているのは香りと食感です。食べた時に香りがよく、ハード系も歯切れよいパンを目指して、どのパンも皆さんにおいしく食べていただきたいという想いで作っています。
食材で特にこだわっているのが「粉」。使う粉で味や食感、香りもまったく変わってくるので、パンを作るうえでは大切です。現在は、パンストック時代から使っているものを少しずつ変えていって、現在は北海道と九州の国産小麦と、一番しっくりくると感じたドイツのライ麦を使っています。今後もいいものに出合えれば、変えていくと思います。
同じ粉を使っても全く違う焼き上がりになる場合もあります。自分で食べてみて、思い描いた食感や香りを目指し続けています。粉の配合や水を数パーセント単位で変えていくなど、今でも少しずつ変えていますが、これからよりおいしいものを作るために、試行錯誤していきたいですね。
自家製フィリングは、もともと料理人ということもあって、気が付いたらほとんど自家製にしていました。自分好みの味に仕上げるには自家製が一番ですしね。ハムは5日、ベーコンは8日かかりますが、こちらも厨房のオーブンで作っています。

──シェフのおすすめを教えてください。
まず、「自家製あんこと焦がしバター」です。紅茶やクルミを練り込んだハード系の生地に、自家製のつぶ餡をサンドしました。フランス料理の技法で作った「焦がしバター」を乳化してのせた、香ばしいバターの風味を楽しんでいただけるひと品です。
密かにご好評いただいているのが「麹食パン」。秋田の「あめこうじ」という米麹を使っているのですが、もちもちなのに歯切れがよくて、麹の甘みや風味が楽しめます。厚切りにして焼いて、そのまま食べてもおいしいですし、トーストやサンドイッチなどでも合います。お好みの食べ方を見つけてみてほしいです。




珍しいと言われるのが、「ロールサンド」です。パンストックでも一時期僕が作って出していたので、当店でもやってみようと、自家製ハムなど具材を少し変えて出しています。同じ自家製ハムを使った「クロックムッシュ」も人気なので、ぜひお召し上がりいただければと思います。




──そのほかのおすすめや人気商品も教えてください。
スイーツ系では「シュネッケ」です。かぼちゃのブリオッシュ生地をベースに、アーモンドクリームやカスタードクリームを巻き込んでいます。以前勤めていたホテルの朝食で出ていたシュネッケが好きで、お店でも出したいと思いました。
食事系では「くるみレーズン」がおすすめです。ハード系ですが水分量が120%なので、また違った食感を楽しめます。
また、当店オリジナルのフィリングを使った「明太フランス」も、ぜひお召し上がりいただきたい商品です。






平日は閉店までご購入いただけることが多いですが、土曜日は朝から並んでいただくことも多く、早めに商品がなくなることもあります。12時半ごろ焼き上がる「麹食パン」以外は、だいたい11時頃には商品をそろえるようにしておりますので、ご購入の目安にしていただければと思います。
パン以外は作れるシェフが、パン職人の修業へ!

中原さんは調理師専門学校卒業後、「ホテル―オークラ福岡」を経て、アメリカ・デトロイトや中国・上海で公邸料理人を務めたフレンチの料理人。
──中原シェフはもともとフレンチの料理人でいらっしゃいますが、なぜパン職人に転身されたんでしょうか?
ダイニングレストランでシェフを務めていた時に、ふと「あと作れないのはパンだけだ」と思いまして。どうせなら覚えたいとパンストックに入社しました。修業を始めたら、パンづくりが面白くて、はまっちゃったんです。
同じレシピで作ってもグルテンは日々状態が変わるし、少し材料を変えるだけでも食感が変わるなど、変化を研究するのが楽しかったです。
公邸料理人をしている時は、外国のお客さま向けに日本料理を作ったり、日本料理とフレンチを融合させた料理を作ることもありました。さまざまなジャンルの料理を作る機会も多かったので、その経験が今のパンづくりに生きていると思います。
──修業を始めた頃から、独立を考えてましたか?
まさかパン屋で独立するとは思っていませんでした。パンストックで5年ぐらい働いているうちに、だんだんパン屋のほうがいいなと思い始めまして。パンづくりが面白くなったということが大きいと思います。
研究熱心な師匠に憧れて
──やはり憧れのシェフは「パンストック」のオーナーシェフ・平山哲生さんですか?
そうですね。平山シェフはいつも自然体なのですが、時々、突拍子もないことを思いついたりするんです。それはどうなんだろうと思うことでも、興味のほうが勝る感じで作っていて、アイデアも行動力も凄いんです。「パンづくりが趣味」とおっしゃるほど研究熱心で、毎日ずっと試作していますから。本当に凄い人です。
──中原シェフの場合は、どのようにアイデアが浮かぶのですか?
僕はこれまでの経験から、料理の発想をパンづくりに入れ込むことが多いですね。例えば天ぷらの衣はグルテンを作らないようにしますが、パンでグルテンを作らなかったらどうなるんだろうと。ミキシングの工程を変えたり、こねる回数を減らしたり、油などを足しててみたりなど、今も研究しています。
これからも研究を続けて、新たな食感や香りが楽しめるパンを作っていきたいと思います。ただ、うちの6才と4才の子どもたちがおいしくないといったら、絶対に販売しません。2人ともけっこう手厳しいんですよ。子どもたちにおいしいと言ってもらえたら合格。晴れて店頭に並べることができます(笑)。
──今後の展望はありますか?
まだ具体的な計画も無い段階ですが、いずれはこの店で、夕方から料理やワインが楽しめる軽いビストロのような、立ち飲みのバーをできたらいいなと思っています。
──最後に全国のパンシェルジュやパン好きのみなさんへメッセージをお願いいたします。
博多駅から徒歩圏内にあるお店ですので、お近くへお越しの際は、散策がてらぜひお立ち寄りください。お待ちしております!
優しい笑顔と穏やかな声が印象的だった中原シェフ。師匠とは方法は違えど、新しいパンを探求する情熱やその姿勢には同じものを感じながら取材を終えました。
博多を訪れ時には「épi」へ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
■épi
- 住所
- 福岡県福岡市博多区美野島1丁目5−1 101
- 電話番号
- 092-233-5814
- 営業時間
- 10:00~18:00※完売次第閉店
- 定休日
- 日曜・月曜・火曜
- https://www.instagram.com/epi_minoshima