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「地元パン手帖」から7年。甲斐みのりさんの新作「日本全国 地元パン」インタビュー
開発物語

「地元パン手帖」から7年。甲斐みのりさんの新作「日本全国 地元パン」インタビュー

梶原 綾乃
梶原 綾乃

「イギリストースト」、「牛乳パン」、「バラパン」など、全国各地その土地で長年愛されている「地元パン®」。2016年に「地元パン手帖」(グラフィック社)が発売されて以来、その魅力は大いに広まり、ご当地のパンを集めた百貨店の催事が行われたり、キーホルダーや文具になったりと、あらゆる形で私たちを虜にしてきました。

そして2023年4月に「日本全国 地元パン」(エクスナレッジ)が発売に。前作との違いや、地元パン®のこれまでについてを、著者の甲斐みのりさんにうかがいました。

※「地元パン®」は甲斐みのりさんの登録商標です。
カメラマン/米谷 享

日本全国 地元パン(エクスナレッジ)


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「地元パン®」の存在を記録し、残していく「日本全国 地元パン」

──「地元パン手帖」から7年経ち、「地元パン®」をとりまく環境も大きく変化しましたね。

前作「地元パン手帖」が発売された時点では、その土地に根付く地域のパンというのは、まだあまり注目されていなかったのですが、この7年の間にだいぶ認識されるようになりました。各地域でしか手に入らないようなパンを集めた「パンフェア」も、百貨店だけではなく、各地のスーパーマーケットで行われていたり、みなさんの興味関心が高まっているのを感じます。私も地元パン®を商標登録したり、カプセルトイの「地元パン®ミニミニスクイーズ」シリーズ、ぱんてなでも紹介されていた「地元パン®文具」の監修なども行ってきました。

「地元パン手帖」はすでに絶版になってしまったのですが、あれからさらに全国各地でパンに出合って、まだまだ紹介したいパンも増えたので、それをまた集大成としてまとめたいと思い、今作「日本全国 地元パン」ができあがりました。

──絶版になってしまったのですね。欲しくても手に入らないという声も多かったのではないでしょうか。

発売時点では営業していたものの、現在は廃業してしまったパン屋さんも多く収録していたので、情報を更新せず絶版というかたちをとりました。でも今回は、すでに廃業してしまったパン屋さんもあえて残したんです。あったものをなかったことにはしたくなくて、残すことも大切なことだと思います。図鑑のように、記録になればいいなと思って作りました。

日常的なパンへの偏愛記録も収録

──今手に入るか/入らないかだけではなく、地元パン®の存在を残していくということですね。今作は、具体的にどのような要素が加わったんですか?

今作は、「パンの旅」というページで山梨と横須賀のパン屋さんを紹介しています。これは、私がよくプライベートでしているパンの旅──朝から出て、めいっぱいパンを食べる旅の感じを、実際に収めたいと思って加えました。

あとは巻末のほうに収録している「パン日記」です。日頃の自分自身のパンへの執着をたくさん詰め込んだのですが、どのパンにも思い入れや愛情あるので、自分でもまとめるのが大変でした。みなさんにも日常的にパンへの愛を持っていると思うので楽しんでほしいという気持ちを込めました。


──「パン日記」はその情報量に驚きました。ページを眺めながら「あ!ここは行ったことがある」などと見つけるのも楽しいです。

今作のような本を作るときは、パンを取り寄せて、スタジオで撮影するのが基本的なのですが、取り寄せができなかったり、現地に行かないと写真が撮れない/食べられないパンもとても多いんです。そうしたパンをできるだけパン日記に詰め込むなど、振り分けて掲載しています。

──「パンの旅」に関しては、どうして山梨と横須賀に?

私の実家が静岡なので、隣県の山梨はとても身近な存在でした。高校時代は、山梨から静岡に通学している同級生も多かったんです。「地元パン手帖」を出版したあとに、そんな同級生たちが「みのりちゃんの好きそうなパン屋さんがあるよ」と連絡をくれて。足を運んでみると、パン文化が昔から根付いていることを実感しました。山梨は、日本にイーストを広めた田辺玄平さんの出身県でもあります。

──田辺玄平さんは、丸十製パンの創設者でもありますね。

はい。これまでは甲府=パンと結びつけることはなかったのですが、すてきで面白いお店が多くて、ぜひ紹介したいと思いました。東京からは中央線で行けますし、ぜひみなさんも行ってみてほしいです。

横須賀の「ポテチパン」は、先ほどお話ししたような「取り寄せができない」パンなんです。時間を置いてしまうと全然味が変わってしまうので、現地に行って自分の手で買って、その日に味わうのが、最もおいしい食べ方です。なおかつ、ポテチパンを作っているお店が複数あって、お店ごとに特色が違っていて。横須賀に行くだけでも、ポテチパンでお腹いっぱいになる喜びが味わえるので、ぜひ紹介したくて入れました。

──現地に行ってその場で味わうポテチパンこそ、地元パン®の楽しみ方の極みですね。

じつはポテチパンは、事情により「地元パン手帖」には載せられなかったので、今作で載せることができてよかったです。かつて掲載が叶わなかったお店も、「地元パン手帖」が発売されたことによって、依頼しやすくなったりしました。

地元パン®を扱うお店の環境に変化が

──それは嬉しいですね。今思えば、地元パン®を扱うお店のオンラインショップも増えたなと感じています。

「地元パン手帖」ができる前は、パンの配送や本への掲載に抵抗感があるパン屋さんも多かったんです。街のパン屋さんは、街の人のためにパンを作って売っていますからね。でも「地元パン手帖」ができて、雑誌とか百貨店がパンを取り上げる機会が増えたので、パン屋さんも雑誌掲載や通販に柔軟になってきたように感じます。

通販だけではなく、お店に足を運ぶためにその土地へ行かれる方も増えています。以前、福岡県の「東京堂パン 国分店」さんが「本を見たり、テレビで見たりした人たちが、全国各地からうちを目指してやってきてくれている」と教えてくれました。その土地のパンに興味を持って、楽しんで、味わってくれている。パン屋さんも、時代とともにその変化を感じられるのは嬉しいことだと思います。


──地域の活性化にもつながっているように感じました。ところで、今作でとくに印象的なパン屋さんはどこですか?

7年の間に知って感動したのは、福島県にある「パン工房カギセイ」のフルーツサンドです。実際に見ると、写真以上にかわいくて。中に色とりどりのフルーツゼリーが入っていて、感動しました。茨城県「池田屋菓子舗」の「ケーキパン」は、茨城出身の友人が「みのりちゃんの好きそうなパンがあるよ」と教えてくれたものなんです。みんな「地元パン手帖」を読んで、地元のパンを教えてくれたり、私の好きそうな地元のパンを買ってきて届けてくれたりして。みなさんの力もあって、本作ができあがったと思います。

「パン工房カギセイ」のフルーツサンド。

──なるほど。今作はより、各地域を深掘りされているなと感じていたのですが、それが理由だったんですね。

「地元パン手帖」では1店舗1パンのように、厳選していたんです。でも、ひとつのパン屋さんでも、アイドルグループみたいにたくさんのいい顔を抱えているお店もあって。それをできるだけ紹介したいと思ったんです。撮影時はとても盛り上がって、担当編集者さんだけではなく社員の方々も撮影場所に立ち寄っていただいたり、パンを届ける宅配便のお兄さんも楽しそうに見ていってくれたり。地元パン®ファンに囲まれた、幸せな本づくりができてとても楽しかったです。

まだまだ載せきれないパン、掲載を断念したパンもあります。この先はそれぞれみなさんがSNSでアップしてくれたりとか、個人個人でもパン活をしていただいたらと思います。

甲斐さん流、ときめくパンの探し方、楽しみ方

──地元パン®を選ぶときに、基準などはありますか。

パッと見て見た目がかわいいとか、一目惚れが多いです。ドレンチェリーやクリームが乗っているとか、昭和の趣があるものに惹かれます。子どもの頃、日曜日のお昼とかにパン屋さんに連れていってもらって、好きなパンを選んでもいいよと言われたとき、あの頃の懐かしさとリンクしているんですよね。子どもなので、動物の顔をしたパンとか、クリームが乗っているものを選びがちだったんですけど、今でもそのようなパンを見ると、気持ちがキュンとなって、すぐ手を伸ばしてしまうんです。あとは、名前がかわいいもの。人でもものでも、ちょっと癖や個性があるものに惹かれます。「私、王道じゃないんですけど」ってぽつんと佇んでいるパンを見つけると、「あ、私が持ち帰るよ!」みたいな気持ちになるんです。

── 一目惚れ以外では、どのように探しているんでしょうか。

お店の方に聞いたりもします。たとえば私は「山口製菓舗」の「サンオレ」という惣菜パンが好きで、お店にも行ったことがあるんです。あるとき「じつはうちの店で人気はこれなんです」と、教えてもらったのが「コッペパンアンバタ」。全く見た目ではわからないのですが、開いてみたらぎっしりあんこが詰まっているんです。お店に行っても名物を買い逃さないように、「ほかにも人気の商品はありますか」とか「昔から作っているものはありますか」などを聞いてみることもあります。

「山口製菓舗」の「コッペパンアンバタ」。


──たくさん買うと、食べるのも保存するのも大変ですが、どうされていますか?

できるだけ現地でいただくのですが、日持ちするものや冷凍できそうなものは、自己責任で冷凍することがあります。あとは、個数を食べるために複数人でパン屋さんを巡ったり、分け合って食べることもあります。パン仲間とパンを楽しむのもおすすめですよ。

──甲斐さんは、普段の暮らしではどのようにパンを食べられますか。

子どもの頃から朝はパン派なので、毎朝食べています。食パンを焼くときは「辻和金網」の「手付焼網」を使っていたのですが、「バルミューダ」の「バルミューダ ザ・トースター」を導入したら感動しました。私はチーズ味のパンが好きなのですが、「チーズトーストモード」のレベルの高さに驚きました。金網は自分の手でトーストを作る喜びがあって、トースターは安定しておいしく焼いてくれる。どちらの良さもありますよね。

パン自体も、とてもレベルが高い商品ばかりですよね。駅前にあるようなチェーン店のパン屋さんも好きですし、スーパーやコンビニのパンでもおいしい商品がたくさんあって。日常ではそのようなパンを、旅先では旅先のパンをと、自分の好きだと思ったパンをとにかく深く愛でていく楽しさを、みなさんと共有できたらうれしいです。

──最後に、ぱんてなの読者にメッセージをお願いします。

ここ3年くらいはコロナ禍で、なかなかパンの旅に出られてなかったと思います。みなさんが好きなパンについて語ったり、食べたり、パンを中心に交流していくような機会を改めて作っていきたいと思っているので、ぜひ共有させてください。

甲斐みのりさん

文筆家。静岡県生まれ。旅、散歩、お菓子、地元パン®、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。
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梶原 綾乃

梶原 綾乃

編集者/ライター。
お菓子やパンを作ったり、食べたりすることが好き。
ご当地パンの包装紙を収集中。「サラダパン」が大好き。

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