世界一種類が多いパン!?製パンのプロに聞く「ドイツパン」の楽しみ方
ライ麦が香ばしく、酸味が特徴の「ドイツパン」。日本では専門店やパンフェス、スーパーなどで見かける機会もありますが、まだまだニッチなパンであるのも事実です。
ドイツパンの食べ方や、おいしく食べるコツを知れば、パン活の幅も広がるのではないでしょうか?そこで、製パンのプロであり、「ドイツパン研究会」(※)の事務局としてドイツパンの普及にも尽力している、鳥越製粉株式会社研究開発部技術開発グループ福岡・松本哲也課長、江上由佳さん、営業企画課・満安美子さんにお話をうかがいました。
※「ドイツパン研究会」
製パン企業の有志によって1978年に発足し、現在は企業・団体などあわせて約250名の会員が在籍。会員総会開催のほか、毎年東京・青山で行われる「ドイツフェスティバル」にてドイツパン販売ブース出店のサポートなど、ドイツパンを広めるための啓蒙活動を行っている。
さらなる普及を目指して、ベルリンの壁崩壊の日である10月3日を「ドイツパンの日」にと、日本記念日協会に申請。2011年に認定を受けている。
その数1500種類以上!世界一種類が多いドイツパン
──ドイツパンは、「世界一種類が多い」と言われていると知りました。実際にはどのくらいの種類があるのでしょうか?
推定ですが、大型パンは300種以上、小型パンは1200種以上あると言われています。また、ドイツパンというとライ麦パンのイメージが強いですが、小麦粉主体のパンも種類が豊富です。
──そんなにあるんですね!そもそも、なぜそんなに種類が多いんですか?
ライ麦比率の高いもの、小麦比率の高いものなど、地域によってパンの種類が違うことや、国が東西に分かれた時期があった影響があるといわれています。寒冷地で小麦が獲れなかった北部のパンはライ麦比率が高く、小麦の産地もある南部のパンは小麦比率の高い傾向にあります。
さらに、小さいパンは「ブロッツェン」、大きいパンは「ブロート」というように、生地が同じでも重量の違いで名前が変わるものもあります。あらゆる理由から、世界一種類が多いと言われています。
──大きさや配合で細かく分類されているのですね。作り方にドイツならではの特徴はありますか?
他国に比べて規格を厳守して作る傾向があると思います。250g、500g、750g、1㎏というように、焼き上がりの重量にも規格があります。
ドイツパンを研究している私たちも、現地の規格に合わせて焼き上げるようにしています。
まず覚えておきたい3種のドイツパンはこれ
──ライ麦を使った、代表的なパンはといえばどのようなものですか?
ライ麦粉を使ったパンで基準となるのが、ライ麦50%の「ミッシュブロート」です。そして、よりライ麦粉比率が高い「ロッゲンミッシュブロート」と、反対に小麦粉比率が高い「ヴァイツェンミッシュブロート」。大きく分けてこの3種類が基本となります。
──ライ麦パンの酸味は、サワー種によるものでしょうか?
その通りです。サワー種を使うと生地がまとまりやすく、保存性もよくなるので、ライ麦パンづくりには欠かせません。ライ麦の多いパンは多く、少ないものは少なめに入っているので、パンによって、酸味が違います。
写真のパンには、ドイツのCSMイングリーディエンツ社(ウルマ・シュパッツ)との提携商品である当社の「ウルマ・フォルサワー」を使用しています。サワー種は乳酸と酢酸のバランスが重要で、ウルマ・フォルサワーはベストバランスと言われる乳酸7:酢酸3のサワー種を粉末にしたものです。
──ライ麦比率によって酸味が異なるライ麦パンですが、おいしく味わうためのコツはありますか?
一番大切なのが、スライスの幅です。
厚めにスライスすると、口の水分が奪われやすいです。これは、「ペントザン」というライ麦の成分によるもので、生地をもちもちしっとりさせる反面、食べた時にベタベタっとおだんごのように粘りつく作用があるためです。ライ麦粉の多いパンほど、薄くスライスするとよりおいしく食べられますよ。食べるライ麦パンに合わせてスライスしてみてください。
「ヴァイツェンミッシュブロート」10~12㎜
「ミッシュブロート」8~10㎜
「ロッゲンミッシュブロート」6~8㎜
──ほかにもライ麦パンを食べるコツはありますか?
ドイツではチーズ・ハム・野菜などのオープンサンドにして食べることが多いようですが、バターを塗るだけでもおいしく味わえます。朝はバターを塗って、ジャムを塗るだけで十分という人もいました。
もともとドイツの食事はお昼がメイン。温かいものやボリュームのある料理を味わうのですが、朝や夜はパンを温めることもなく、バターなどを塗ったり、食材をパッとのせたり、軽くすませることが多いそうです。忙しい朝はもちろん、夜はビールやワインを飲むか人も多いので、そのぐらいでいいのかもしれませんね。
「ロッゲンミッシュブロート」のような酸味の強いパンは、生ハムやブルーチーズなど、塩気があって少しクセのある食材と相性がいいと思います。お酒は赤ワインがおすすめです。
「ヴァイツェンミッシュブロート」のようなライ麦のほうが少ないタイプであれば、塩気がマイルドなスライスハムやクリームチーズと組み合わせるのがおすすめ。こちらは白ワインが合うと思います。
──保存方法やリベイクはどのようにするのがベストですか?
ライ麦パンの場合、3~4日は常温でも大丈夫ですが、それ以降に召し上がる場合は、スライスしたものを冷凍で保存しておくのがおすすめです。1枚ずつでなくても、一度に食べる量をまとめてラップして、フリーザーバッグに入れていただければ、約1ヶ月は保存できると思います。
温めるときは、ラップをせずにお皿に置き、電子レンジで10~20秒ほど加熱すれば、焼きたてと同じぐらいになります。オーブントースターは水分が抜けてしまうので、しっとりさを残すためにも電子レンジでの加熱をおすすめします。
冷凍していなくても、食べる直前に少し温めていただければ、ふわっと軽やかな食感になって、よりおいしく味わえますよ。
ドイツパンは、健康志向の方にもおすすめ
──小麦主体のパンについても教えてください。
オーストリア発祥の「カイザーゼンメル」は、知っている人も多いのではないでしょうか。サクサクとした食感が特徴で、この独自の模様は、専用のスタンプで付けられています。
時間が経つとしなっとしてしまいやすいので、食べる前にオーブントースターで2~3分温めてから食べるのがおすすめです。
小麦主体のパンは、ライ麦主体のものに比べると劣化が早いので、当日食べない場合は、すぐに冷凍保存するようにしてください。
みなさんもよくご存知の「プレッツェル」も、ドイツパンです。ビールやワインと合わせて日常的に食べられています。「シュトーレン」もクリスマス時期に食べられていますね。
また、さまざまな穀物を使ったパンもよく食べられています。そのひとつが「クラフトコーンブロート」です。
写真は「TU-A-02 クラフトコーンミックス」という、粗挽大豆やオートミールなど6種の穀物をミックスした当社製品を使用して作ったものです。“元気の素”とか“元気が出る”という意味の「クラフト」という名が付いているように、元気の源として食べている現地の人も少なくないようです。
もうひとつ、よく食べられているのが「メアコーンブロート」。小麦とライ麦、穀物と、ローストした数種の種子をたっぷり加えた健康志向のパンです。
ライ麦は、必須アミノ酸のひとつ「リジン」をはじめ、ビタミンB1などが小麦や米よりも多く含まれていて、GI値も低いです。全粒粉や穀物にも食物繊維が含まれているので、健康を気にしている方にも注目していただきたいです。
ドイツパンは、ほかにもさまざまな種類があります。ライ麦パンは食べたことがないという人も、ぜひこの記事をきっかけに、ためしていただけると嬉しいです。いろいろなものを味わって、パン活の幅をさらに広げていくのはいかがでしょうか。
筆者も「ドイツパン」を食べることは好きだったものの、知らなかった情報が多く、大変勉強になりました。鳥越製粉株式会社のみなさま、ありがとうございました。
鳥越製粉のホームページでは、ドイツパンに関する情報も発信していますので、そちらも参考にしてみてください。
WRITER
辻 美穂