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スタッフみんなで考える“創作パン”が人気!福岡・北九州「まごころを贈る 木輪」
パンやの夜明け

スタッフみんなで考える“創作パン”が人気!福岡・北九州「まごころを贈る 木輪」

辻 美穂
辻 美穂

「まごころを贈る 木輪(きりん)」(福岡県北九州市)

福岡,木輪,人気パン屋

定番からオリジナリティあふれるパンまで毎日100種類以上並ぶ「まごころを贈る 木輪」は、地元で30年以上、老若男女問わず愛されている人気店です。創業者である父・栄さんとともに店を仕切る2代目代表取締役の芳野健さんは、父から受け継いだ「木輪」の伝統を守りつつ、異業種で働いた経験や修業店で学んだことを活かした経営を行いながらコンテストで優勝するなど、よりよいパンと店づくりを追及し続けているオーナーシェフです。そんな芳野さんのこだわりや、経営者としての思い、近い将来に実現すべく動き始めた未来図までうかがいました。

〒807-0856 福岡県北九州市八幡西区八枝3-10-1
※駐車場5台分あり、筑豊電鉄永犬丸駅より徒歩約17分、西鉄黒崎バスセンター8番乗り場より皇后崎(こうがさき)・則松方面乗車、宮の谷バス停下車徒歩2分
OPEN 8:00~19:00
店休日:火曜・第3日曜

※店舗や商品に関する情報は、直接お店にお問い合わせください。
https://www.pan-kirin.com/

人気商品
麦畑
大樹
ジューシーモイストレーズン
きりかぶ
コーヒーサンド
手ごねハンバーグのオリジナルバーガーほか

代表取締役・芳野健さん

福岡,木輪,人気パン屋

1979年福岡県出身。同志社大学工学部を卒業後、異業種の大手企業にて営業職に就くが、父の店を継ぐことを決意し2007年に退社。千葉県松戸市の「zopf」にて修業を始める。2013年4月「木輪」入社。その後、ベーカリージャパンカップ食パン部門優勝、農林大臣賞受賞など各種コンテストでも活躍。2代目代表取締役となった今も、父から継承したものを守りながら、「100年続く店」を目指して新たな取り組みも進めている。

福岡,木輪

お店のこだわりやコンセプトについて教えてください。

伝統を活かしつつ、新しいものをお届けしていくことです。その原点は、店名にもある「まごころを贈る」という言葉。当社の社是には「創作・真心・感謝」とあり、お客さまに喜んでいただくためにも、まずは「真心」を大切にしています。この伝統が、30年以上「木輪」が支持していただいてきた理由だと思います。

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“木の年輪”のように、毎年少しずつ成長しながら地域での輪を広げ、お客さまとつながっていける店になりたい、そんな思いを込めた店名。創業間もなく開始した宅配で、離れた地域の人々ともつながり続けている。詳細はHPで。

また、パン作りにおいては、社是にある「創作」も大切にしています。パンの長い歴史をリスペクトし、伝統的に作ることも大事ですが、“なぜこうするのか”と基本を理解したうえで、既成概念にとらわれないことを大切にしてきた文化が「木輪」にはあります。創業者である父が大切にしてきたこれらの思いを私も大切にして、常に新しいものをお届けしていきたいですね。

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“丸い食パンがあってもいいじゃないか”そんな発想から、芳野さんの父が約30年前に開発した「きりかぶをイメージした丸型食パン」(238円)。木輪における創作の原点とも言える商品。

確かに、定番のパンからオリジナリティあふれるパンも多いですが、すべてお父さんや芳野さんが考えているのでしょうか?

パンを理解し、さまざまなことも学べるからと、父の時代からスタッフ全員で考えています。現在は、製造・販売の垣根なくスタッフを数チームに分けて、そのチームごとに商品コンセプトから売り方まで決めているのですが、私が思いつかないような案も出てくるのが、とても面白いんです。例えば、少し前に販売していた「高菜ちゃん弁当」。“福岡で一般的な「高菜弁当」みたいなパンを作りたい”と聞いて、最初は“何それ?”って(笑)。でも、私ひとりで考えているとこんなアイデアは出てこないと思いますので。スタッフたちが頑張って考えたアイデアにも耳を傾けて、新しいものをお届けできるように努めています。ただ、新しいものが出来上がっても、そのパンを売るためには、いかにお客さまに訴えかけるかも大切。私が代表取締役になった5年前から、全スタッフを正社員にして、販売にも力を入れるようにしています。それでも、売れる時も売れない時もありますけどね(笑)。

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手のひらサイズながら本格的な味わいの「手ごねハンバーグのオリジナルバーガー」(130円)。全スタッフで考えるからこそ、このようなかわいいらしいパンも生まれてくる。

芳野さんが考案したパンでいちばんの自信作はどれでしょうか?

やはり第三者に認めてもらったものですね。ひとつは2015年のベーカリージャパンカップ食パン部門で最優秀賞をいただいた「麦畑」。課題の“国内産小麦の特徴を活かしたパン”とは何かを考え、実際に麦畑で感じた草のような香りと、小麦本来のほのかな甘みをルヴァン種で表現しました。もうひとつは、同じく2015年にカリフォルニアレーズンベーカリー新商品開発コンテストで特別賞をいただいた、「ジューシーモイストレーズン」です。レーズンをブドウのようなプルプルッとした食感に戻しつつも違う味にしたいと試行錯誤し、りんごジュースと「カルヴァドス」(※)に漬け込んだものを練り込みました。
※りんごのブランデー

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「木輪プレミアム食パン」(1斤335円)は、地元福岡産小麦粉・ミナミノカオリを主に使用し、バターや生クリームを使わないシンプルなタイプ。焼きたて当日はそのまま食べて、クラムの口どけやほのかな甘みを楽しむのもおすすめだが、トーストするとさわやかで香ばしい香りがより楽しめる。

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レーズン酵母で生地にも風味づけした「ジューシーモイストレーズン」(1本940円)は、噛みしめるとしっとりジュワッ。リンゴ風味のレーズンは、味わい・食感とも新感覚で、レーズン嫌いでも楽しめると評判。

創業当時からある商品でおすすめなのは、どんなパンですか?

ひとつは、「コーヒーサンド」です。コーヒー風味のパンでホイップクリームをはさんだシンプルなものです。私が店に入ったときに、“生クリームをはさんだ方がおいしいのでは”と思って試作したことがあるのですが、ひと口目はおいしいけど、1枚食べたらそれでお腹いっぱいになってしまって。絶妙な材料選びで生まれたものだと実感しました。
あとは、「きりかぶ」ですね。生地はオリジナル食パン「大樹」と同じながら、モルダー(成型機)を使わない製法や、丸い形にすることでまた違った味わいが楽しめます。どちらも、これを生み出した父を改めてすごいなと感じたパンです。

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「コーヒーサンド」(2個130円)。あとをひく軽やかさが人気で、大量購入する人も多いロングセラー商品。

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粗めのクラムがサクサクッと軽い食感の「きりかぶ」。“フレンチトーストで食べるのもおすすめ”と芳野さん。

ご紹介いただいた商品を含めて、「木輪」のパンが仕込みから店頭に並ぶまで、毎日の作業スケジュールを教えてください。

それぞれ分担が違いますが、私は主に成型をやっているので、全体の流れとしてはこんな感じになります。

5:00 ・食パン(麦畑・大樹・きりかぶなど)のミキシング。
・前日に仕込んだオーバーナイト法の生地(フランスパン、ジューシーモ
イストレーズンなど)を出して、分割や発酵をしていく。
・前日に仕込みをした菓子パン系や調理パン系など、
ホイロ(発酵器)から上がったものの焼成を始める。

6:00~
7:00頃 大樹やフランスパン、
ジューシーモイストレーズンなどの成型を始める。
7:30~ ・朝ミキシングした食パンや、
フランスパンなどオーバーナイトの商品を焼成。
8:00   開店
開店以降 ・食パンのミキシング(繰り返し)
・バターロールや菓子パン生地をミキシングし、
分割成型して、冷蔵庫で発酵させて熟成。
お昼前ぐらいには成型する。
・オーバーナイト法の生地の仕込みを始める。
・売れ行きを見ながらパンを製造

主にどのような製法で作られているのでしょうか。また、こだわりある製法などはありますか?

食パン系は主にストレート、ハード系はオーバーナイト、菓子パン・惣菜パンは「生地玉冷蔵法」ですが、この「生地玉冷蔵法」や最新の冷凍技術を用いることで、生産性を上げつつ、労働環境を向上させることにもこだわっています。とにかくパン屋は朝が早いですし、体力的にも大変な仕事ですから、スタッフの負担を軽減するための努力をすることが経営者としては必要。おいしいパンを作ることが大前提ですが、効率よくパンを作り、労働時間を短縮するために技術は活用すべきだと考えています。他店との差別化のために技術があるとは、私は思わないんですよね。
※「生地玉冷蔵法」は、ミキシング後すぐに分割して冷蔵庫に入れ、発酵のスピードを遅らせながら一次発酵状態をキープしておく製法。必要な時に取り出して、フィリングを包んで二次発酵すれば短時間でパンを焼き上げられるため、菓子パンや総菜パンなどをすぐ出せるように、店舗では一般的に用いられる方法。

後に続く世代のためにも、働きやすい環境づくりは必要ですよね。その取り組みはお父さまの頃からですか?

休日を増やすなどに取り組んでいましたね。父も私もサラリーマンを経験しているので、朝から仕事をして、夕方に帰るというのが人間にとってベストだと思っています。一日じゅう店にパンがある状況を理想としながらも、業務改善はしていきたいと。そのために私も技術を高めていって、お客さまに満足していただける品質を維持しながら、労働時間を短縮する。よりおいしいパンづくりを追及しつつ、スタッフが笑顔で働けるように、ここでよしとせずに、常に上を目指していこうと思います。
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そのほかにも、パン作りをするうえで心がけていることはありますか?

私を含めてスタッフ全員で意識しているのが、「“まごころを贈る”をもっと深めていこう」ということです。“まごころを贈る”って抽象的な言葉ですが、自分にとって大切な人に食べさせることができるのか考えながら、ひとつひとつ丁寧にパンを作ることかなと思うんです。ですから、「このパンをご両親や尊敬する人に届けたい?“ほんとにおいしいから食べて”って言える?」と、常にスタッフへ問いかけるようにしています。

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“私だったら、修業した「zopf」の伊原さんに、「芳野、おいしそうなパンを作ってるな」と言ってもらえることを想像します”と芳野さん。

製パンするうえでの難しさや、楽しさを教えてください。

同じ味を出し続けることですね。同じ材料を同量使っても、日々微妙に状態が違います。毎日同じパンを召し上がるお客さまに「違う」と言われないようにすることが、難しくもあり楽しくもあります。でも、製パンよりもっと難しいのが、人を育てることです。経営者として経験の浅い私が、人を育てているものですから、うまく伝えられないことも多くて……。個性が違うスタッフ全員のベクトルを合わせて、いい雰囲気づくりをするのも私の大切な仕事だと思いますが、本当に難しいなと感じています。

人材育成はどの職場でも共通する課題ですね。芳野さんは異業種も経験されていますが、いずれはお店を継ごうと思われていたのでしょうか?

全く思っていませんでした(笑)。私が小学校1年生の時に父が脱サラして、2年間の修業後に「木輪」を開業しましたが、それまでと生活が一変して朝は早いし夜は遅いし。両親の大変そうな場面ばかり見ていましたから、店を継ぐのか聞かれた時にも“継ぐ気はない”と答えて、大学卒業後に異業種の大手で営業職に就きました。最初はとにかく頑張ったのですが、ある時、“大きな組織でのひとりというのは限界がある”と気付いたんです。この先もし出世したとしても“私じゃないと”という存在にはなれないなと。比べて父は、「おいしいパン屋だね」と地域で喜ばれている。この仕事で得ることができる充実感や達成感、その先に描く夢を聞いた時に、父が光って見えたんですね。だからこそ、こんなにキツいことも乗り越えられるんだと。自分も父みたいな人生を送りたいと、就職から約5年後に自ら継ぐことを決めました。父は喜んでくれましたね。

その後、千葉県の「zopf(ツオップ)」へ修業に行かれたそうですが、そこで学んだことや影響を受けたことはありましたか?

父と「木輪」をどういう店にしたいか話したうえで「zopf」に決め、約5年間修業したのですが、独創的な雰囲気や商品など、とにかくワクワク感のあるお店で、「これは持ち帰りたいな」と思いました。ただ、私が2代目として求められているのは、33年の歴史をしっかり踏襲しつつ、オリジナルの色を出していくことだと。だから、私は伝統のスタイルをしっかり守りつつ、修業で学んだものからこの店に合うものを融合させていくのが、これからの木輪の発展には必要なのかなと考えています。

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「zopf」では、スタッフが作るパンや売場の演出などから、オーナーの人柄が出るということも学び、影響を受けたそう。

シェフとして憧れるのもお父さまや「zopf」の伊原さんですか?

いちばん身近な父であり、伊原さんでもありますね。伊原さんはすごく頭がよくて、感覚的ではなく、理路整然とお話しされるので、難しい話でもとても分かりやすいんです。さらに、気遣いや気配りができる方。人の気持ちを察することができるし、だからこそパンの細かい変化にも気付いて、いいパンを作ることができるんだなと感じました。最初は出ているオーラに圧倒されましたし、怖かったです(笑)。でも厳しさの裏に愛情があることが分かって、すごく温かくて優しい人だなと思いました。私もそうなりたいですね。

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父・栄さんが360回に渡ってつづったニュースレター「木々のささやき」。芳野さんは時々読み返しながら尊敬する父の思いにふれ、原点回帰している。

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「木々のささやき」とともに、芳野さんの思いや、芳野さんの妹が考案した「木輪」のパンをより楽しむレシピなどを掲載した情報紙「尚志(しょうし)」を、レジ横で配布中。

「木輪」の今後の展望を教えて下さい。

日本は米文化なので、和食もご飯に合う料理がそろっていますが、これからの食を授かる私たちとしては、伝統の日本食文化との融合も大事にしなければならないと思います。そこで、普通ならご飯が添えられる定食にパンの盛り合わせを添えるというような、新たなパンの食べ方を提案できる「和風のパン屋さん」を作りたいなと思っています。木の温もり感じる空間で心地よい上質なサービス。カップは福岡伝統の高取焼を使い、お茶はワインのようなオシャレなボトルで提供と、具体的なイメージ案がすでに出来上がっています。そこでパンの楽しみ方をより知っていただくことができたら、この先もずっと「木輪」が地域で必要とされる店になれるのではと思っていますので、これは必ず実現したいと思います。

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パンを食事の一品とする欧米の食卓を自宅で再現して楽しめるようにと、チーズやソーセージ、国産ワインを販売。さらにパン包丁やトースターなどパンをよりおいしく食べるためのアイテムも扱っている。

最後にパン好きの皆さんへ、ひとことお願いします。

パン屋は、パン文化を広げたいと努力してはいるのですが、なかなかうまく伝えられません。ですから、みなさまもぜひお客さま目線で、パンの文化が広がる一助になっていただければと思います。もちろん、私たちも努力していきますが、それぞれのいい所を、その地域の方々に知っていただく橋渡しとなって、私たちを導いてくれたらとてもうれしく思います。“私たちは素人だから”と謙遜されるんですが、いろいろな店を見ている方たちは目も舌も肥えていますし、真意をついたことをおっしゃってくれますから。ですから、感想もダイレクトに伝えてくれたらうれしいですね。

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休日に朝食を提供するカフェスペースは、緑と花があふれるさわやかな空間。新型コロナの影響で休止中だが、再開が待ち遠しい。

WRITER

辻 美穂

辻 美穂

とにかく食べること、飲むことが好きで、異業種から食の業界へ転職をとフードコーディネーターの学校へ。複数の調理現場でバイトしたあと、菓子とパンの会社で商品企画の仕事に就く。自社パンのおいしい食べ方をあれこれ試しているうちにパンの魅力にハマり、その後ライター活動を始めてからも、そして活動拠点を福岡に移した2013年以降も、仕事のついでに気になるパン屋へ立ち寄り、新たなパンとの出合いを求め続けている。最近気になるのは、自分の体重と屋根で勝手に居候するスズメたちのこと。

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