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高田馬場から、家族に寄り添ういつもの味「パンとコーヒー 馬場FLAT」
パンやの夜明け

高田馬場から、家族に寄り添ういつもの味「パンとコーヒー 馬場FLAT」

梶原 綾乃
梶原 綾乃

パンとコーヒー 馬場FLAT(新宿区大久保)

馬場FLAT外観

東京は早稲田の団地内。青果店やお惣菜屋さんなど、
どこか昔ながらの安心感があるお店たちのひとつに『馬場FLAT』はあります。
季節に合わせて常時50〜60種類のパンが並び、
昼は近隣オフィスビルの会社員、夕方にはお買い物中の主婦、
そして休日には近所に住む子連れの家族などで賑わいます。
店の向かいには、姉妹店のレストラン『馬場FLAT HANARE』も。
地域密着型で、毎日の生活に寄り添ってくれるような、いつもの味。
それは、店名の“FLAT”という言葉にあるように、平穏な毎日にこそ大切なものだと思いました。

東京都新宿区大久保3−10−1オレンジコート内
OPEN:8:30 〜 19:00
定休日:第2月曜日

人気商品
・ミルクフランス
・和牛カレーパン
・くるみカフェ
・ミルクあんコッペ
・食パン など

※店舗や商品に関する情報は直接お店にお問い合わせください。

中島勇さん(パンとコーヒー 馬場FLAT」店主)

馬場FLAT店主中島勇さん

ベーカリー『アンデルセン』出身。勤務しながら日本パン技研や海外研修などを通じて、理論と技術を学ぶ。 2015年10月より、オーナーの矢吹通康さん(株式会社FULL AT TABLE)とともに馬場FLATを立ち上げ。飲食店へのパンの卸や、「目黒FLAT」や「馬場FLAT HANARE」(「馬場FLAT」の目の前)など姉妹店で提供されるパンも手掛けている。

日々を“フラット”に、マイペースに成長していくお店

馬場FLAT 店内

──お店のコンセプトについて教えてください。

「昨日よりちょっといい明日」をコンセプトにしています。意味は、言葉のとおりなのですが、店名の「FLAT」と同じで、「(成長や調子などが)下がらずに“フラット”にいきたい、ちょっとずつ成長していきたい」という意味合いがあります。

──日々を謙虚に進んでいくというか。いつもと変わらない味、安心感を届けていらっしゃるなと思います。

そうですね。私の性格的にも、あまりガツガツとした成長を求めているのではなく、どちらかというと、マイペースな成長を求めています。
でも、経営が沈んでいってしまうと、お店も従業員のみんなも苦しくなっていってしまうので、無理なく向上していきたいですね。そのバランス感覚が難しいですけどね。

馬場FLAT 店内4

「パン屋といえば」こだわりのミルクフランスで有名に

──馬場FLATさんといえば、TVでも紹介された「ミルクフランス」が有名ですね。

ミルクフランス

人気商品のミルクフランス。ややハードなフランスパン生地に、練乳のコクが生きたミルククリームがよく合う。

「嵐にしやがれ」で紹介される以前は人気5位くらいで、特別突出していたわけではなかったのですが、テレビで紹介されて一気に人気が出ました。お店を初めて訪問してくださった人などには、よく選んでいただいています。
「ミルクフランス」はオープン当初からある商品で、味も変わっていません。私の中で「パン屋といえばミルクフランス」というイメージがあり、私が元々働いていた『アンデルセン』も、「ミルクフランス」が看板商品でした。作るなら、『アンデルセン』のようなソフトフランス生地ではなく、しっかりと固さのあるフランスパンにしたらいいんじゃないかなと思って。

──確かに硬めで、切り込みが入っているのが印象的ですよね。

しっかりと固いので、食べやすいように切れ目を入れているんですが、ほかにはないオリジナルな点だと思います。長時間熟成させたバゲット生地は、ミルクのおいしさ、塩み、食感がよく引き出されるように工夫しました。クリームは『カタネベーカリー』の片根大輔さんに教わったもので、同じレシピです。

──おすすめの食べ方を教えて下さい。

購入されたその日じゅうに、そのまま食べていただくのがいちばんです。たまにトーストしてしまう方がいらっしゃるのですが、クリームがすべて溶けてしまいます(笑)。「次の日の朝に」と買っていかれる方も多いとは思いますが、生地が水分を吸ってやわらかくなってしまうので、できれば当日中がおすすめです。
クリームはバターと練乳でできているので、夏でも売っていますが管理が難しいんですよ。

──なるほど。それは売る側も大変そうですね。

冷蔵庫に入れてしまうと、バターと練乳が分離してしまったり、パンが劣化してしまうので。夏の間は、パンを置く台荷の下に保冷剤を敷くなどして販売しています。
本当は、夏に売らなくてもいいかなという商品ですが、看板商品ですので、やめるわけにはいかないですね。

馬場FLAT 店内2

店頭でのミルクフランスの様子。クリームがだれないように、この天板の下に保冷剤を敷くなど工夫されているそう。

──あのおいしさがいつでも楽しめるのは、大変ありがたいことです。続いて、他の商品についても教えて下さい。

「くるみカフェ」は、歯切れのよい全粒粉入りの生地にコーヒー風味のクリームを合わせました。ミルクフランスと同じクリームに、中目黒のカフェ「ファソン」の挽いた豆を入れています。挽いた豆のじゃりじゃり感が気にならないように、アクセントとしてくるみを入れています。

くるみカフェ

コーヒーの香ばしさとじゃりじゃり食感がくせになる「くるみカフェ」。

「ミルクあんコッペ」は、「くるみカフェ」と同様の生地に、あんことクリームをはさんでいます。この商品はスタッフの人気も高く、もっとファンが増えそうな気がしています。

ミルクあんコッペ

筆者がいち推しなのは「ミルクあんコッペ」。もちもちとしていながら歯切れのよい生地と、クリーム、あんこのバランスが絶妙。

「角食FLAT」など食パンは、湯種で作っています。そのままで食べたらおいしいものを作りたかったので、もっちりとしっとりを極限まで、絶妙なバランスで調整しました。厚めにカットしてトーストすると、外はカリカリ、中はしっとりが楽しめますよ。合わせるなら、おいしいバターを添えていただくのがおすすめです。

角食FLAT

定番の「角食FLAT」。焼くかそのまま食べるかで悩んでしまうこと間違いなし。

──パン生地はいずれも、長時間熟成させて作っているそうですね。

はい。お店のすべてのパンはオーバーナイトや冷蔵発酵で、計画的に作っています。生地は朝いちばんとお昼の時間の2回仕込み、ひと晩発酵させた生地を、早いほうから使っています。無駄な時間がないように、効率よく進めています。

<馬場FLATのパンができるまで>
1日目 生地を仕込む(こねる) /前日の生地を焼く
2日目 1日目の生地を分割〜焼成 /明日の生地を仕込む

和牛カレーパン

記事本編には登場しなかったが、「和牛カレーパン」も人気。焼肉の名店『炭火焼肉なかはら』から仕入れたA5​和牛を使用している。

──パンづくりにおいても、FLATを意識されているんですね。

そうです。お客さんとお店の職人たち、両方をちゃんと見れるようにしたいと思っています。従業員は、みんな仲がよく、大学生のアルバイトさんも、1年生から入って、卒業まで続けてくれることが多いです。

ただ、仲間でいっしょにやっているので、ひとつ同じことをやるにも、人によって違いますよね。例えば、パンを天板に並べるだけでも、パン同士の間隔とか、ずれ方が人によって違います。ほかにも、作業台の整理具合とか、庫内温度とか。自分が当たり前だと思ったことが、他の職人にとっては当たり前ではないので、人に教えることの難しさを感じています。

──所作が大事ということですね。

そこがちょっとずつ違ってくると、仕上がりが変わってくるんです。もちろん、味には大きな影響はないのですが、細かい積み重ねも大事だと思っています。

おうちで作れるパンキットが、コロナ禍で人気に。通販も強化

──生地づくりといえば、近年は、生地を冷凍してそのまま商品化した「おうちで馬場FLAT」が人気と聞きました。どういう経緯で生まれた商品なのでしょうか。

おうちで馬場FLAT

冷凍生地は、「デニッシュ生地」「菓子パン生地&メロンパン用クッキー」の2種類。わかりやすいレシピカード付き。

もともと、年2回〜3回、夏休みにお店でパン教室を開催していたことがありました。お店のテラス席で、出来上がっている生地をこねてもらって、クリームパンとか、ピザパンとかを作ってもらったりして。それの延長というような感じです。コロナ以前に、「おうちで馬場FLAT」をやろうという話はもともとあったのですが、このタイミングで販売したら好評で、第二弾も販売しました。

──反響はいかがでしたか?

発売開始当初はすぐ売り切れてしまい、びっくりしました。もっと夜通し作れば生産できるかもしれないですけど、無理はしないようにしています。もちろん多めに作るようにしていますけどね。
購入された方からは「子どもと作って楽しかった」という声が多くて、リピーターになってくださる方が多いですね。作ったパンは、Instagramでハッシュタグ#おうちで馬場FLATを付けて投稿してくれたりとかもしています。

──商品化の背景には、中島さんのお子さんたちも関わっていると聞きました。

ちょうど自分の子ども2人も(コロナ禍で)小学校と幼稚園がお休みになっちゃったので、パン生地を持ち帰ってこねてもらったら、とても楽しんでくれたことがありました。きっとほかのご家庭でも同じ状況ですし
楽しんでもらいたいなと、急遽販売することにしたんです。お店の近くの人だけではなく、遠方に住む人にも買ってもらえたらと思い、ECサイトを立ち上げました。これからはECサイトでの商品販売にも力を入れていきたいと思っています。

馬場FLAT 店内3

店主のパンへの興味もまた、自身の幼少時にあり!

──ここからは、中島さんご自身とパンのエピソードを教えて下さい。中島さんご自身も4歳でパンに興味をもったと聞きました。

そうですね。小さい頃、動物の形をしたパンがパン屋さんにおいてあって、なんだか面白そうだなと思ったんです。最初は造形がいいなと思って。いろんなかたちが作れて、おいしく食べられるのが面白いなと。今思えば、その経験が少しでも、パン教室につながっているなと思います。

──そして大人になって、念願のパン屋さんで働くようになったんですね。

はい。『アンデルセン』では12年くらい働いていました。辞める最後の年に『365日』を始める直前の杉窪章匡さんと、『カタネベーカリー』の片根さん、『ベッカライ&コンディトライ ヒダカ』の日高晃作さんとたまたまご飯を食べにいく機会があったんです。その食事会にたまたま、うちの店のオーナーの矢吹さんがいて、そこで初めて会いました。

──それは運命的な出会いですね。ここから馬場FLATオープンにつながっていくと。

矢吹さんは、片根さんと元々知り合いだったというのもあります。
それで、矢吹さんとはその食事会のあとも偶然会う機会があったのですが、そのときはすでに『アンデルセン』を辞めていて、矢吹さんは目黒FLATを立ち上げる段階だったんですよね。そこでここの物件を教えてもらって、なんやかんやあって矢吹さんが立ち上げた会社(株式会社FULL AT TABLE)でパンを焼いています。
パンを焼いたり、メニューなどは自由に任せてもらっていて。矢吹さんもパンが好きなので、他のお店のパンで「こういうの作ってよ!」という話をすることはありますね。

また、馬場FLATを始めるにあたっては、『カタネベーカリー』に入らせてもらって勉強しました。片根さんには粉の特徴などを教えてもらったりして、配合を考えるのに役立ちました。『365日』の杉窪さんには、お店のあり方、経営の話を。『パーラー江古田』の原田浩次さんには、お店の雰囲気だったり、お客さんの立ち振舞いを参考にさせていただいたり。あのお店も、お客さんとの距離がフラットな感じなので。

馬場FLAT商品ポスター

店内やSNSで見かける商品ポスターや説明文は、中島さんの奥さんの手作り。パンがおいしそうに、おしゃれに描かれている。

──特にあこがれのお店はありますか?

先ほど挙げたカタネベーカリーや365日もそうですけど、『Boulangerie bee』(現在は閉店。レストランと併設の新店舗を7月2日にオープン)が憧れです。『アンデルセン』に入社したばかりのときに、パン屋さん巡りをしていて、いちばん印象にのこっているのが『Boulangerie bee』でした。
パンの形が、とてもきれいなんです。とくにクロワッサンが、美しすぎるんです。昭和の“ザ・パン屋さん”だけど、スタイリッシュでおいしい。かっこいいと思います。

──ありがとうございました。最後に、パン好きの読者に向けて、耳よりの情報を教えてください!

自分のお店でも他のお店でもそうなんですけど、エプロンがきれいな人はパンづくりがうまいと思います。
パンづくりにおいて、よく「エプロンはなるべく汚さないように」と教わってきました。
無駄な動きが多かったりすると、エプロンが汚れていくので、パンシェルジュさんやパンづくりが好きな人は自分のエプロンを汚してないかどうか、ぜひ確認してみてください。

WRITER

梶原 綾乃

梶原 綾乃

編集者/ライター。
お菓子やパンを作ったり、食べたりすることが好き。
ご当地パンの包装紙を収集中。「サラダパン」が大好き。

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