時代とともに愛される洋菓子店のパン 東京・神田淡路町「近江屋洋菓子店」
神田淡路町のオフィス街にひっそりと佇む「近江屋洋菓子店」。
明治17年から続く洋菓子の老舗です。
季節ごとのフルーツがふんだんに使われたタルトや、
昔ながらの愛らしいショートケーキなどが揃ったショーケースの向かいには、
パンも数多く並んでいます。
お店を仕切るのは、5代目の吉田 由史明(よしあき)さん。
27歳で先代から店を継ぎ、時代の変化に合わせながら、昔ながらの味わいを守っています。
長く愛され続けるお店の秘密と、“洋菓子店のパン”について吉田さんにお話を伺いました。
近江屋洋菓子店
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町2-4
電話番号:03-3251-1088
※東京メトロ丸ノ内線淡路町駅より、徒歩約2分
営業時間:9:00~19:00(月〜土)/10:00〜17:30(日曜)
定休日:不定休
https://www.ohmiyayougashiten.co.jp/
※店舗や商品に関する情報は直接お店にお問い合わせください。
──近江屋洋菓子店さんの始まりは、洋菓子ではなくパンだと聞き、驚きました。
近江屋という屋号は初代よりも前からあったのですが、初代は炭屋を営んでいました。炭が売れなくなったとき、「これからはパン屋がよいだろう」と、パン屋に切り替えたんだといいます。パンはそのときの名残でずっと続けています。洋菓子店になったのはそれからで、2代目がアメリカに渡り、ミルクホールで働いた経験からケーキを作り始めたのがきっかけです。
パンは1日に20種類前後、土曜日のみ10〜13種類ご用意しています。日曜日の販売はありません。昔から「リーズナブルだけどチープでないものを」というのを大事にしていて、それは洋菓子だけじゃなくて、パンでも同じです。
──このおいしさ、手作り感あふれる温かみが手頃な価格でいただけるのは、とてもありがたいことです。
全体的に手頃な価格にしています。お菓子と違ってパンは食事になりえるものなので、値段を上げてしまうと、生活に影響が出てしまう人もいます。なので、パンは極力値段を上げたくないと思っています。洋菓子店である以上、メインはケーキなので、パンを主体にして利益を上げていないからこそでもありますね。
小麦の価格は高騰するばかりですが、小麦粉の質は落とさないようにしています。うちのお店は、バイオレットを使っていますが、仕入れているメーカーにおいて、最高級グレードのものを選んでいます。
──創業から現在にかけて、あらゆる人のお腹と心を満たしてきたのだなと思います。近隣はオフィスビルが立ち並びますが、どんなお客さんが多いのでしょうか。
朝に出社するついでや、お昼に買いに来てくださる会社員の方が多いです。スーツやジャケットを着た、会社関係の手土産購入で訪れるような方もいますね。今はコロナ禍で、そういう方々はあまり見かけなくなりました。現在は地元の方であったり、ありがたいことにSNSを見てくださって、近隣の区や、首都圏内にお住まいの方が来てくださることが増えました。海外や国内旅行にも行けないですし、コロナ禍の苦しい中でも、小さな幸せとしてお菓子を求めに来てくれているのかなと。
人気のパンは、その時代の流行りや景気によって違うんですけど、サンドイッチだったり、食事になるパンがやはり多いですね。また、ケーキ屋なので菓子パンもよく売れます。好景気だと菓子パン、不景気だと食事になるパンが売れる傾向にあるなと思っていますが、今は売れ残ることがほとんどないので、まんべんなく売れていると思います。
──パンは時代を映す鏡のようですね。吉田さんおすすめのパンは何でしょうか。
カレーパンです。僕自身も、小さい頃からよく食べていました。表面を揚げずに焼いているのが特徴です。昔は揚げていたんですが、健康や手間を考えて焼くタイプに変更しました。中身はいわゆる“素カレー”で、野菜やお肉がゴロゴロ入っていたりとか、そういうことはありません。そして、ちょっと辛めの味付けです。
また、ピロシキもおすすめです。中にはひき肉がたくさん入っていて、こちらも表面を揚げから焼きに変えました。
油っこくなくさっぱりと食べられますよ。
フィリングは、どちらも専門店に協力をお願いしています。たとえばピロシキのお肉は、浅草にある精肉屋さんで仕入れて、自社で炒めています。僕らは、どれだけ勉強しても本気でやっているカレー屋さん、お肉屋さんには絶対勝てないと思うんです。コストカットしたいわけではなくて、専門家に任せたほうがおいしいものが作れると思っているので、そうしています。もちろん、お願いするお店はこだわりをもって選んでいますよ。
うちでは「○○ペースト」のような半製品は極力使っていません。クリームパンのカスタードは毎朝炊いていますし、あんぱんのこしあんはうちで練っています。サンドイッチに挟むポテトサラダやたまごサラダも、いちから作っていますよ。
──近江屋さんのパンの中では特にハムサンドが好きです。どうしたら、あんなに風味のよい味わいができあがるのでしょうか。
サンドイッチではありますが、表面をフレンチトーストのように加工しています。パンに卵液をつけすぎず、つけなさすぎずのちょうどいいバランスで染み込ませて、焼いたものを使っています。
──なるほど!だからあれほどの奥行きを感じるのですね。惣菜パンや菓子パンのほかに、食パンも用意されていますが、おすすめの食べ方はありますか。
うちで販売している「ストロベリーバター」と合わせるのがおすすめです。ケーキ屋さんはいちごをよく使いますが、その余った部分を生かした商品です。だいたいどこのケーキ屋さんも、ジャムにしたり、ピューレにしてケーキに使ったりしていると思います。うちも、喫茶に出す「いちごジュース」に使っていたんですけど、喫茶は現在休止中なので、この商品が生まれました。
お待たせ致しました🤗
以前ご好評頂いておりましたストロベリーバターが復活です🍓🧈
北海道産のバターと自社製の苺ピューレを贅沢に配合し果肉感も楽しめるリッチなお味です✨✨朝のトーストに塗ってちょっと贅沢な朝食にしたら朝から気分は最高です🍞ぜひお楽しみ下さい👨🍳👩🍳 pic.twitter.com/ufLdeB3jm9— 近江屋洋菓子店 (@omiyayogashiten) October 22, 2021
いちごを60%くらい使っていて、ほとんどいちごとバターだけでできています。価格は1,200円なので少し高いと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、使っている素材を考えるとお得だと思います。クオリティの高さには自信があります。
防腐剤は使用していないので、夏の間は販売ができません。毎年、涼しくなった頃から販売をしているので、ぜひチェックしてみてください。
──「ストロベリーバター」はもちろん、その時期におすすめのケーキなどをTwitter、Instagramに投稿されていますよね。フォロワー数は5.7万人(Twitter/2021年10月現在)と人気のアカウントです。あれは、由史明さんの代から始めたものなのですか?
僕からです。SNSはもともとやりたかったということと、先代が作ったホームページもあるのですが、更新するときは先代に頼み込まなければいけなくて。それなら、自分で始めようと思ったのがきっかけです。ケーキ屋さんとSNSって相性がよいなと感じますし、時代にもあっているのかなと思います。また、最近はTikTokを始めました。英語をメインにして、世界の人にも発信をできたらなと考えています。
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──それは楽しみです。今後さらに展開していきたいことはありますか。
伝統的なお菓子・パンをいかに若い子たちに食べやすくするかを考えています。去年はザッハトルテを作ってお店に出しましたが、伝統的な作り方というよりは、日本人好みに配合を変えて作りました。海外からレシピを持ってきて作るのは簡単ですが、いかに僕ら日本人の老若男女に対応できるものを作れるか。それが大事だと感じています。
あとは、宅配できる分野に力を入れたいですね。難しいとは思うんですけど、日本中どこでもお菓子をお届けできるようになればなと思っています。
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店主はもちろん、お客さんにおいても家族代々受け継がれ、親しまれているという近江屋洋菓子店。
「リーズナブルだけどチープでない」お菓子とパンたちは、シンプルな見た目ながらもこだわりに満ちています。その商品ひとつひとつが、近江屋洋菓子店の存在そのものを表しているのだな、と感じました。
伝統と新しい視点を共存させながら歩んでいく吉田さんの挑戦にこれからも注目が高まります。