東京・小平市鷹の台「torpet」。パンからスウェーデンとフィーカを知ってもらいたい
2021年10月に東京都小平市鷹の台にオープンした「torpet(トルペット)」。スウェーデンのパンを中心に販売するベーカリーです。「torpet」とは、スウェーデン語でサマーハウスを意味します。オーナーの小原愛(こはらあい)さんに、お店で焼いているパンの特徴やスウェーデンでの食べられ方などを伺いました。
留学中のスウェーデンでフィーカ(Fika)に魅せられて
──小原さんは世田谷の豪徳寺で「FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーゲン)」というスウェーデンのお菓子屋さんも経営していますね。いつスウェーデンのお菓子やパンと出会ったのですか?
大学では教育学を専攻して、交換留学制度でスウェーデンに留学しました。その間に、スウェーデンで大切にされている「フィーカ」(みんなでコーヒーやお茶を飲みながら話しをする文化)やスウェーデンのお菓子が好きになりました。それで、帰国してから2013年にブランド「FIKAFABRIKEN」を立ち上げました。
──フィーカのどんなところに魅力を感じたんですか?
留学中の環境はインターナショナルで、最初はお互いに緊張していました。でも、グループワークなどの前に、フィーカをすることで打ち解けた雰囲気が出来上がるんです。なんて素敵な文化だろうと思うようになりました。同じような習慣がない日本でもフィーカを広めたくなったんです。
スウェーデン人にとっては、フィーカは日々のルーティーンです。カフェに行くと、男女も年代も問わず、おじいちゃんもおばあちゃんも普通に過ごしています。その光景が衝撃的でした。日本ではカフェはおしゃれなものというイメージですが、私がカフェが好きなのは、人が集まって時間を過ごせるからだと思うようになりました。
──それで、フィーカを広めたいと活動を始められたんですね。お菓子やパンづくりは勉強なさったんですか?
お菓子づくりは最初は独学でした。帰国後にスウェーデンレストランでアルバイトして、デザートを担当させてもらったり、2016年に豪徳寺に「FIKAFABRIKEN」の店舗をオープンしてから、もっと勉強しようと当時代官山にあったル・コルドンブルーに1年半通ったりして経験と技術を身につけました。パン作りは、スウェーデン人の店長アダムに任せています。
スウェーデン人の店長が焼く「torpet」のパン
──最初のブランド立ち上げから5年経って、パンを中心としたベーカリーとして「torpet」をオープンされたのですよね。
「FIKAFABRIKEN」でもシナモンロールを販売していますが、あくまでお菓子がメインです。もっとパンも食べたいという声があって、でも小さなお店なのでお菓子もパンも両方とはいかず……。
私もパンが好きですし、パンのほうがお菓子よりも日常的に食べられるものですよね。「torpet」で店長をしてくれているスウェーデン人のアダムがパンが上手だから、彼に任せたら楽しい業態になるんじゃないかと。最初は思い付きでしたが、みんなと協力すれば、大変だけど実現できるということがわかっていたので、そのタイミングを逃さず行動しました。
──パンのラインナップと特徴について教えてください。
スウェーデンではおやつやフィーカで食べられる「シナモンロール」と「カルダモンロール」はお店に欠かせないパンです。「シナモンロール」には、シナモンに少しカルダモンも入っています。カルダモンはパウダーではなく、種をお店の石臼で挽いたもの。なかなか大変な作業ですが、その分爽やかな香りが際立ちます。レモンの入ったシロップを焼き上がりに打っているのも特徴です。
次に絶対に商品に加えたいと思ったのが「黒パン」です。ライ麦のパンで、ぎゅっと詰まっているので食べごたえがあります。スウェーデンではニシンのマリネやサーモンをのせたオープンサンドにして食べられることも多いです。キャラウェイシードが入っているのも特徴です。スウェーデンのパンは、スパイスを上手に使っているものが多いと思います。
ポピーシードとチーズが表面を覆っているのパンは日本でいうとロールパンのような存在です。スウェーデンのパン屋さんに必ずあって、主役ではないけれど食事のときに重宝されます。「torpet」では「チーズパン」と「ポピーシードパン」として、それぞれチーズとポピーシードをのせていますが、スウェーデンではかぼちゃの種がのっているものなどもあります。そのままはもちろん、上下半分にしてサンドイッチにして食べることも多いです。
それから店長が得意なカントリーブレッドや、お菓子が得意なスタッフがケーキやクッキーも焼いています。
──スウェーデンの味を再現されているのでしょうか?
日本の方に合うよう甘さは調整していますが、できるだけ現地の味わいを再現しています。それから大きさもスウェーデンスタイルです。特に「カルダモンロール」や「シナモンロール」は、スウェーデンのサイズそのままで、食べごたえがありますよ。
思いついたら協力してくれる人と一緒に。スタッフの得意分野を生かしたお店
──小原さんは、オーナーとしてどのようにお店の運営に関わっているんですか?
私は豪徳寺の店にいることが多く、こちらには週に1度お手伝いに来る程度で、ほぼ任せています。「torpet」はパンづくりが得意な店長、コーヒーが得意なスタッフ、接客が得意なスタッフ、お菓子づくりがすごく上手なスタッフがいて、それぞれ得意分野を活かせる職場になっています。
──「torpet」がオープンして半年余りですが、新たな展開はありますか?
「torpet」としてイベントに出店することも増えてきました。都内だけでなく大阪の百貨店などからもお声がけいただけるようになって、スウェーデンのパンに関心を持ってくださる方が増えたようです。
つい最近、デンマークのコーヒー焙煎所が一緒にやろうと連絡をくれて、取り扱うようになりました。北欧らしいスッキリしたコーヒーです。お店にベンチがあるので、「シナモンロール」や「カルダモンロール」、お菓子などと一緒に北欧らしい時間を過ごしてもらえたらと思います。
──ぱんてな読者や北欧のパンを初めて知る方にメッセージはありますか?
北欧は、スウェーデンの他に、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、それからアイスランドも入れることがあります。日本の方にはマリメッコなどが有名なフィンランドのイメージが強いようで、「torpet」もフィンランドのパン屋さんだと思われることがあるんです。スウェーデンとフィンランドでは、食文化は近いものの、主な言語も民族も違うので、ぜひ覚えていただけたら嬉しいです。
それからやっぱりフィーカです。私も忙しくてフィーカの時間を忘れてしまうことがあります。忙しい時こそ立ち返って、スタッフとフィーカの時間を持つようにしています。フィーカをすることで、お店の中がまとまることもありますね。ぜひもっと日本のみなさんにも広めたいと思っています。
「torpet」があるのは西武国分寺線鷹の台駅から徒歩4分ほどのところ。すぐそばに玉川上水があり、緑が多く静かです。通販でもパンは買えますが、スウェーデンらしい味と雰囲気を求めて、足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?
■torpet
- 住所
- 東京都小平市たかの台38-5 105
- 営業時間
- 9:00〜18:00 土日祝〜17:00
- 定休日
- 水