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東京・木場「Boulangerie S.Igarashi」は全スタッフがパンシェルジュ。向上心あふれるパン好きシェフが率いる注目のベーカリー
パンやの夜明け

東京・木場「Boulangerie S.Igarashi」は全スタッフがパンシェルジュ。向上心あふれるパン好きシェフが率いる注目のベーカリー

野崎 さおり
野崎 さおり

東京・江東区木場にある「Boulangerie S.Igarashi(ブーランジェリー エス イガラシ)」。2022年9月、スタッフ全員でパンシェルジュ検定を受験し、見事合格したという勉強熱心なパン屋さんです。自身も大のパン好きで、探求を続けるシェフ、五十嵐聡太(いがらしそうた)さんにお話を伺いました。

福岡から東京へ。移転から2022年12月で1年

──2021年12月に福岡県北九州市から、東京・木場に移転されたのは何か理由があったのでしょうか?

東京でもっとチャレンジしたいと考えたのが最大の理由です。パンの種類を増やして、いろんな材料も使えたらと思いました。

──パンづくりでこだわっているポイントはありますか?

「熟成ハムと発酵バター」(432円)。ハムは山口県産。

どのパンも私が食べたいと思うものを実現させてきています。そのなかでも、材料にはこだわっています。特に産地です。コーヒーやチョコレートで「シングルオリジン」という言葉がありますが、産地をブレンドせず、ひとつの農園で獲れたコーヒー豆やカカオ豆だけを使うことです。パンの材料も同じように考えて選びたいと考えています。

日本各地にも、その場所にしかないおいしい素材があるので、そういうものを使ったパンを作って食べたいと考えています。

──北海道産キタノカオリを使った「北のかおり」と福岡の小麦を使った「南のかおり」というパンは、シングルオリジンの材料を使いたいという考えで作ったのでしょうか?

北海道十勝本別町の前田農園さんのキタノカオリを使った「北の香り」(388円)。ジュワっと流れるような食感。

福岡県・糸島産のミナミノカオリの全粒粉を使った「南の香り」(ホール540円、ハーフ280円)。全粒粉らしい素朴さのなかに高い香りが特徴。

小麦の特性を生かしたパンを食べたいという理由で作ったパンなんです。北海道の粉を使ったこういうパンが好き、九州の小麦を使ったパンのこういうところが好きという気持ちを持っていたんですよ。それぞれ味も風味も違うので、みなさんにも食べていただきたいです。

──他のパンも小麦をブレンドせずに作っているものが多いのでしょうか?

やはり基本的にはブレンドしています。小麦粉が1種類だけのパンを作りたいという気持ちもありますが、実際に作ってみるとパンとしては未完成になる場合が多いんです。

パンを作るときは、まずどんなパンを作りたいか、食べたいかというゴールを決めます。そこから逆算して材料を考えるので、そうすると粉は、これとこれをこの割合でという風に決まっていきます。

今使っている小麦粉は、すべて国産です。北海道産が3種類、福岡県産が3種類、岩手県産が1種類。全部で7種類を使っています。北海道産は力強く、福岡県産は香りが立っていて、岩手県産は白く繊細な味わいだと感じています。特性がそれぞれ違うので使い分けています。

あらゆるポイントにこだわった「クロワッサン」がいちばん人気!

──今、お店でいちばん人気のパンはどれですか?

「クロワッサン」(345円)。

「クロワッサン」です。小麦粉はもちろん、バターや他の材料の量や配合、層の数や折り込み作業の時間と室温、発酵のタイミング、焼成時間、12層に折り込んだクロワッサンの層の見せ方や焼き色など、自分で決めたことをすべて妥協せずに作っています。焼き上げ時間も段取りも重要です。

オーブンから出して、シロップを打ったばかりのクロワッサン。

焼き上がりにシロップを打って、パリッとした食感と照りも出しています。焼成前に卵液を塗って照りを出す「塗り玉」が一般的です。塗り玉をすると表面が柔らかくなってしまいます。シロップを使うとよりパリッとします。

クロワッサンが好評なのは、丁寧に、きちんと作っているパンのおいしさがお客様に伝わっているからだと思います。職人として、とてもうれしいことです。

どのパンもパッケージに名前と材料を書いたシール付き

──お客さんとの間で、気をつけていることはありますか?

お客様と1対1のコミュニケーションをとることは重視しています。店頭での説明も丁寧にしましょうと、スタッフみんなと話しています。

でも、名前や材料を聞いても家に帰ると忘れてしまいますよね。私自身も経験があります。そこでひとつひとつに商品名と材料を記載したシールをつけています。名前や材料を知っているほうが、パンをしっかり味わってもらえると考えているからです。

繊細に絞ったマロンクリームがたっぷりの「モンブラン」(648円)。テレビでも紹介されました。

パンはビジュアルにもこだわっているんですが、パンを見れば使われている具材がわかるようにするのもポイントです。だからどの具材も多めに入れてもいますよ。

──「あんバター」のバターが分厚さにびっくりしました。あの厚みもわかりやすさが理由なのでしょうか?

ひと目でおいしさを確信できる「キタノカオリのあんバター」(561円)。

それは、どちらかというと、そのほうがおいしいと思うからですね。

──五十嵐シェフは、パンの食べ歩きもなさっていたと聞きました。パンづくりのヒントになることもありますか?

今もパンを食べるのが大好きで、よく買いに行きます。手頃な値段で、食べると幸せな気持ちになる食べ物ですよね。そういう食べ物と関わりを持ちたいと考えてパン職人になりました。

でも、新しいパンのヒントになるのは、他のお店のおいしいパンよりも、普段から口にする料理や素材だと思います。せっかくおいしいパンはそのお店のパンを食べてもらったほうがいいですから。

パンの焼き上がり時間にも配慮。人気のパンは1日に数回焼いています。

スタッフ全員でパンシェルジュ検定合格!

──スタッフ全員で、パンシェルジュ検定を受験されて、合格されたそうですね。

パンシェルジュ検定では、パンの歴史や材料、飲み物とのペアリングなど、幅広い知識をカバーされています。正しい知識を持つことでお客様との会話でも自信を持ってお話しできるようになると思います。

スタッフはみんな、パンについて学ぶことに前向きな人たちばかりです。いろいろ質問してくれて、もちろんその都度答えます。せっかく熱心な人ばかりなので、みんなで受験しませんか?と誘ってみました。

私自身も受験して1級に合格しました。常にパンの知識を広げたいと思っていますし、勉強になりました。

──受験前と後で、スタッフのみなさんに変化はありましたか?

私の話ややっていることが、以前より理解できるようになったと言ってくれたことがあって、嬉しくなりました。

──ところでシェフは、コーヒー豆の焙煎も手がけるほどのコーヒーがお好きなんですよね?

実は以前はコーヒーが苦手で、紅茶派でした。香りは焦げ臭いし、苦いだけだと思っていたんです。ところが福岡に住んでいたとき、あるコーヒー屋さんに出会って、初めておいしいと感じることができました。そのコーヒーは焦げた匂いよりもフルーティな香りが立っていて、それまで飲んだ苦味ばかりを感じるコーヒーとは違って、果物のような酸味や甘みを感じました。

福岡にはおいしいコーヒー屋さんがたくさんあり、訪ね歩くうちに、自分でも理想のコーヒーを作りたくなって、コーヒー豆の焙煎をするようになりました。今もお店に焙煎機とエスプレッソマシンを導入しています。

──今は、お店でコーヒーは提供していないんですか?

夏の間はアイスコーヒーを出していましたが、2022年11月現在はコーヒーをお休みしています。スタッフみんなが同じクオリティのホットコーヒーを出せるように準備しているところです。

小麦粉の味わいも大切ですが、香りはコーヒーとパンとで通じる部分があって、重要視しています。

ときどきお客様から「このお店のパンは、いい香り」だと言ってもらえると、嬉しくなりますね。材料や作り方を工夫してパンづくりをしていることが伝わっていると思いました。


カフェや美術館などが多い清澄白河からも徒歩圏内にある「Boulangerie S.Igarashi」。おいしい香りが充満し、どのパンも美しいパン屋さんです。

オンラインで訪店時間を予約するシステムなので、並ぶ時間は少なくてすみます。ぜひ訪れてみてくださいね。

■Boulangerie S.Igarashi

住所
東京都江東区木場3-8-10
電話番号
非公開
営業時間
10:00〜15:00
定休日
月・火

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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