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イメージソングで売り上げUP!?新しいパンの食べ方を提案する ナカマル醤油醸造元『パンかけ醤油』
開発物語

イメージソングで売り上げUP!?新しいパンの食べ方を提案する ナカマル醤油醸造元『パンかけ醤油』

辻 美穂
辻 美穂

ジャムやはちみつ、スプレッドなど、“パンのおとも”にはさまざまなものがありますが、今回ご紹介するのは根強いリピーターも多い「パンかけ醤油」。パンを作る時に醤油を使うことはあっても、そのままかけて楽しむパン専用の醤油は珍しいということで、製造販売している福岡県宗像市の老舗「ナカマル醤油醸造元」6代目の永嶋さんに、開発の経緯や定番商品となるまでのエピソードなどを伺いました。

開発 パンかけ

企画・開発者はナカマル醤油6代目・永嶋多知(かずとも)さん。

新しい食べ方“パンに甘い醤油ジャム”を提案したいと開発

──どのようなコンセプトで誕生した商品なのでしょうか?
コンセプトは「パンに甘い醤油ジャムをかけるという、新しいパンの食べ方を提案」です。朝はパン食だけど、食べるパンはルーティンになりがちという方に、新しい味の選択肢として、週1回でもパン食のローテーションに加えていただければと開発しました。

開発 パンかけ

パンにそのままかけても、バターやチーズをのせてトーストしてからかけてもOK。なめらかで甘みある醤油だれですが、後味がフルーティーでさわやか。クセになる味わいで、毎日かけて食べるリピーターも多い人気商品です。

──特徴やこだわりを教えてください。
りんご果汁を加えた甘い醤油です。シロップのようになめらかな砂糖醤油という味ですが、後味がフルーティーでさわやかで、パンを和風スイーツのように楽しめる“醤油ジャム”です。こだわりは「塩分」。パンにも塩分があるので、一般的な醤油の5分の1程度の塩分で仕上げています。

開発 パンかけ

美しいあめ色の「パンかけ醤油」。その色からも、普通の醤油とは違うことがわかる。

一度は断念した“パンにかける醤油”がテレビ出演をきっかけに実現

──「パンかけ醤油」はどんなきっかけで開発されたのでしょうか?
若い頃から、バターやチーズをのせて焼いたトーストに、うまくち醤油をかけて食べるのが好きで。90年代にも一度“パン専用の醤油があったら”と開発を考えたことがありましたが、本格的に始めたきっかけは、2009年に地元のテレビ番組へ出演したことです。商品を紹介したあとに、“将来の夢は?”と聞かれて、つい「パンにかける醤油をつくってみたい!」と言ってしまい、放送後から、“あれ?まだつくらんと?”と周囲の人から言われ続けて(苦笑)。プレッシャーに後押しされる形で開発を始めました。

開発 パンかけ

開発を考えた当初は、健康志向の高い商品に注目が集まっていた時期。先代に“塩分が気になる人が多いから難しいだろう”と言われ、確かにそうだと思い、断念したそう。

──開発での苦労やこだわった点を教えてください。
こだわったのは、できるだけ塩分を抑えて塩辛くなく、みんながおいしいと感じる味に仕上げることです。試作ごとに塩分濃度を低くしながら数ヶ月試作を重ねましたが“甘いジャムのような醤油をつくる”という方向性が決まってからは比較的スムーズでした。煮物用のたれなどを製造してきたノウハウが活かせたと思います。

開発 パンかけ

りんご酢を加えたソースのようなものから始め、りんご果汁を加えた完成品に行き着くまでは、工場内の各醤油とブレンドしたり、いろいろな配合を試しながら、よりおいしい“パンにかける醤油”を模索していったそう。

売れず苦悩する日々……起死回生のきっかけは「パンかけ音頭」

──期待を受けての販売開始。当初から順調な売れ行きだったのでしょうか?
いえ、2010年1月に販売を開始したものの、最初は全く売れなくて……。“需要のない分野”だとは分かっていましたが、それでもショックでした。寂しい気持ちを抱えつつスーパーで納品していたある日、鮮魚コーナーから、明るく伸びやかな声で歌う音頭が聞こえてきたんです。その瞬間、“あ、これだ!歌をつくったら売れるかもしれない”と。我ながら馬鹿げた考えと思いつつも、他に解決策が浮かばなかったので、とりあえず「パンかけ音頭」を作ることにしました。

開発 パンかけ

短い鼻歌のようなものをいくつかつなげていき完成したという「パンかけ音頭」は、英語バージョンも。永嶋さんが伸びやかな声で歌う様子は、Instagramで見ることができます。

完成後、すがるような気持ちで、以前出演した番組のディレクターさんに“パンにかける醤油ができ上がりました!”と連絡し、取材していただきました。商品紹介とともに、「パンかけ音頭」を思い切って歌わせてもらうと、オンエアされた途端にもの凄い反響で。これをきっかけに売れるようになりました。

開発 パンかけ

オンエア後は、これまでにない数の電話注文が殺到し、永嶋さんも対応に追われたそう。10年以上経った今では、30種以上そろう「ナカマル醤油」製品の中でも定番の人気商品に。

──やはりテレビで紹介された反響は大きかったのですね。
それまでは、直売所などで説明しても、“パンに合うはずない”という前提で聞くお客様が多かったので、なかなか購入いただくまでには至りませんでした。しかし、番組をご覧になった方は、パンにかける映像を観て“おいしそう”と感じ、「パンかけ音頭」のコミカルな(?)イメージと相まって“買ってみよう”という気持ちになってくれたのだと思います。

開発 パンかけ

本店でも入口正面に置かれている「パンかけ醤油」。リピーターと出会う機会も増え、“おいしいですと言っていただくと、本当にうれしいです”と永嶋さん。

アレンジ自在なのも魅力!食パン以外でも楽しんでいただきたい

──「パンかけ醤油」はどのように楽しんでもらいたいですか?
食パンだけでなく、クロワッサン、デニッシュ系、塩パンなど、さまざまなパンに合います。そのままかけてもいいですし、食パンにバターやチーズをのせて焼いたものにかけたり、熱々のトーストにバニラアイスをのせてかけるのもおすすめ。いろいろ試しながら、楽しんでいただければと思います。

開発 パンかけ

トースト+バニラアイスは、塩キャラメルのような味わいに。餅やヨーグルトにかければ、また違う味わいが楽しめます。

“「パンかけ醤油」をかけたことのある人生と、かけたことのない人生では、一度でもかけてみた人生のほうが輝いていると思います”と永嶋さん。筆者もパン好きなら一度は体験していただきたい味だと思います。福岡県以外でも取り扱い店があり、ネットでも購入可能。また、宗像を訪れる機会があれば、本店へもぜひ足を運んでみてください。
※取り扱い店は公式サイトをご参照ください。

開発 パンかけ

「ナカマル醤油醸造元」は、世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」からほど近い、玄海灘に面した神湊(こうのみなと)に本店を構えています。

開発 パンかけ

創業1850年と歴史ある「ナカマル醤油醸造元」。ノスタルジックな雰囲気が残る本店の奥には、昔の道具などが展示された「ナカマル醤油資料館」もあります。

■店舗情報

WRITER

辻 美穂

辻 美穂

とにかく食べること、飲むことが好きで、異業種から食の業界へ転職をとフードコーディネーターの学校へ。複数の調理現場でバイトしたあと、菓子とパンの会社で商品企画の仕事に就く。自社パンのおいしい食べ方をあれこれ試しているうちにパンの魅力にハマり、その後ライター活動を始めてからも、そして活動拠点を福岡に移した2013年以降も、仕事のついでに気になるパン屋へ立ち寄り、新たなパンとの出合いを求め続けている。最近気になるのは、自分の体重と屋根で勝手に居候するスズメたちのこと。

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