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たった3株のヒノキ酵母からパンづくり!岡山県西粟倉村の「森を食べるプロジェクト」が作った「ヒノキパン」
開発物語

たった3株のヒノキ酵母からパンづくり!岡山県西粟倉村の「森を食べるプロジェクト」が作った「ヒノキパン」

野崎 さおり
野崎 さおり

日本各地に土地に根ざしたパンがありますが、新たに地方の特色を生かしたパンも生まれています。岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)で作られている「ヒノキパン」もそのひとつ。開発した「一般社団法人チーズ観光協会」の小森司さんに「ヒノキパン」開発のお話を伺いました。

森林面積が95%のヒノキと温泉の村、岡山県西粟倉村。森の恵みを生かすために

ヒノキパン

掛け紙のイラストと文字にもほっこり。

──小森さんご自身はチーズが専門で、チーズづくりの先生でもいらっしゃいますが、どうして西粟倉村のヒノキに関わることになったのですか?

私は岡山出身なのですが、西粟倉村に縁ができたのが2015年からです。チーズづくりの機械を作ってくれる会社を探していたことがきっかけになりました。

西粟倉村は森林面積が95%と、村はほとんど樹木に覆われていて、特にヒノキが有名です。

ご存知の通り、チーズもパンも発酵を利用しているという共通項があります。村と関わってから、ヒノキと発酵や食の技術を掛け合わせた商品づくりができるといいなと思っていました。

2015年からなにか一緒にやりたいと話していたのですが、実際に動き出したのは西粟倉村で観光事業を始めた2018年です。

西粟倉村 ヒノキパン

──ヒノキのパンを作るアイデアはすぐに浮かんだのでしょうか?

私は自宅に石窯を持っていて、天然酵母パンを趣味で焼いていたんです。微生物の知識もあったので、ヒノキなど針葉樹にもきっと酵母はいるはずだと思っていました。

ただし経験上、菌の数は極めて少ないだろうということも分かっていました。一般的な天然酵母の起こし方では酵母を育てられないと思ったので、どこかの大学研究室で酵母菌を選抜すれば採取できるだろうと考えて、お隣の鳥取大学に依頼してみました。

大量のヒノキのサンプルからたった3株。培養してパンの酵母に

──大学の研究室に依頼するとなると大掛かりですね。ヒノキの酵母でパンができるまで、かかった時間はどれぐらいでしょうか。

ヒノキのサンプルを集めるところから始まり、ヒノキ酵母のパンの試作に成功するまでは約9ヶ月かかりました。

──サンプルは、いろいろなヒノキを試したのですか?

10本程度のヒノキから、葉と幹、枝をとって、さらに気温など周辺環境も異なるように採取しました。酵母が取れる確率が高くなる時間帯というのがあるんです。それぞれ大量にサンプルを採取し大学に送りました。

最終的には幹や枝に酵母となる株はいなかったのですが、葉っぱから3株だけ選抜することができました。

ヒノキパン

通販で買える「ヒノキパン」にはヒノキの葉っぱが1葉入っていて、森の酵母のイメージが感じられます。

──たったの3株ですか。それはとっても少ない気がします。その3株だけではパンは作れませんよね。

そうです。その3株を培養して増やしてから、パンづくりに使っています。

例えば、家庭で天然酵母を起こすときは、イチゴなどを使いますよね。イチゴは“パンを膨らませる酵母”の量がもともと多いんです。もちろん酵母の他にもカビのような菌が含まれていますが、酵母のほうがより多く増えるので、他のカビなどの影響を受けにくくパン酵母として使いやすいということなんです。

一方でヒノキ酵母は“パンを膨らませる酵母”が本当に少ないので、カビなどの他の菌がないクリーンな状態から増やさないと、パンはもちろん、今後私たちが作ろうとしているビールづくりにも使えません。

──その貴重なヒノキの酵母にはどんな特徴があるのでしょうか?

ヒノキ酵母は、ラカンセア酵母という種類のものです。ラカンセア酵母は乳酸も作るので酸味がありフルーティーな香りがするのが特徴です。

──パンを焼く薪もヒノキなんですよね。

ヒノキパン 西粟倉村

森林を手入れする過程で間伐材が発生します。その間伐材を1年ほど乾燥させると、薪として使えるようになります。

薪を使うパン窯は、直火ではなく蓄熱で焼くので、遠赤外線効果があるんです。そのため中がもっちりとしたパンに焼き上がるんです。

針葉樹のヒノキは広葉樹よりも燃えやすく、熱源としてもすぐれています。そのうえ、燻製のようにヒノキを使う薪窯特有の香りがパンにつくのも特徴です。

西粟倉村は95%が森林ですから、薪や森の恵みを村としても積極的に使おうとしています。冬には雪が積もる土地ですが、ストーブも灯油より薪ストーブを設置する家も多いです。

村にはあわくら温泉という温泉がありゲストハウスも運営しています。この温泉の温度を上げるために使うボイラーも薪が燃料です。だから村でパンを焼く燃料にヒノキの薪を使うことは自然な流れだったんです。

ヒノキの酵母と間伐材。村の恵みをビールや燻製でもおすそ分け!

ヒノキパン

──現在通販で買えるヒノキパンは3種類ですが、他にも種類があるのでしょうか?

通販は「プレミアム食パン」と「アーモンドチョコ食パン」の2種類の食パンに、イタリアの「チャバタ」などを販売しています。食パンは常時合わせて4種類ほど作って、村内で販売しています。若いパン職人も村に移住してヒノキパン事業に参加してくれているので、今年はフォカッチャやサンドイッチも作る予定です。地元の食材、イチジクなどのドライフルーツ、栗やサツマイモ、長芋、米も取り入れていますよ。

──今後はどんな商品や活動を予定していますか?

西粟倉村 ヒノキパン

ヒノキパンは「森を食べるプロジェクト」の一環で、パン以外にもヒノキで燻製した「ヒノキベーコン」や「ヒノキロースハム」、ヒノキで香りをつけた「ヒノキビール」などを販売しています。現在ヒノキビールは県内のクラフトビールメーカーで委託醸造していますが、今年醸造免許を取得できたら西粟倉村にヒノキビールの醸造所を作る予定です。

西粟倉村は温泉地として、関西からは日帰りでいらっしゃる人もいます。東京からも電車なら乗り換え一度で来られる場所です。今後はヒノキを観光資源として、西粟倉村に来たお客様に、石窯を使ったパンはもちろん、燻製やお菓子、鍋料理まで、1日中石窯で楽しめるような体験プランもご用意したいと思っています。

コロナが収束したらぜひ遊びにきていただきたいですね。


しっとりしたクラストが印象的なヒノキパン。香りは確かにフルーティーでした。石窯でのパンづくりをするパン屋さんは増えてきましたが、体験させてもらえる場所はそうはありません。コロナが収束したら、西粟倉村の森林と石窯でのパンづくり体験をしてみたいものですね。

■「森を食べる!プロジェクト」

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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