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京都・八方良菓の京シュトレンで出会う、ロス食材の新たな可能性
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京都・八方良菓の京シュトレンで出会う、ロス食材の新たな可能性

田辺 容子
田辺 容子

ドイツの伝統的なパン菓子「シュトレン(シュトーレン)」。日本のパン屋さんやケーキ屋さんでもクリスマスシーズンが近づくと個性豊かなシュトレンが各店で登場し、この冬も大いに盛り上がりを見せてくれました。

そうしたなか、この冬ぱんてなライターが出会ったのは「八方良菓の京シュトレン」。最大の特徴は、原材料の約30%に副産物・規格外由来の材料を使用し、「サーキュラーエコノミー(≒循環型経済)」の視点から生まれたものであることです。

「サーキュラーエコノミー」とは?そして、どのようにして「八方良菓の京シュトレン」は誕生したのでしょう?実食レポートに加え、「京シュトレン」誕生のお話について、八方良菓店主・安居 昭博(やすい あきひろ)さんに伺いました。

原材料の約30%がロス食材!「八方良菓の京シュトレン」をまずは実食

「八方良菓の京シュトレン」は、インターネットや京都市内のスーパーなどで販売しており、サイズはホール・ハーフ・スライスの3種類があります。(店舗により取扱商品は異なります)
今回いただいたのはハーフサイズ。大きさは、筆者調べで縦16cm×横6cm×高さ2.5cm。まずは試してみたいけど、シュトレンの味の変化も楽しみたい!という方にピッタリのサイズ感です。

開封すると、アルコールのような甘い匂いがほんのり。これは、副産物のひとつである酒粕か、もしくは梅酒の梅の実の香りでしょうか。いずれにしても、一般的なシュトレンには使用されない材料ばかりで出来た「京シュトレン」。パッケージに記載された原材料名を眺めてみるものの、味の想像がつきません。

おすすめのスライスサイズはちょっと厚めの1cmということで、おすすめ通りにカットしていただきました。

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コーティングに使用されているのは粉末化した生八ッ橋。きめ細やかです。

生地はみっちりとしていますが硬さは感じず、口当たりはホロホロとしています。特徴的な食感は、「おから」に由来するものでしょうか。口に含むと広がるのは日本酒を含んだ時のようなぽわんとした温かな風味。そして、生地にはレモンの皮や落花生、コーティングには乾燥・粉末化した生八ッ橋を使用しており、あっさりした上品な甘さです。後味に残るのは、京かのこ豆のこっくりとした甘み。「和菓子のような味わい」という声もあるのだとか。

こちらのシュトレンは「もし日本でシュトレンという文化が生まれていたら、こういうものだったのでは?」と思わせる、これまでの“京都の素材を使用したシュトレン”とは一線を画す存在です。

「京シュトレン」はどのようにして生まれた?開発秘話を伺いました

「八方良菓の京シュトレン」を販売しているのは、京都の副産物・規格外品を活用し、福祉作業所と製造連携するお菓子屋「八方良菓」。おいしさの追求を軸に、販売者、購入者、生産者、製造者、社会、地球環境、未来の八方がより良くなる仕組みづくりを進めることをコンセプトにしています。梅酒の梅の実に生八ッ橋など、一般的なシュトレンとはひと味違う材料を用いた「京シュトレン」はどのように生まれたのでしょう?店主の安居昭博さんにお話を伺いました。

──「八方良菓の京シュトレン」誕生のきっかけを教えてください。

私が2021年7月に『サーキュラーエコノミー実践』(学芸出版社)という本を出版しまして、その本がひとつのきっかけになって、京シュトレンの材料を調達している京都の企業さんからお問い合わせをいただくようになりました。

例えば、京都市伏見区にある酒蔵の山本本家さんから「安居さん、梅酒を作る際に出荷前に梅の実が取り除かれていて、これまでは活用されていなかったんですけど、サーキュラーエコノミーの観点で活用法はありませんかね」といったご相談や、生八ッ橋の端をご提供いただいている聖護院八ッ橋総本店の鈴鹿さんからは「生八ッ橋を作る時に端の部分が切り落とされているんですけど……」とお話をいただいておりました。

先にそういったインプットがあり、また別のインプットとして、2021年の年末ぐらいに、“新型コロナウイルスの影響で京都の観光客が減ったことで、京都の福祉作業所の仕事として大きな割合を占めるお土産製造の仕事も減ってしまっている”という京都新聞さんの記事を読んでいたんですね。それぞれ別のインプットがあった中、今から約一年前の2022年1月10日の朝4時半ぐらいに、なぜか急に目が覚めたんですね。そのときに「こうした食材を活用したらシュトレンができるんじゃないか」と思いつきました。

なぜシュトレンだったかというと、日持ちがするということと、レシピさえしっかりしていれば、まぜて焼くという割とシンプルな工程で作れるので、福祉作業所の方々にも時間に余裕を持って作ってもらいやすいのではないかなと。そこで、思いついたその日のうちに「ちょっと面白いアイデアが浮かんだんだけど」と友人の高嶋綾也くんに相談をしました。

高嶋くんは「PEACEFUL CUISINE」というヴィーガン料理のレシピ動画を配信するYouTubeチャンネルをやっているのですが、シュトレンの話をしたらすぐにレシピ開発をしてくれて。シュトレンで人々に幸せを与えるという意味合いで、彼のYouTubeのコンセプトとも相性がいいのではないかと考えてレシピ開発をお願いしました。

──シュトレン開発のきっかけになった「サーキュラーエコノミー」。この言葉を初めて聞く方に、安居さんより簡単にご説明いただけますでしょうか。

「サーキュラーエコノミー」は、日本語ですと「循環型経済」とも訳されるんですけども、一言で申しますと「廃棄を出さない仕組みづくりを行うことによって、経済と環境の両面にメリットをもたらす新しい経済モデル」かな、と思っています。

よく「リサイクルやアップサイクルと、サーキュラーエコノミーは何が違うんですか」とご質問いただくのですが、リサイクルやアップサイクルは、すでに出来上がったもの・開発されたものに対してあとから延命措置を図るかのような側面があると思うんですね。

いっぽうで、サーキュラーエコノミーですと、ビジネスモデルを構築する時点・商品開発やデザインの時点から「廃棄が出ない仕組み作り」があらかじめ実践されるというところに、大きな特徴があると思っています。

──そのなかで「八方良菓」をお菓子のお店とした理由を教えていただけますか。

先ほどご質問いただいたように、やはり「サーキュラーエコノミー」という言葉に難しい響きがあるなと思っています。お菓子であれば「どうして梅酒の梅の実や、生八ッ橋を使っているんだろう」と考えた時に、「実は自分たちの街でまだまだおいしく食べられる食材がロスになってしまっていたんだ」と、サーキュラーエコノミーの面白さや新しい可能性を、幅広く一般の方々に知っていただくきっかけになるのかなと思いました。

大学生や高校生など若い方のなかには、「サーキュラーエコノミーに興味があるけど、何から始めたらいいかわからない」という方も多いと思うんですね。その際、地域でロスになっている食材を活用してお菓子を作るということであれば、「自分たちにもできそうだな」とハードルを下げられるのではないかなと思いました。

──ご購入いただいた方からの反応はいかがですか。

2022年12月の1ヶ月間、製造できる最大量を毎週作っていたのですが、ホール換算で約250本、合計1000名ほどの方にご購入いただくことができました。個人的な印象としては、八方良菓をスタートして一年目の冬を大成功で乗り切ることができました。

1000名の方にご購入頂いたものの、リアルな声というのが、実は個人的な所感としてはあまりありません。ただSNSで「#八方良菓」などタグ付けいただいた投稿の中には「これまでにない味わい」だったり、「今までに食べたシュトレンの中で一番好き」といった嬉しいコメントをいただいております。

──私も実際に「八方良菓の京シュトレン」をいただきましたが、廃棄されるはずだった食材それぞれの長所・おいしさが、最大限に生かされているなと感じました。

ありがとうございます。もともと、私自身ドイツに住んでいた経験があって、本場・ドイツのシュトレンの味も知っているんですけども、それもあって「京シュトレン」の感想やフィードバックを聞くのが結構毎回ドキドキで。

本場のシュトレンと違い、バターではなくココナッツオイルを使用しているとか、レーズンやクランベリーではなく梅の実を使っていると言う事で、味が全く違うというのは百も承知。使用している食材の、新しい可能性を感じていただけたら本当に嬉しいです。

──「京シュトレン」を開発するにあたって苦労された点を教えてください。

3つの福祉作業所に製造をお願いしているのですが、作業所によって使用しているオーブンなど製造環境の違いがあり、その点でまず苦労しました。そこで、レシピを文字で起こすだけではなくて「生地がどれぐらいの状態でまとまっていると言えるか」、「元種と本生地を混ぜ合わせた時にどういう色合いになれば生地が混ぜ込まれたと言えるのか」など、製造工程を動画撮影し、環境が違う各作業所にどのように伝えるかを工夫しました。

また、どこまでこだわった食材を使うかという点でも苦労しました。ロス食材以外は基本的にオーガニックや国産のものを使っているのですが、こだわり抜くとその分原価も上がってしまいます。最後は必要最低限のものを引き算で残してそれでも満足いく味わいになっているか、友人・知人など周りの方々に味のチェックをお願いして決定しました。

もうひとつはパッケージについてです。サーキュラーエコノミーについての本を出版しているというのもあり、包装材をプラスチック以外でやろうと臨みました。スライスのパッケージを考えるにあたり「シュトレンの断面が見えた方がいい」というご意見もいただいていて、プラスチック以外で透明の包材がないか本当にいろいろ探しました。しかしそもそも透明なものが少なかったり、透明でも油が付着すると包材が溶けてしまう恐れがあったり。プラスチックでないと密閉が難しく、コストがあわないという問題にも直面しました。

今年に関してはホールとハーフには日本製の蝋引きの紙封筒と経木を使用し、スライスだけプラスチックを使用しましたが、見方を変えてみると、それもいいきっかけづくりになるのかなと思っていて。「サーキュラーエコノミーの本を出版している安居さんが、なんでプラスチックを使われているんですか?」と尋ねられるきっかけになる。それにより今回プラスチックを使用している理由を説明し、商品開発のリアルな声をフィードバックしつつ「プラスチックの包材を開発されている企業さんをご存知でしたら教えてください」という話をさせていただく。自分が試してみて良かった点や新しく得た知見は共有して、どんどん真似してもらえたらいいなと思っています。

──八方良菓さんの今後の展開を教えてください。

「八方良菓の京シュトレン」をリリースしたことによってKBS京都さんや京都新聞さんなどのメディアでも取り上げていただき、この一年の活動を通じて「実は自分たちの和菓子屋では夏みかんなどの柑橘類がロスになっています」というお話や、パン屋さんからは「パンの耳がどうしても出てしまうので活用できませんか」、製餡会社さんから「こしあんを作るために小豆の皮を吹き飛ばして除去しなければいけないので、1日50kg~100kgの小豆の皮が出ているんです」といったご相談をいただいています。

京都のお店や企業でロスになってしまっているこれらの食材から、また別のレシピ開発ができないかということと、八方良菓が起点となって、使用できることになった食材に関心を持たれた地域・企業の方々にも使っていただけるような新しいつながりの構築をしていきたいなと思っております。

■八方良菓の京シュトレン

価格
ホール2,800円、ハーフ1,728円、スライス594円
取扱い店舗
ファーマーズ河原町丸太町店、オーガニックプラザ イオンモール北大路店、mumokuteki goods & wears 京都店、Zero Waste Market 斗々屋、Good Nature Station
オンラインストア
https://happoryoka.stores.jp/

WRITER

田辺 容子

田辺 容子

1990年滋賀県生まれ。製菓製パン材料を販売する会社でWEBデザイナーを経験したのち、印刷系の制作会社でライターとして勤める。現在は文化芸術を支える仕事の勉強中。好きなパンはシナモンロール。

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