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おいしそうなパンとパン屋さんをイメージした文具「紙製パン」シリーズ誕生の秘密
開発物語

おいしそうなパンとパン屋さんをイメージした文具「紙製パン」シリーズ誕生の秘密

野崎 さおり
野崎 さおり

文具店や雑貨店で、おいしそうなパンをデザインしたレターセットやマスキングテープなどを見つけたら、それは岐阜県美濃市にある老舗文具メーカー「古川紙工」の「紙製パン」シリーズかもしれません。温かみのある美濃和紙を使った「紙製パン」シリーズは、2018年に販売を開始して以来、受賞歴も多数。「紙製パン」を生み出した2人のデザイナーに開発秘話を伺いました。

かわいくてレトロ。仕掛けもポイントの"紙のパン"

「紙製パン」シリーズをデザインした企画デザイン部 呉藤結咲さん(左)と白石緑さん(右)。

──パンをモチーフにした文具のアイデアはどうして生まれたのですか?

白石緑さん(以下白石) パンが人気があるからパンの製品を、という声が社内から上がってきたのが最初です。どんな雰囲気のパンにしようかというのは呉藤とふたりで決めていきました。

呉藤結咲さん(以下呉藤) 参考にしたのは甲斐みのりさんが書かれた本『地元パン手帖』です。昭和レトロなかわいいパンがたくさん紹介されています。あまりこういうモチーフで世の中に出ているものがなかったので、斬新かもしれないね、と。

呉藤 なにか仕掛けがある製品を作りたいねとも話しました。

白石 パンの形に切り抜かれていたらかわいいねなどと方向が決まっていきました。ダイカットの製品は、「古川紙工」では「紙製パン」が最初かもしれません。代表的なのは三角形に折るサンドイッチレターセットです。サンドイッチは挟むもの。手紙を書く動作や気持ちと共通です。それにただ四角いのではなくて、三角形の方が遊び心もありますよね。

若手女性デザイナーコンビによるアイデアがきらり

──「紙製パン」の前はどんな製品を手掛けていたのですか?

「紙製パン」の前に呉藤さんが手がけた「そえぶみ箋」

呉藤 私は、石川県の美大で視覚デザインを勉強して間もない新卒入社1年目で、「紙製パン」が大きなシリーズとしては最初に担当した商品でした。それまで「古川紙工」の定番商品「そえぶみ箋」や、「ハンコレター」という商品を担当しました。もともとある商品の柄を新しくする業務で、例えば「そえぶみ箋」が持っている“シンプルでほっこりかわいい”というイメージを壊さないデザインを心がけました。

白石 私は広島県の大学でデザインを勉強した後入社した2年目で、やはりがっつり任せてもらったのは「紙製パン」が初めてです。「紙製パン」は新しいシリーズだったので、大きなテーマこそ営業を含めた会議で決まりましたが、商品のテーマから絵のテイスト、ラインナップまで一から考えました。どんなテイストの絵がよいか、画像を集めたり、ラフ案を描いたりして、イメージを固めて、アイテムを絞り込み、それからデザインするという流れです。もちろん、この間には何度もミーティングがあって、社内から意見をもらいました。

──なかなか決まらなかったことや大変だったことはありますか?

白石 絵のテイストですね。私はぺたっとした印象の絵が得意で、呉藤はリアルなおいしそうな絵が得意。起案から製品の発売までは通常3カ月ほどですが、「紙製パン」ではそれぞれの絵のテイストをすり合わせるのにいちばん時間がかかりました。

呉藤 私が1年目だったので、これまで多かった無機質な感じのデザインや白石のテイストに合わせてみたら、あまりかわいく仕上がらなくて……。

白石 気持ちが入っていないせいで、おいしそうに見えないし、ときめかない。これはダメだと思って、リアルなイラストにすることにしました。

──おいしそうに見せようという気持ちがあったんですね。「紙製パン」シリーズには牛乳やジャムのデザインもありますね。

白石 牛乳は第2弾から登場しました。最初からパン屋さんをイメージしていたので、パン以外のパン屋さんに売られているものとして、ジャムや牛乳のアイテムを作りました。パンだけだと茶色ばかりなので色の変化も欲しかったし、パンを食べるときは水分が必要ですよね(笑)。

──他にパン屋さんらしくするために工夫したことはありますか?

白石 ディスプレイもパン屋さんのように、と思ってテント屋根や黒板メニューのようなポップをデザインしました。

呉藤 アイデアはどんどん出てきましたが、やりたかったけどできなかったモチーフもあります。例えば「シベリア」。カステラに羊羹を挟んだ懐かしいおやつパンですが、知っている人が少ないよね、と。

白石 パッケージもスーパーに並ぶパンのようなデザインにしたいと考えましたが、コストの関係で断念。その代わり、製品についている帯にユーモアのあるひとことを加えています。

フレークシールのパッケージの裏に「消費目安 おいしいうちにお使いください。」の文字が。

呉藤 「サンドイッチレター」の“きもちをサンド”というキャッチフレーズを思いついたときは、自分でも「あっ!」となりました。

白石 製品にひとつひとつ違いますが、「消費目安 おいしいうちにお使いください」と書いたりして、本物のパンに近づけました。キュンときますよね!

──「紙製パン」シリーズは2018年第二回文具女子アワード、文房具屋さん大賞2019でも受賞しましたね。

白石 文具好きは機能重視なイメージでしたが、「紙製パン」はアイデアやかわいさで選んでもらえたと思うので、とてもうれしかったです。

2018年第二回文具女子アワードの詳細はこちら

新製品も次々と!「紙製パン」シリーズは約60種類

──新しい製品が続々と登場していますね。

白石 「紙製パン」をきっかけに「昭和レトロ」のコンセプトを打ち出したシリーズを始めました。「レトロデパート」というシリーズは、私が担当しています。

呉藤 私は「レトロ日記」というシリーズを担当しています。「紙製パン」のシリーズも新しい製品が出ました。マスキングテープやA5サイズのクリアファイル、それからマスキングテープ素材のシールなども2021年1月に発売しました。

白石 「紙製パン」だけでこれまで60種類ほど販売してきました。販売が終了したものもありますが、コレクションしてくださるお客様もいます。

好きなパンは?と質問すると、白石さんはだし巻き卵のサンドイッチ、呉藤さんはスーパーで売られているサンドロールとのこと。

──ご自身の使い方やおすすめの使い方を教えてください。

呉藤 私は離れて暮らすおばあちゃんとの手紙のやりとりに使っています。おばあちゃんもとても喜んでくれて「お店で見つけたよ」と報告してくれます。

白石 私は母に送りました。「懐かしパン」の製品を送ったら、母が興奮していました。温かい感じのする製品になっているので、渡すのも渡されるのもうれしく感じると思います。学生時代に友だちと手紙を交換しあったときの気持ちを思い出して使ってもらえたらいいですね。

パンがデザインされているグッズがあったら、ついつい手に取ってしまうのがパン好きというもの。自分で使うのはもちろん、パンのお裾分けなどに添えるればコミュニケーションが弾むかもしれません。「古川紙工」の「紙製パン」シリーズ、お店で見かけたら手に取ってみてはいかがでしょうか?

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WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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