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バターを“食べる”楽しみを伝えたい! ナショナルデパートのプロダクトで広がる、パンとバターの新たな提案
開発物語

バターを“食べる”楽しみを伝えたい! ナショナルデパートのプロダクトで広がる、パンとバターの新たな提案

田辺 容子
田辺 容子

パンづくりに欠かせない副原料のひとつ、バター。フランスではバターをそのまま食べる文化が浸透していますが、日本ではまだあまり知られていません。日本でも“バターをそのまま食べる”楽しみを広めたいと、ナショナルデパート株式会社は、日本初の食べるバター「カノーブル」を製造・販売してきました。同社代表取締役の秀島康右さんに、開発秘話などお話を伺いました。

──まずは、ナショナルデパート株式会社について教えてください。

衣食住に関連するプロダクトの企画・デザイン・製造・販売を行っています。

これまでに手掛けた商品は、製パン事業の「グランパーニュ」や菓子事業の「女王製菓」、お土産菓子の「ももたん」など。バター事業の「カノーブル」は、2018年に始めました。

パリで出合ったフレーバーバターに衝撃を受け、日本人向けにローカライズ

── 食べるバター「カノーブル」はどのようにして生まれたのでしょうか。

カノーブルというブランド自体は2011年からありましたが、当時の商品はバターではありませんでした。パンに塗るジュレやフレーバースプレー、ミルククリームなどでした。

バターブランドを始めるきっかけとなったのは、2014年にパリで食べたジャン・イヴ・ボルディエ氏のバターです。フランス・ブルターニュ地方で、伝統的製法にこだわって作られた発酵バターは、現地の食のシーンを席巻していました。香り高く口当たりが滑らか。たくさんのフレーバーがあり、衝撃を受けました。私もいつかは日本でフレーバーバターをやりたいと思うようになったんです。

しかし、日本でボルディエのバターを周囲に配ってみると、「おいしくない」「味がわかりにくい」という評価だったんです。日本人向けにローカライズする必要があると感じ、しばらく企画自体を寝かせていました。その後、2018年に製パン事業を撤退することになり、余っていた製パン用の材料でフレーバーバターを製造したのが、バター事業の始まりです。

フランスでは発酵バターにナッツやドライフルーツなどを練り込んだフレーバーバターを「Beurres aromatisés(ブール・アロマティゼ)」と呼び、冷たいまま食べる文化が浸透しています。国産の発酵バターに、ナッツやドライフルーツを加え、日本人向けに分かりやすいフレーバーを展開しました。

──おすすめのフレーバーや食べ方について教えてください。

カノーブルのフレーバーは「オリジナル」がおすすめです。焦がしバターに、トフィー、ナッツを加え、香ばしさと甘さが味わえます。バターを加工しただけで、ここまで味が広がることに驚いていただけるのではないかと思います。

ブール・アロマティゼ(バター)、バターチョコレート、バターサンドとそれぞれのカテゴリで商品を展開しています。

バター不足を受け“じゃないおいしさ”を提案

──ファットスプレッド「マルガレッタ」についても教えてください。

繰り返されるバター不足の状況を踏まえ、消費者のニーズに応えるために立ち上げました。バターの代替品ではなく、「バターじゃないおいしさ」を表現しています。

とくにおすすめは、「マーマレード」です。焦がしバター風味のファットスプレッドに、清見オレンジ、せとか、八朔などの柑橘類で作りました。爽やかな酸味とバターの風味が楽しめ、私の人生で最高においしいスプレッドになったと思います。

ナショナルデパート,マルガレッタ,マーマレード

マルガレッタ・スプレッド「マーマレード」(焦がしバター&ファットスプレッド&オレンジマーマレード)

そのまま食べても十分においしいのですが、私は毎朝食パンに乗せて食べています。トーストしたての4枚切り食パン(※)に、ナイフでカットしたバターやマルガレッタを乗せて、冷たいうちに食べています。うちのバターはぜひ「溶かさない」「塗らない」で食べていただきたいと思います。

※秀島さんは山崎製パンの「ロイヤルブレッド」を使用。

──いずれも種類が豊富で、目にもおいしいラインナップだなと感じました。展開するフレーバーや使用する材料について、大事にしてきたことはなんですか。

カノーブルのバターについては、基本的に季節感を大切にしてきました。マルガレッタについてはバターを使用せず、ファットスプレッドが主材なので、生の果実を自社加工したソースを使用して、ケミカルなファットスプレッドにコントラストを与えてみました。

商品開発で大切にしていることは、商品の内部に潜んでいるコントラストと調和。バターのミルク感に反発するようなフレーバーをわざと使用して、逆にバターのミルク感を強く感じさせようとか、いろいろ試みてきました。

色合いに関しては、製パン事業「グランパーニュ」の時から大事にしている陰陽五行説(古代中国で生まれた自然哲学の思想)の「木火土金水」に基づいています。これは懐石料理にも用いられている食の色彩計画で、遺伝子レベルで日本人の食に対する関心をくすぐる力があるのではと考えています。

ブランドストーリーに隠されたメッセージとは

──WEBページには、カノーブルとマルガレッタについてのユニークなブランドストーリーを掲載されていますね。

ナショナルデパート,カノーブルとマルガレッタコンセプトページ

NATIONAL DEPARTMENT STOREより「カノーブルとマルガレッタ」(2023/06/15)

ご覧いただいたブランドストーリーは、ファットスプレッド「マルガレッタ」のスタート時に書いたもので、「バター不足でバターが手に入らなくなる」というメーカーからの一報を受けて作りました。
また、この時にバター事業から撤退することを決めました。その時以降のテーマは一貫して「Butter is Dead !」(バターは死んだ)。

ブランドストーリーも、カノーブルを終わらせるために書いたもので、販売促進の意図はありません。庵野秀明監督の「シン・エヴァンゲリオン」みたいな感じでとらえていただければ。

──“「Butter is Dead !」(バターは死んだ)”というセンセーショナルなワードの裏には、そうした思いが隠されていたのですね。バターを開発するなかで、苦労した点について教えていただけますか。

バター事業を始めた当初、バターに果汁などを合わせる際の「乳化」に特に苦労しました。果汁とバターは、いわば水と油。そのため、どうしても分離してしまいます。バターにおける高内相エマルション(※)の製法を確立し、解決することができました。

※エマルションとは……本来は互いに溶け合わない液体同士が混じり合った状態。身近な例としては、バターのほか牛乳やアイスクリーム、マヨネーズなどにも応用されている。

──最後に、「ぱんてな」読者に向けて今後の展開やメッセージをお願いします。

私もパン屋をやっていたので、パンの面白さもバターの面白さもわかります。みんなもっと自由にパンを楽しんでいただければと思います。

材料の在庫が無くなり次第でバター事業、食全般の事業から撤退します。現在は、食の領域では難しかった海外進出に向けて準備を進めているところです。どこかで見かけたら応援してください。


バターの新しい楽しみ方を知れば、パンの楽しみ方がもっと深まるはず。

残念ながらバター事業の撤退が決まっているというお話でしたが、ぜひカノーブルやマルガレッタが購入できる今のうちに、パンと一緒に“食べるバター”を楽しんでみては。

■今回紹介した、あんバター/スプレッド「オリジナル」/・スプレッド「マーマレード」(各3個セット)
を抽選で3名様にプレゼント!
応募はこちらから。(9/30土締切)

■ナショナルデパート株式会社

住所(東京工場)
東京都目黒区八雲2-6-11
営業時間
11:00〜15:00
営業日
金土日
定休日
不定休(お電話でご確認ください)
電話番号
03-6421-1861
公式サイト
https://depa.jp/
NATIONAL DEPARTMENT STORE
https://depa.stores.jp/

WRITER

田辺 容子

田辺 容子

1990年滋賀県生まれ。製菓製パン材料を販売する会社でWEBデザイナーを経験したのち、印刷系の制作会社でライターとして勤める。現在は文化芸術を支える仕事の勉強中。好きなパンはシナモンロール。

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