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パンに使う油脂を詳しく知りたい!種類からトレンドまで業界のプロに聞きました
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パンに使う油脂を詳しく知りたい!種類からトレンドまで業界のプロに聞きました

辻 美穂
辻 美穂

パンづくりにおいて重要な副材料のひとつ「油脂」。パンの表面上には見えないものの、パンをリッチでより深いものに仕上げてくれています。

今回は、主に「パンシェルジュ資格検定3級テキスト」に出てくる油脂の種類や使い方のコツ、さらにパン業界における業務用油脂のトレンドなど、知っていればパン活がより楽しくなる「油脂」の情報を、業界のプロフェッショナルである「ミヨシ油脂株式会社」のみなさんに教えていただきました。

ミヨシ油脂株式会社

1921年創立と、歴史のある油脂製品メーカー。食品部門と油化部門を二大柱に、業務用油脂製品を製造。1941年から製造しているマーガリンや、国内トップクラスの生産量を誇るラードなど、食用油脂業界のリーディングカンパニーです。

ミヨシ油脂

工場は、東京・千葉・名古屋・神戸と、全国に4カ所。食品部門ではマーガリンやショートニング、ラードなど、油化部門では化粧品等に使われる脂肪酸やグリセリンなどを製造しています。

ミヨシ油脂

本社は東京都葛飾区堀切にあります。

パンにはどんな油脂を使うの?主な種類や使い方のコツを聞いてみました!

食用として使われる油脂は、バター、マーガリンなどの「固形脂」タイプと、サラダ油やオリーブ油などの「液状油」タイプ、おもに業務用として使われている「粉末油脂」タイプがあり、製パン業界では、作りたいパンや作業状況などに応じて使い分けられています。

そこで、まずは主な油脂の種類や特徴、使い方のコツなどについて、教えていただきました。

きめ細かでやわらかな生地づくりに「固形脂」タイプ

バターやマーガリン、ショートニングやラードが「固形脂」タイプ。パンづくりにおいても、材料をある程度混ぜて、グルテンが形成されてから加えることで、きめ細やかでやわらかな、ボリュームのあるパンに仕上げてくれます。さらにバターやマーガリンはしっとり、ショートニングとラードはサクサク食感のパンになります。

──バターとマーガリン、ショートニングとラードはどう使い分けるのでしょうか?

見た目も、パンの仕上がりも似ているバターとマーガリン。バターは原料となっている乳本来の風味を楽しめるいっぽう、マーガリンはフレーバーが豊富。基本的には、作りたいパンに合わせて、使い分けるのがおすすめです。

ただ、作業性の面では、生地へより練り込みやすいのはマーガリン。バターの場合、低温ではかたくて伸びづらいため、クリーム状に練る時などは、少し温度を上げてから使う必要があります。逆に夏場や室温の高い厨房では、やわらかくなりすぎないよう温度の管理が必要です。

対してマーガリンは、かたさの違う油脂を組み合わせて作られているので、幅広い温度帯で扱いやすいのが特長。一年を通して扱いやすいので、パンづくり初心者にも使いやすい油脂です。

ショートニングとラードは風味の違いを生かして使い分ければOK。特にパンづくりにおいては、他の素材の風味を生かすショートニングを使うのが一般的です。

もっちり生地にしたい時は「液状油」タイプ

「液状油」タイプとは、常温で液状の油脂のことで、サラダ油やオリーブ油がそれにあたります。ほかの油脂に比べてボリュームはあまり出ませんが、生地の膜が厚く、もっちりと焼き上がるのが特徴。それぞれのオイルが持つ風味を感じるパンに仕上がります。

ミヨシ油脂

サラダ油はJAS(日本農林規格)で精製度が高いと認められた、生でも食べられる食用油全般のことで、さまざまな種類があります。フォカッチャならオリーブ油などのように、作るパンに求める風味や食感によって使い分けられます。

ふんわりボリューミーな生地には「粉末油脂」タイプ

業務用として使われていることが多い「粉末油脂」は、油脂を乳タンパクや糖質などで包んで粉末化したものです。油脂ながら粒子がとても細かいので、生地のグルテン膜に細かく分散し、よりボリュームが出てやわらかく仕上がります。

ミヨシ油脂

コーヒーに入れるクリーミングパウダーのようにサラサラな「粉末油脂」。スーパーなどで小売りされていることはあまりないと思いますが、ミックス粉などには含まれていることが多いそう。みなさんも、知らず知らずのうちに、使っているかもしれません。

失敗しない油脂の使い方や保存方法は?

──油脂はどのようなタイミングで混ぜ込むのがいいのでしょうか?

パンを作る時、油脂の種類によって混ぜ込むタイミングが違います。バター・マーガリン・ショートニング・ラードといった「固形脂」タイプは、ほかの材料をある程度まぜてから、形成されたグルテン膜に練り込むように。「液状油」タイプと「粉末油脂」タイプは、すべての材料と一緒に練り込めます。「液状油」は、グルテン膜が形成されてから加えると、生地となじまないので注意が必要です。

──油脂はどのように保存するのがよろしいですか?

バターやマーガリンは基本的に冷蔵保存ですが、ショートニングは20℃前後の冷暗所で保管するのがベスト。温度が高いとゆるみますので、特に夏は注意が必要です。冷暗所保管のものを冷蔵庫に保管した場合は、使用する前に常温に戻しておいてから使いましょう。

「液状油」タイプや「粉末油脂」は、直射日光を避け、冷暗所に保管してください。ただし、製品によって異なる場合もありますので、各製品の食品表示にある保存方法に従ってください。

弊社のプロ向け情報発信サイト「NEXT FOOD LAB」で、さまざまな油脂でパンを焼き上げた検証結果や、油脂について詳しく紹介していますので、こちらも参考にしていただければと思います。

「よくわかる油脂の話」(NEXT FOOD LAB)

ミヨシ油脂

使う油脂によって、パンのボリュームやクラムのきめの違いがひと目でわかります。

どんな油脂製品が人気?製パン業界のトレンド商品

油脂のトレンドについて、職人や講師などパン業界で働いている方は日常的に実感されているかもしれませんが、筆者のように“食べる専門”のパン好きは、知る機会がないものです。

そこで、製パン業界ではどんな油脂製品が人気なのか、「ミヨシ油脂」製品の傾向に基づいて、近年のトレンドを教えていただきました。

プラントベース製品のニーズが上昇中!

近年、動物性原料を使わないプラントベースの食品が話題です。ヴィーガンやベジタリアンなど、世界中で新たな食事方法に注目が集まっているのはもちろんですが、乳アレルギーをお持ちの方でも食べられるということも理由のひとつ。弊社では、動物性油脂のおいしさを、プラントベースで創りだす「botanova(ボタノバ)」ブランドから「植物のおいしさ バター風味」など3種類のプラントベースの油脂を製造販売しています。

ミヨシ油脂

「botanova」ブランドには、バター風味、ラード風味、牛脂風味の3種類があります。製パン業界で人気なのはバター風味(写真)。「BAKING STUDIO」経由でサンプル依頼が一番多いそうです。そのほかは、安定して仕入れるのが難しいラードや牛脂の代用として、食品業界で幅広く需要が高まっているそうです。(サンプルは業務用で使用される方のみ依頼可能)

油脂製品でパン屋さんをサポート

おいしさがより持続するパンの製造や、人手不足の中でどう働きやすい環境を整えるかということは、多くのパン屋さんが抱える悩み。そこで、パン屋さんの悩みに油脂で力になりたいと、パンのおいしさを維持させる油脂製品や、多くの時間や工程をかけずにおいしいパンをつくれるようサポートする製品を製造し、ご提案しています。

なかでも、簡単にふんわりソフトなパンづくりができる粉末油脂「マジカルソフトDX」や、パン生地に練り込むほか、仕上げの風味付けやツヤ出しが手軽にできる「すぐに使える かける本バター」などが、幅広く使われています。

ほかに、おいしさを持続させるための機能性油脂も取り揃えておりまして、さまざまな製造現場でご活用いただいています。

昨年リニューアルした「すぐに使える かける本バター」は、お醤油のようなボトル入り。Amazonで1本から購入可能ですので、パン教室やご家庭でもぜひご活用ください。

トランス脂肪酸は低減へ

パン好きさんの中には、「トランス脂肪酸」と聞くと、「体に悪い影響がある」というイメージが強い人もいるかもしれません。

じつは“トランス脂肪酸が体に悪い影響を与える”という情報は、欧米における摂取量を前提とした話。WHO(世界保健機関)は1日の摂取量を1%未満におさえるよう勧告していますが、日本人の1日の摂取量は0.3%と、かなり少なめです。

逆にWHOの基準である1%を摂取しようと思えば、1日に食パンなら107枚、ロールパンなら56個食べなければならないそう。よほどの過剰摂取をしない限り、マーガリンもパンも安心して食べられるということです。

さらに近年は、油脂製品メーカー各社の努力によって、マーガリンやパン類に含まれるトランス脂肪酸量は低減傾向に。より安心して食べられるものへと進化しています。

パン好きさんだからこそ知っていただきたい「トランス脂肪酸」についての情報は、「BAKING STUDIO」内のこちらのページでわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。

パン好きさんも活用したい「ミヨシ油脂」のパンに関する情報

今回ご協力いただいたミヨシ油脂株式会社では、油脂製品の製造販売だけでなく、パンに関する取り組みを積極的に行っています。そこで、パン好きさんにも活用していただきたい取り組みを、ご紹介します。

製パン製菓に関する情報を発信!「BAKING STUDIO」

「BAKING STUDIO(ベーキングスタジオ)」は、パン菓子メーカーやリテールベーカリー、素材メーカーといった企業など、製パン製菓にかかわる幅広い人たちに使ってほしいと、パンや菓子に関するレシピや記事を公開しています。同時に、同社製品の紹介やサンプル請求(業務用で使用される方のみ依頼可能)、カタログや資料のダウンロードが可能です。

「ベーカリー相談室」では、パンづくりや店舗経営の悩みを有名ベーカリーのシェフに相談可能。パンやお菓子のレシピはダウンロードできるので、いつもとは違うパンやお菓子にチャレンジしたい、そんな時にもおすすめです。

ミヨシ油脂

公式Instagramは、製菓製パン業界以外の人の閲覧も多いそう。“紹介しているレシピや製品は業務用ではありますが、おうちでパン教室をされている方やパン好きさんにも役立つ情報を発信しています”と担当の菅さん。

「BAKING STUDIO」
「BAKING STUDIO」Instagram

ミヨシ油脂

油脂の違いを体感!「カフェ・マルガパーネ」

「ミヨシ油脂」の製品を使ったパンやお菓子が味わえる、日本初のマーガリンにこだわったカフェ。『ミヨシ味わいラード』のコクとまろやかさが感じられるカレーパンをはじめ、パンの種類も充実しています。テイクアウトもできるほか、イートインメニューにもある「クロックムッシュ」や米粉を使った「米ノ実」シリーズの冷凍パンも購入できます。

誰でも気軽に利用できるので、油脂によるパンの違いを体感してみるのもよさそうです。

ミヨシ油脂

カフェの名は、マーガリンと、イタリア語でパンを意味する「パーネ」を組み合わせたものだそう。京成電鉄「堀切菖蒲園駅」から徒歩5分とアクセスも良好。広々とした店内で、ゆっくり過ごせます。

■カフェ・マルガパーネ

所在地
東京都葛飾区小菅2-8-34 ミヨシ油脂堀切社宅1F
TEL
03-3602-1129
営業時間
11:00~19:00
定休日
日曜、祝日

パンの副原料でもなかなか知ることのない油脂の世界でした。これからは“どんな油脂が使われているのだろう?”なんて意識しながらパンを食べてみるのもよいかもしれません。

「ミヨシ油脂」の情報サイト「MIYOSHI MIRAI PLATFORM」には、ほかにもたくさんの油脂に関する情報が公開されています。みなさんのパン活に、そしてパンシェルジュ検定試験対策にも活用してみませんか。

取材協力

ミヨシ油脂株式会社 食品本部技術開発MD部ソフト開発課 岩瀬 光市さん
              戦略企画本部マーケティング部 課長代理 高橋 芳枝さん
              戦略企画本部マーケティング部 菅 佑海子 さん
              戦略企画本部コーポレート・コミュニケーション部 課長代理 堀越 篤さん
              戦略企画本部コーポレート・コミュニケーション部 浅岡 香織さん
          

■ミヨシ油脂株式会社

所在地
東京都葛飾区堀切4-66-1

WRITER

辻 美穂

辻 美穂

とにかく食べること、飲むことが好きで、異業種から食の業界へ転職をとフードコーディネーターの学校へ。複数の調理現場でバイトしたあと、菓子とパンの会社で商品企画の仕事に就く。自社パンのおいしい食べ方をあれこれ試しているうちにパンの魅力にハマり、その後ライター活動を始めてからも、そして活動拠点を福岡に移した2013年以降も、仕事のついでに気になるパン屋へ立ち寄り、新たなパンとの出合いを求め続けている。最近気になるのは、自分の体重と屋根で勝手に居候するスズメたちのこと。

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