岡山県・総社市でレトロな袋パンが並ぶ「ベーカリー トングウ」
ベーカリー トングウ(岡山県総社市駅前)
「パンわーるど総社(※)」プロジェクトによる町おこしを手がける岡山県総社市。規模やジャンルもさまざまなパン屋さんがひしめくなか、おそらくもっとも有名でもっとも歴史の古いベーカリーがあります。それが、JR総社駅目の前にある『ベーカリー トングウ』。創業は1928年、地元では給食でも提供されるなど昔から親しまれており、地元民にとってはまさにソウルフードともいえる一軒です。店頭には常時130種類ものパンが並び、そのうち20種ほどが季節ごとに変わるそう。県内の農家や飲食店とコラボしたものや季節の行事に合わせたものも登場するので、いつ訪れても新たな出会いと発見に満ちています。老舗の誇りと想いをもって頑張っている『トングウ』さんでは、材料が高騰しても極力値上げはしないとのこと。お客さんを想う熱い心意気に加え、安さ、味、バラエティの3拍子そろった名店なんですよ。その証拠に、店頭には毎日老若男女問わず幅広い層のお客さんが途切れません。
※パンの製造出荷額が県下1位の総社市で、パンによって町おこしをする取り組みのこと。総社ドッグ、総社ロール、フルーツシューケーキ、アイスパンといったテーマに合わせ、市内の各店が商品を開発。スタンプラリーなどのイベント企画も多彩に行っている。
http://www.kibiji.ne.jp/so-japan/
〒719-1136 岡山県総社市駅前1-2-3
※JR総社駅より車で5分
OPEN 8:00-18:00 〈売り切れ次第閉店〉
定休日:日曜日
※店舗や商品に関する情報は直接お店にお問い合わせください。
人気商品
・油ぱん 140円
・岡山コッペ各種 200円~
・バターロール 140円
・三角ジャムパン 135円
・フルーツロール 135円
吉田宣弘さん
岡山県岡山市生まれ。市内のホテルにて3年勤務したのち、「(有)頓宮製パン工場」で8年にわたりパンの製造業務を担当。2007年4月に、晴れて3代目として事業承継を受け、「株式会社トングウ」を設立する運びとなる。事業と従業員のすべてを引き継ぎ、現在は社長兼店長としてつねに店の最前線に携わり続けている。しかしながら継承当時は、一番下っぱの者が社長になるというマンガみたいな話を体現。「みんなやりづらかったでしょうね」とユーモアたっぷりに笑う。
お店のこだわりやコンセプトについて教えてください。
こだわりやコンセプトにとらわれないというのが、しいていえばこだわりでしょうか。その意図としては、僕は「やりたいことをやれるときにやりたい」気持ちが強いのです。たとえ会社が今日つぶれてしまっても、後悔のないよう一日一日を全力でやる。その想いこそが、長年この地で店を育ててくださったお客さまに感謝を届けることにつながると思っています。「感謝」とはもちろん、毎日同じクオリティを保ったおいしいパンのこと。そのために、自身も日々のパンづくりにおいては「ワクワク感」を大切にしています。創業以来伝統の製法や素材、レシピを守りながらも、遊び心あるアイデアを加えるなど革新に挑み続けているつもりです。また、最近は夜間のみ店頭に設置した自動販売機で袋パンの販売を始めたり、今後はオンラインショップを開設したりと新しい挑戦も続けていますよ。
看板商品について教えてください。
今年93年目を迎える当店にとって生命線ともいえるのが、多彩にそろう袋パンの数々です。なかでも『トングウ』の代名詞ともいえる存在が1日800個売れることもある「油ぱん」です。このパンは開発を初代が手がけ、2代目が総社の地に根づかせ、そして3代目の僕が引き継いだものです。ほのかにシナモンが香るもちもちの生地に、素朴でしっとりきめ細かな自家製こしあん入り。昭和初期から変わらない、どこか懐かしい味わいが魅力で、「この味で育った」と言ってくださる方も多くいらっしゃいます。岡山から他県へ出られた方々にもまた味わっていただきたいと考え、今年からオンライン販売を立ち上げる予定なんですよ。油で揚げてあるため翌日になると固くなってしまいますので、電子レンジで20秒ほど軽く温めなおすとおいしくお召し上がりいただけます。
もうひとつ、4年前に新たなる『トングウ』の顔として生まれたのが「岡山コッペ」たち。誕生のきっかけは、当時岡山市内の店舗さんが行っていたイベントで、当店の袋パンを販売させてもらったことでした。「面白いことをやってほしい」との要望に対し、「お客さまの好きな具材を好きなだけサンドしたコッペパンの対面販売をしてみたい」と提案したんです。そのときにネーミングを「岡山コッペ」と名づけ、イベントのために消しゴムハンコを作って袋にペタペタ押すなど、すべてを手作りしました。準備自体が学園祭みたいでとても楽しかったのを今でも覚えていますね。イベントの体験をSNSで発信したところものすごい反応をいただき、ほかのイベントへの参加を経て3年前に店頭販売を始めました。当初は8種類だったんですが、どんどん新商品や季節の味が加わっていき今では30種類にもおよびます。「黒毛和牛メンチ」、「レモンだれチキン」、「かにクリームタルタル」、「鶏そぼろ丼」、「うずら海老」、「鉄板やきそば」、「地鶏の柚子胡椒」、「ブルーベリーヨーグルト」、「いちごマーガリン」と、定番からちょっと変化球のテイストまでさまざま。もともと、学校給食のパンや炊飯をやっている関係で、コッペパンを焼くノウハウはばっちり。学校を卒業したらなかなか食べる機会のない思い出の味ですから、幅広い世代の方々に受け入れていただけると確信していました。
《『ベーカリートングウ』のパンができるまで》
前日夕方の中種仕込みからパンづくりがスタート。
当日の朝は早く、早朝3時より各種パン生地づくり、発酵、成型と進む。
店内のオーブンで焼成したのち、袋パンの包装を行いながら
店に並べる焼きたてパンの焼成も同時に手がける。
商品の陳列ピーク時間は11:00ごろ。
パン作りで心がけていることを教えてください。
一番に心がけているのは、毎日変わらず安定したものを作り続けるということですね。93年の長きにわたりご愛顧いただいているのはそのおかげだと思っていますので。と同時に、なにより難しいのも安定した商品づくりだと思います。日々のパンづくりで楽しいと感じるのは、「全部」です(笑)!毎日毎日、自分のパンが「1日に何人を笑顔にできるか」をつねに思いながら働いているつもり。心から仕事を楽しみながら、お客さんにおいしいパンをお届けしたいと願っています。
吉田さんのパンとのエピソードを教えてください。
子どものころからとにかくパンが大好きで、いまだに米がなくてもいい人間なんです(笑)。小さいころ、母が自宅でパンやお菓子を作ってくれたり、誕生日には一緒にケーキづくりをしていた記憶があります。きっとその影響が強くて、今この職業についているんだと思います。半ば趣味のようなものですので、趣味がそのまま仕事にできていることをとても幸せに感じていますよ。きっかけをくれた母には感謝しないといけませんね。
パンシェルジュやパン好きの読者に向けてメッセージをお願いします。
地元・総社のみならず、岡山から県外に出た方や他県の方にも『トングウ』のパンを味わっていただきたいと思っています。そのためにオンラインショップを開設し、徐々にですが販売エリアも拡大していけたらと考えているところ。昔懐かしい袋パンのノスタルジックな味、変わらないパッケージのレトロ感も楽しんでほしいですね。岡山県に来られる機会がありましたら、当店にもぜひ寄ってみてくださいね。
WRITER
ありま しょうこ
パンシェルジュ3・2・1級のほか、パンプロフェッショナル・パンスペシャリスト・手作りパンソムリエ・ベーカリーパティシエ・カレーパンタジスタの資格も取得。
このたび、ずっと夢だった『パンの本』の創刊編集長に就任。
『WEBタウン情報おかやま』では、岡山のパン屋さんを紹介する企画『パンのとりこ』を連載。
★日刊WEBタウン情報おかやま
https://tjokayama.jp/
★パンのとりこ
https://tjokayama.jp/section/series/pantoriko/
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