野菜からはちみつ、醤油まで!豊富な川崎食材でパンを作る川崎・溝の口「Len」
Len - Local Speciality Factory(川崎市溝の口・二子新地)
2020年12月、神奈川県川崎市の溝の口に、川崎市産の食材を使ったパンとスイーツのお店が誕生しました。2021年3月には、東京・二子玉川から多摩川を挟んだ隣の二子新地に、パン製造のファクトリーを併設した2店舗目もオープン。
なぜいま、溝の口から地元のおいしさを発信することになったのか、そしてどんな風にパンに取り入れているのか、オーナーの丸山佑樹さんとパン製造チーフの町田真織里さんにお話を伺いました。
溝の口ファクトリー
〒213-0001 神奈川県川崎市高津区溝口3-13-5 LUNA PIENA 101
電話番号:044-281-4456
※東急電鉄田園都市線溝の口駅、高津駅から徒歩6分
営業時間:11:00~19:00
定休日:不定休
二子新地ファクトリー
〒213-0004 神奈川県川崎市高津区諏訪1-8-1 Romsビル3階
電話番号:044-455-7610
※東急電鉄田園都市線二子新地駅から徒歩1分
OPEN:8:00~19:00
定休日:不定休
人気商品
・Lenブレッド
・豆乳パン
・あんバタークロワッサン
※店舗や商品に関する情報は直接お店にお問い合わせください。
丸山佑樹さん(「Len」 オーナー)
東京都内で長く飲食店グループ経営に携わったあと、2017年から川崎市・溝の口に拠点を移す。地元の食材で作った定食やスイーツが食べられるカフェ「TETO-TEO(てとてお)」を開業。コロナ禍をきっかけに2020年12月川崎市内で作られた食材を使うスイーツとパンを製造販売する「Len」をオープン。
町田真織里さん(パン製造チーフ)
大学で幼児教育を学んだあとニュージーランドに渡り、20代を過ごす。帰国後、事務系会社員として働きながら趣味でパンとお菓子作りに取り組む。手に職を付けようと横浜のパン店で3年修行ののち、2021年2月に創業間もない「Len」で働き始め、現在はパン製造チーフとして活躍。
ベッドタウン溝の口は地域と住む人に大きなギャップがあった
──「Len」は川崎産の食材を使うパンとスイーツのお店ですが、誕生の背景にはどういったことがあるのでしょうか?
丸山さん(以下、敬称略)僕は以前から溝の口で、“Made in Local”、つまり「地元産」をテーマにした「TETO-TEO(てとてお)」というカフェを運営しています。地元生産者さんの野菜を使った惣菜がたくさん食べられる「定食」を売りにした店です。
僕が溝の口に拠点を構えた2017年ごろは、駅前にチェーン店が集中していて賑やかでしたが、子供連れで健康的な食事ができるようなお店はほとんどありませんでした。
一方で、川崎市内には品質のいい野菜を作る農家さんが実は多いのに、近くに住んでいる人にはあまり知られていない現状がありました。スーパーでも、地元の野菜として売られていることもほとんどありません。
都心で働いていて感度が高い人も多く住む場所なのに、大きなギャップがある。だから、そのギャップを埋めたらおもしろそうだと思ったんです。
オープン以来「TETO-TEO」は近隣の方に喜んでもらえてたのですが、2020年のコロナ禍では、やはり厳しい状況に立たされました。同じように農家さんたちも、特に飲食店向けの野菜を作っている方はせっかく育てた野菜を捨てることになったり、精神的にも辛そうでした。
そんなこともあって、新たに地元の野菜やフルーツを使ったパンやお菓子などを売る「製造小売業」にチャレンジすることにしました。地元の思いがこもった食べ物をおうちで楽しんでもらえば、新しい価値が生まれると考えたんです。
意外なほど種類豊富な川崎食材
──「Len」では、川崎市内で生産される様々な食材を使っていますね。
丸山 川崎市には品質のいい農作物を作る農家さんはもちろん、養蜂家さんまでいます。野菜やハチミツに加えて、全国的にも評価の高い「越路屋豆腐店」の豆乳も使っています。今は、ジャンル問わず30ほど、カフェだけをやっていた頃よりずっといろんな生産者さんとの付き合いが増えました。
──町田さんはこれまでどんなパンを開発なさったんですか?
町田さん(以下町田)「ニラと干しエビの香味チャバタ」が特徴的ですね。川崎産のニラを入れて、中原区の「福來醤油」の醤油を使った自家製ポン酢ラー油を塗って仕上げています。
──ニラを使ったパンはあまり見かけませんね。
町田 ニラとパンは珍しい組み合わせだと思います。「Len」のパンは湯種を使ったオーバーナイトの長時間発酵で、もちもちの食感が特徴です。そのパン生地とニラと合わせるなら、韓国料理のチヂミのようにしてみてはどうかと思ったんです。
──すぐにおいしいパンに出来ましたか?
町田 最初はうまくいかなかったんです。ニラを軽く炒めてからパンに入れてみたら、あまりパンが膨らまなくて、何度か試しました。でも、やっぱり膨らまないので、上司のベーカリー長に相談してみたところ、「ニラはよーく炒めてから入れないとグルテンを壊す酵素が出て、パンが膨らまない」と、ニラをかなり長時間炒めてパンを作ってみせてくれました。そうしたら酵素が出にくくなって、パンが膨らむんですよ。
私はニラや玉ねぎからでる酵素がグルテンを壊してしまうことを知りませんでした。パンにも料理にも詳しいベーカリー長は、失敗から学ぶべきだという考えで、しばらく私が膨らまないパンを作るのを見ていたようなんです。
最終的には、もちもちした食感のパン生地と香りのいい干しエビが入ったパンが完成しました。
──生産者さんも出来上がったパンを召し上がりますよね。どんな反応ですか?
丸山 僕は週に2〜3回は農家さんや生産者さんに会いに行くので、出来たパンを持っていくようにしています。みなさんとても喜んでくれるし、自分がプロジェクトに参加していると思ってくれているようです。「今度はこれを持っていって」と、その時期の出始めの野菜を渡してくれることもあります。
町田 丸山が農家さんから試作用に野菜をもらってくるので、それからどうやってパンにしようかと考えます。試作を経て出来上がったパンを「ベジタブレッド」と呼んでいるんですが、第1弾は伝統的な川崎野菜ののらぼう菜を使ったパンを作りました。
他にもエシャロットやみょうがのような川崎産の野菜もパンに取り入れました。あまり珍しい野菜だと開発に時間がかかって、できた頃には野菜の収穫が終わっていたということもなかったわけではありません。
川崎産のフルーツで起こす天然酵母を利用
──ベーシックなパンにも川崎の食材を使っているのですか?
丸山 「Len」でいちばん人気があるのは「Lenブレッド」という食パンですが、天然酵母を使っています。その天然酵母をいちごや柑橘、柿など地元のフルーツや野菜で起こしています。元の食材の香りもほのかに感じるのもおもしろいですよ。
町田 私が開発を担当した「クロックムッシュ」は、ベシャメルソースに川崎産の玉ねぎをスライスしてバターで炒めたものを入れています。味のアクセントにはドライトマトを入れました。
「メープルベーコン」はブリオッシュ生地の食パンを使ったフレンチトーストをアレンジした商品で、生地とアパレイルに、川崎産うみたて卵や川崎産の塩も少し入れています。
──川崎産の食材を使うためのアイデアがどんどん生まれているんですね。
丸山 「Len」は、腕がよくてセンスののいい優秀なパン職人やパティシエに恵まれています。川崎市内の食材を使う“Made in Local”というコンセプトや、おしゃれにしたブランディングが注目されがちですが、川崎産の素材をおいしいパンやお菓子にできているのは、彼らのおかげなんですよ。
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自然酵母、湯種そしてオーバーナイトでパンを作っている「Len」。全体的にもちもちとやわらかな食感のクラムが印象的です。
川崎・溝の口は、渋谷から電車で30分ほどと、都心から近い土地故に、取り上げられることが少ない地域です。その地域に注目をして、「地元の食材を取り入れる」ことを大事にパン作りをしているのが、お話から伝わってきました。
今後、同じように地産地消をテーマにしたパン屋さんが各地に増えていくということもあるのかもしれませんね。