2021年11月にリニューアル。横浜「ベッカライ徳多朗」は30年以上地元で愛されるパン屋さん
横浜市青葉区にある「ベッカライ徳多朗」。1990年のオープン以来、近隣をはじめ多くの人に愛される名店のひとつです。2021年11月にリニューアルし、現在お店の定休日は火水木の3日と、パン屋さんとしては大胆な変化を遂げました。店舗奥の工房にお邪魔して、社長の徳永淳さんと副社長の久美子さんご夫妻にお話を伺いました。
朝ごはんは和食の家で育った夫妻が、パン屋さんになった理由
──おふたりがパン屋さんになった背景を教えていただけますか?
久美子さん パンを素晴らしいものだと思ったのは、専門学校の卒業旅行でヨーロッパに行ったときです。
ドイツで買い物をしてたら晩ごはんを食べ損ねちゃって、仕方ないからスーパーでパンを買ってバスの中で食べたんです。そのパンがめちゃくちゃおいしかったんですよ。
ヨーロッパにはその土地ごとに、土地の食べ物にあったパンがあることを、その旅行で知ったんです。どの国でどんなパンが食べられているかなんて、行かなくちゃわからなかった時代です。カルチャーショックでした。
淳さん 僕は、うちのやつ(久美子さん)みたいに感動的な話はないんですよ。朝ごはんはご飯とお味噌汁と魚といった家で育ったのは共通しています。パンの見方が変わったのは、大学生のときにスクラッチベーカリーで売られていた焼き立てのフランスパンを食べたときですね。
僕は大学卒業後に5年間、食品メーカーの営業職をやっていたんですよ。外回り先にパン屋さんがあって、朝が早くて大変な仕事だけどおもしろいと聞いていたんです。
自分で何か商売をやりたいと思っていたときで、主食としてパンを食べる日本人が増えていたし、パン屋なら長く支持されるかもしれないと思いました。
久美子さん 私は卒業旅行のあと料理教室で働いたんですけど、でもしばらくしてパン屋で働こうと思ったんです。今は女性もたくさんいるけど、当時パン屋は男性の仕事。腰を悪くするから女の人はね、なんて言われたんだけど、私はずっと運動やっていたから大丈夫です!って。
それで青山アンデルセンで働けることなりました。仕込みはやらせてもらえなかったけど、デニッシュのオーブンを1年ぐらい担当しました。主人は私より3ヶ月先にアンデルセンで修行を始めていたんです。
──それでおふたりで独立される流れになったんですね。
淳さん 最初は小さいお店でしたけど、だんだん手狭になって、たまプラーザで2度引っ越して、今に至ります。お客さんの中には海外でいろんなパンを食べてきた方もいたので、色々教えてもらいました。「こんなパンが食べたい」と言われるとイメージして作ったりもしてね。
ベッカライ徳多朗といえば!の「ミルククリーム」は小さな女の子の好みがヒントに
──ベッカライ徳多朗さんといえば「ミルククリーム」ですが、開店の時からあったんですか?
久美子さん それも、お店に来てくれていた小さい女の子がきっかけで生まれました。コンデンスミルクをつけて食べるパンが好きって教えてくれたんです。
中にクリームを挟んだパンはよくあったけれど、クリームを手作りにしたほうがおいしいんじゃないかなと思って作ってみたら、人気になりました。
クリームはコンデンスミルクと砂糖とバターで作っています。「ミルククリーム」は1日に2回に分けてパンを焼いて、前日に作ってしっかり冷やしたクリームを絞ります。まとめて絞らずに店頭に並べた分がなくなったら、またクリームを絞ってお店に出しています。
──「パン・ド・ロデヴ」も思い入れのあるパンだと伺いました。
久美子さん ロデヴは伸びやかな生地が特徴です。だからカゴに入れちゃうと本来の姿じゃなくなっちゃうかなと思って、カゴに入れずにそのまま焼いています。
ロデヴとの出会いは、元ドンクの仁瓶利夫さんに誘われた集まりでした。初めて食べて、魂が揺さぶられるぐらいおいしかったんです。
いろんなパンを食べてきましたが、数少ない心ときめいたパンのひとつです。パンだけで食べてもおいしいけど料理と合わせて初めて生きるパンで、うちの3人の子どもたちもみんな好きです。
ロデヴに出会ったときは、こんなパンを自分が焼けるなんて思っていませんでした。日々の時間は3人の子どもの子育てや、お店を回すことに当てられていて、パン作りの勉強はできていなかったんです。
だけど、周りの人たちに「あなたが自分でこのパンを作ったらいい」と勧められて、私が担当するパンになりました。
ロデブは難しいパンで、今も本当にがんばらないとうまく焼けません。毎回、毎回、緊張しながら作ります。だから、いつまでも作るのが楽しいパンなんだと思います。
リニューアルでオープンは朝6時半に。朝から焼き立てパンが食べられると好評
──2021年11月のリニューアルをきっかけにオープンを朝6時半にされました。パン屋さんの中でも早いほうですよね。
久美子さん 6時半の開店と同時に来てくださるお客様もいます。だからパンが2、3種類しかないということがないように、パンを焼くスタッフは夜2時ぐらいから、主人はもっと早くから全力でパン作りをしています。
おかげで朝の通勤途中の方やウォーキング途中の方に、朝早くから焼き立てのパンが買えて嬉しいという声をいただいています。
淳さん 今回のリニューアルはコロナも影響してます。以前はパンをすぐに食べたいと言ってくれるお客さんのためのカフェスペースがありました。今はその場所はサンドイッチを作る作業場所にしています。
サンドイッチには力を入れているので種類もいろいろありますが、「バゲット・リュスティック」を使ったカスクルートと呼ばれるサンドイッチは試してみてもらいたいですね。
リュスティックはミキサーではなく、息子が大きなボウルで手で仕込んでいます。あまり捏ねない分グルテンが繋がらず、皮がパリッとして、噛むとスッと歯切れがいいパンです。
ヨーロッパの小麦粉は北米の小麦に比べるとグルテンが少ないので、生ハムを挟んだりするサンドイッチはリュスティックの生地で作るとおいしいんですよ。
手作りとお客さんの声を大切にしたことが長く愛されてきた理由
──30年以上、お店が愛されてきた理由はどんなところにあると思いますか?
淳さん うちのやつが料理を勉強して経験も豊富なおかげで、「ミルククリーム」のクリーム以外にも、カレーパンの中身もあんパンのあんこも手作り。そういうものを一から作ったところも、お客さんに支持されてきた理由だと思っています。
お客さんからもいろんなことを教えてもらったりして、試行錯誤を続けてきたことも大きいかもしれませんね。
久美子さん 近所の方々に愛されているのはパン屋としていちばんの幸せだと思います。30年前からいらしているお客さんもたくさんいて、友達みたいですよ。あの赤ちゃんだった子がもう働いてるの?なんて。お店にいらっしゃると、わーって手を振ったりします。
私は子どもが産まれる前日まで働いたりしたこともあったし、パン作りもパン屋さんも大変。でもやればやるほど魅力を感じます。初めは主人とふたりでずっと働くのかと思っていましたが、今はパートさんも入れてスタッフは36人。みんなの力がすごく大きいと感じています。
リニューアルしてからお店の休みは、火・水・木の3日間ですが、1日は仕込みをしているので、パン作りのスタッフは週休2日なんです。おいしいパンを作るには何より精神が大事。いい選択をしたと思っています。
手を休めることなくキビキビと働くみなさんの間には、緊張感もありながら、どこか明るく楽しい雰囲気が漂うのが印象的な「ベッカライ徳多朗」の工房。
スタッフのみなさんからは、塩バターロール、スコーン、ロデヴ、リュスティックなどそれぞれからおすすめを教えていただきました。パートさんのなかには、ずっと前から「ベッカライ徳多朗」のパンのファンで、子育てがひと段落して働き始めたら楽しくてたまらないという方もいました。
実務家肌な淳さんと明るくアクティブな久美子さんの徳永さんご夫妻による牽引で、お店全体がいい雰囲気。たまプラーザ近隣のみならず、横浜市北部のパン好きさんにはなくてはならない存在と言えそうです。
■ベッカライ徳多朗 元石川本店
- 住所
- 神奈川県横浜市青葉区元石川町6300−7
- 電話番号
- 045-902-8511
- 営業時間
- 6:30~16:00
- 定休日
- 火水木
- 公式インスタグラム
- https://www.instagram.com/toktaro1114/