1. ホーム
  2. パン記事
  3. パンやの夜明け
  4. 森田良太さん(「BREAD IT BE」店主/「ベーカリー&レストラン 沢村」、「THE CITY BAKERY」統括シェフ)
森田良太さん(「BREAD IT BE」店主/「ベーカリー&レストラン 沢村」、「THE CITY BAKERY」統括シェフ)
パンやの夜明け

森田良太さん(「BREAD IT BE」店主/「ベーカリー&レストラン 沢村」、「THE CITY BAKERY」統括シェフ)

梶原 綾乃
梶原 綾乃

BREAD IT BE(神奈川県鎌倉市)

軽井沢でおなじみの「ベーカリー&レストラン 沢村」や、東京・大阪・福岡をメインに展開する「THE CITY BAKERY」の統括シェフである森田良太さんが、2020年2月に神奈川県鎌倉市にオープンさせた「BREAD IT BE」。森田さんの作るパンは、独自の発想をもってセレクトした複数の粉を使用していることと、生地を「低温長時間発酵」していることが特徴的。通常4~5時間で発酵させるところ、18時間以上の時間をかけて、じっくりとうまみを引き出しているそうです。噛めば噛むほどに感じられる、小麦のうまみは、長時間の発酵ならではのおいしさです。店内には常時30種類ほどのパンが店に並び、近隣に住む人を主な客層としています。

〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町2-16-35
※JR 鎌倉駅より徒歩4分
OPEN 9:00-18:00 〈売り切れ後閉店〉
定休日:水曜、第2木曜

※店舗や商品に関する情報は直接お店にお問い合わせください。
https://breaditbe.com/

人気商品
サングリア・ロッソ、ビアンコ
アガベレモンリュスティック
クロワッサン
BIBバゲット
秦野産小麦自家製粉コンプレ
食パン各種 など

森田良太さん

1979年埼玉県出身。 料理の専門学校を卒業後、横浜中華街萬珍樓にて料理人を勤める。その後、ホリデイ・イン横浜に転職し、 ユーハイム、新横浜シャンドブレでシェフを経て、2009年に株式会社フォンスにて、軽井沢の沢村を立ち上げ。統括シェフとして、商品開発や人材教育を担っている。

お店のこだわりやコンセプトについて教えてください。

コンセプトはずばり、「シンプルなパンだけで勝負したい」ということです。今まで私が統括シェフとして関わってきた「沢村」や「THE CITY BAKERY」もそうですが、食パンやハード系のパンなど、いわゆる「食事系」パンで勝負したいと思っています。鎌倉は鎌倉でも、ここはメイン通り(小町通り)から一本奥の通りなので、観光で来た人だけではなく、地元の人にもよく来てもらえるんです。「日常でパンを食べるならここのパンがいい」、「朝食に食べるようなパンがここに来れば手に入る」と、思ってもらえるようなお店にしたいと思っています。

お店の名前はビートルズの曲名のようですね。「ロックの基本はビートルズ」のように言われていますけれど、「パンの基本で勝負していく」という、お店の姿勢を感じました。

店名は、訳すと「パンであれ」という意味です。自分が好きなミュージシャンも、原点をたどるとやっぱりビートルズなんですよね。これだけ古いバンドでも、子どもでも知っていますからね。この店がそんな存在になれたらいいなと思います。
店名はもちろんのこと、店づくり――物件探しから、厨房内の図面を書いたり、機材を選んで搬入したり――は、すべて私が関わっています。これまで何度も図面を書いてきましたが、機材や動線など、集大成ができたと思います。外装のデザインは、海外に出掛けた際に撮影した、雰囲気のよい建物や風景を参考に取り入れました。

森田さんが、「ベーカリー&レストラン 沢村」の立ち上げに関わられて、だいたい10年ほど経ちましたよね。なぜこのタイミングでご自身のお店を?

自分のお店をやりたいというのは、うちの会社(株式会社フォンス)の社長にずっと話していたんですよ。それで今回、10年働いたご褒美……じゃないですけど、「好きにやっていいよ」というお話をいただいたので、お店を立ち上げることができました。
入社したばかりのときは、独立への憧れもあったのですが、会社がどんどん大きくなるにつれて、そう強くは思わなくなったんです。「沢村」、「THE CITY BAKERY」の立ち上げやレシピ開発に深く関わっていくうちに、会社を抜けるのはちょっと違うかなと思いまして。会社にいながら、自分のお店をやらせていただくことになりました。

看板商品について教えてください。

いくつかありますが、一番の看板商品はバゲットですね。製法は基本「沢村」などと同じですが、自家製粉した粉を使っています。「BREAD IT BE」では、ドイツ製の製粉機を仕入れて店内で使用しています。挽きたての小麦で作るパンは、香りの良さが一番。挽いているそばから立ってくるその香りを、逃さぬままに焼き上げることができるんです。挽き立ての小麦粉には自家製粉の小麦粉は吸水性がよく独特の食感があり、そういったニュアンスも焼き上がりまで残すことができるんですよ。

あとは、一般的なバゲットとは、サイズが違うのも特徴です。じつはバゲットには定義があって、グラムが300~400gで、長さが70〜80cm。クープが7つ入るんです。でもこのサイズだと、電車で持って帰るには長くて持ちにくい。「半分に切ればいいじゃん」と思っても、切った部分から乾燥が始まってしまうので、切らなくても持ち運びやすい、ちょうどいいサイズのものを作りました。

おすすめの食べ方は……もう何にでも合わせてほしいですね。例えば、スープと一緒に合わせてもいいですし、朝食に卵とウインナーと一緒に食べても。トースターなどで軽く温めて食べてもいいですし、そのままでスープを浸して食べてもいいですし、アヒージョのオイルをつけて食べるのもおいしいです。

あとは、「サングリア ロッソ」というパンがあって。これは昔、スパイスのお店と一緒にコラボをしたときに作ったものです。なかなかお店で出すタイミングがなく、眠っていたレシピになります。あとは2019年の「パンのフェス」(※)で登場した「パン・オ・ティー」など、イベントで作ったパンを復刻させたり、今まで「沢村」などで作ったパンに磨きをかけたような商品もあります。これらのレシピの“蔵出し”は、店舗数が多い「沢村」などではなかなか実現しないこともあり、自分のお店をやるにあたって実現したいと思っていたことです。お店の規模が小さいぶん、材料もオーガニック系の原料を多く使うなど、こだわることができるので。

※……毎年横浜赤レンガ倉庫で開催されている、パンに特化したグルメイベント。

<BREAD IT BEのパンが焼き上がるまで>

1日目……製粉
2日目……原料の計量
3日目……生地の仕込み(ミキサーで混ぜる)
~生地を寝かせる(18時間以上)
4日目……寝かせた生地を、切り分け・成形。
15分~20分ほど寝かせてから、焼成へ

パン作りで難しいところや、楽しいところを教えてください。

焼き上がって、窯から出したとき。理想通りのパンができあがっていたときが、楽しいですね。あとは、新しい商品を考えてるとき。何かこう、形になる瞬間が楽しいです。難しいのは、見極め。毎日毎日同じように作れるわけではないんです。粉の挽き具合がちょっとずれたりすることとか、気温によって水分を調整する必要もありますし。その場合、「どう対応ができるか」というのが、職人の腕の見せどころ。生地を混ぜて、「ちょっと違うな」って思った後の対応が、その後の出来上がりを左右するんです。

森田さんは、統括シェフとして、その「ちょっと違うな」と思ったときに、「どうするか」を教えられてきたんですね。

そうですね。「沢村」のような規模の大きいお店より、「BREAD IT BE」のような小さめのお店のほうが、それについては教えやすいですし、自由にできると思っています。
私は、「パンは作るものではなくて、育てるもの」だと思います。人間も、寒いと風邪をひいてしまうように、菌も環境よく生かしていくのが大切で、それがパン職人の仕事なんです。

生地を育てる作業はもちろん、それ以前の“粉選び”も、職人技といいますか、難しそうな印象を受けます。どのようにして粉を選んでいるのでしょうか。

粉選びは、農家の人でいう土選びじゃないですけど、大切な素材選びのひとつです。うちではひとつのパンを作るのに、3種類以上、多くて5種類の粉を使っているんですが、粉にはそれぞれ「食感を出すもの」「ベースになるもの」「香りを出すもの」など、役割があると考えていて。それを組み合わせてパンにしています。
初めて使う粉があるときは、最初にその粉だけでバゲットを焼くんです。バゲットはシンプルなぶん特長を掴みやすいんです。どういった性質を持った粉なのかを覚えておいて、あとで、作りたいパンに合わせて、粉を組み合わせています。

なるほど!ご自身の経験から、「この食感にはこの粉がいい」という情報を蓄積されているのですね。

どういう食感にしたいか、風味や香りはどうしたいか、というのをイメージして、組み合わせていますそれに合う粉を組み合わせています。逆に粉の風味があまり出ないタイプのパン――ブリオッシュとか、バターが多いパンなど――は、水をよく吸う粉とか、ボリュームが出る粉とか、そのような特徴から選んでいます。

続いて、パン屋を志したきっかけなど、森田さんとパンのエピソードを教えてください。

私はもともと、パン職人ではなく、料理人からキャリアをスタートさせました。調理学校を卒業して、横浜中華街のお店に就職しました。そこまでは、中華をやりたいと思っていたのですが、そのころの東京や横浜は、まだ「ブーランジェリー」という名前のパン屋が少なく、徐々に増えてきていたころなんですよ。そういったお店を巡っていくうちに、パンにのめり込んでいきました。もともとパンは小さい頃からずっと好きだったんですけども、実際、別にパン屋になろうとは思ったことはなくて。でも、ブーランジェリーみたいな、かっこいい新しいパン屋さんができていってから、食べ歩きをしていくうちに、自分も作る側になりたいなと思うようになったんです。それで中華屋さんを辞め、パン職人への道に進みました。

その食べ歩きで、印象に残ったお店はありますか?

印象に残ったのは、やはり「ルヴァン」(※)です。衝撃を受けました。おいしい・おいしくないとかじゃなくて、何なんだろうかと、シンプルに驚きました。クリームパンやメロンパンなどといった菓子パンはよく食べていたんですけど、バゲットとか、ハード系のパンは今まであまり食べたことがなかったんです。そんなものもあるんだっていう衝撃でした。

※ルヴァン……東京都渋谷区と長野県上田市に店を構える人気ベーカリー。

ルヴァンとの出会いで、食事系のパンのよさに出合ったということですね。では、パン職人のキャリアにおいて、尊敬している方は、どんな方ですか?

シニフィアン・シニフィエ(※)の志賀勝栄シェフです。志賀シェフの作った、低温長時間発酵のバゲットがすごくおいしくて、衝撃を受けました。志賀シェフには、ユーハイムで働いていた時代にお会いしました。今のパン作りも、志賀さんの考え方がベースになっています。低温長時間発酵で作ったパンは、ストレート法よりも効率よく生産できて、さらにうまみが出るんですよ。

※シニフィアン・シニフィエ……東京都世田谷区に本店を構えるベーカリー。低温長時間発酵のパイオニアと呼ばれている。

最後に、パン好きの読者に向けて、耳よりの情報を教えてください!

パン屋さん巡りをしていたときに、私が必ず買っていたパンを紹介したいと思います。まずは、「バゲット」や「カンパーニュ」などのハード系パン。バゲットを食べれば、だいたいそのお店の作り方がわかりますからね。次に「クロワッサン」。使っているバターの質や、折り込み方、層など技術的なところがわかります。あと「食パン」、「ブリオッシュ」は、その店によって結構特徴が出やすい。「クリームパン」を買うと、中のクリームをちゃんと作っているのかがわかりますよ。これらのパンを買って食べると、「このパン屋さんはどんな感じなのかな」という、自分の中の評価ができるので、もしうちの店に来られた際も、皆さんなりに評価いただければと思います。

特にハード系のパンが好きな方にとって、「BREAD IT BE」は満足してもらえるようなお店であることは間違いないですね。

そうですね。そう願っています。もしくは、「ハード系はあんまり食べないけどチャレンジしてみたいな」という人にも。ハード系の「硬い」ってイメージを変えたいというのはあります。今、主流になっている高加水のパンって、見た目は固そうだけど、モチモチしてて結構やわらかかったりするので。なので、うちは「ハード系」ではなく「食事系」という言葉を使っています。「ハード」っていう言い方だと、どうしても硬いとか、そのまま食べられないとか、大人向けなイメージが先行しちゃうので。子どもから大人まで食べられる「食事系」という言葉で、ハード系のイメージを変えていきたいです。

WRITER

梶原 綾乃

梶原 綾乃

編集者/ライター。
お菓子やパンを作ったり、食べたりすることが好き。
ご当地パンの包装紙を収集中。「サラダパン」が大好き。

SPECIAL