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銀座から東京ドームシティへ移転。東京の「ビゴの店」が約40年で変わったもの、変わらないもの
パンやの夜明け

銀座から東京ドームシティへ移転。東京の「ビゴの店」が約40年で変わったもの、変わらないもの

野崎 さおり
野崎 さおり

フィリップ・ビゴさんは、“現代の名工” “フランスパンの神”などと評された人。パンシェルジュ検定2級テキストに登場するレイモン・カルヴェル氏と共に日本にフランスパンの文化を根付かせました。ビゴさんは2018年に亡くなりましたが、その名を冠した「ビゴの店」は、兵庫県芦屋市を中心に展開され、東京にも店舗があります。東京の店舗は1984年から40年近く営業していた銀座から、2023年7月に東京ドームシティ ラクーア内に移転オープンしました。移転で変わらないもの、変わったものはなにか。「ビゴの店 東京ドームシティ ラクーア店」の店長、尾山竜太さんに伺いました。

お出かけ先のパン屋さんから、暮らしに近いパン屋さんへ

ビゴの店

パンのいい香りがお店の外まで届いています!

──2023年7月に銀座からラクーア内に移転オープンされました。お店として変化を感じたことはありますか?

移転してきて強く感じているのは住宅街が近いため、日常のパン屋さんとしての役割が増したことです。

例えば、銀座の店で予約の電話を受けると、明後日とか来週とか、何日かあとに買いに行きますという予約がほとんどでした。こちらに来てからは、このあと買いに行くので取り置きお願いしますとおっしゃる方が多くなりました。

銀座のお店は地下2階だったので、知る人ぞ知るお店でした。現在は商業施設の1階、しかも入り口に面しています。店名を知らないまま立ち寄られたお客様が、「ビゴの店」として存在を認識してくださるようになったことも、個人的に嬉しく思っています。

ビゴの店

店内は訪れる人が途絶えません。 イートインコーナーもあり。

どちらも人気! 子どもたちも好きなバゲットと幅広い層にファンがいるバタール

──いちばん人気のあるパンを教えてください。

銀座のときから変わらず、ビゴさんが「外はパリパリ、パリの味」と言っていたバゲットです。ラクーア店でのことですが、焼きたてのパンを店頭で品出ししていると、5歳ぐらいのお子さんが「バゲットを買っていこう」と話しているのが聞こえてきました。こんな小さい子にまでバゲットという言葉が浸透しているのかと感動しました。

ビゴの店

ミネラル分の多い粉を使った「スペシャリテ」(左)、定番「バゲット」(中央)、短くて太い「バタール」(右)

バゲットだけでも1日に100本近く売れますが、バタールも合わせると、すごい数になると思います。どちらも毎日食べても飽きない味です。バターやハムと合わせてもおいしく召し上がっていただけます。

バゲットとバタールは生地の重さは同じですが、バタールの方が太くて短いですよね。中の柔らかい部分が多いので、ご高齢の方はバタールを好まれます。

バゲットよりもバタールばかり売れる日もあります。品切れしているときに、「バタールはないのか?」とおっしゃるお客様に「バゲットならありますよ」と勧めると、「バタールがほしい」という答えが返ってくることがあります。好みがはっきりしたお客様が少なくないことに驚きました。

ビゴの店

クラストが香ばしくてデニッシュのように香りが高い食パン。甘みはごくごく控え目で飽きない味です。「角食パン」「山食パン」(各1斤475円)。

食パンもとてもよく売れていて、同じ生地で角食パンと山食パンがあります。住宅街が近いので、移転前からきっとたくさん売れるだろうと思っていましたが、予想を大きく上回っています。銀座のときに比べると倍以上で、ときどき品切れになってしまいます。

銀座店で約40年。歴代店長が守ってきたこと

──東京のお店で、ビゴさんから引き継がれていることはありますか?

亡くなったビゴさんから引き継いでいることは、接客に関してはお客様を大切にしましょう、挨拶をちゃんとしましょうということ。パンづくりに関しては、パンに合わせて行動するということ。パンが窯の中で自然に伸びるようにしなさいと教わってきました。そのためには発酵時間を十分に。つまり待つことが大切です。発酵が不十分な状態で窯入れすると、食べたときに生地が重くなってしまいます。他にも添加物を入れないといったことは、「ビゴの店」として守っていることで、2代目の社長、ビゴ・ジャンポール・太郎にも、その精神は引き継がれています。

──店長さんによって変わったこともあるんですか?

ビゴの店

店長を務める尾山竜太さん。「ビゴさんは関西弁で、たくさん話してくれました」と会ったときの印象を教えてくれました。

僕は5代目の店長ですが、むしろ各店長、それぞれの特技を生かす方針をとってきました。ただし、一貫して受け継がれてきた考え方として、「たとえ障壁があっても、どうしたらできるか考えて実現させる」ということがあります。これは初代の店長から続いています。

例えば、銀座にお店ができた当初は、パンが売れませんでした。そのとき看板商品のひとつとして生み出したのが、洋梨の形をしたデニッシュでした。とても人気が出て、近所の店が真似をしたほどだと聞いています。

クリスマス時期のパン屋には欠かせないシュトレンも、初めは販売していませんでした。シュトレンといえばドイツのものです。ビゴさんはフランス人。歴史的背景もあって「ドイツのものを売るなんて」と、頑なに反対されたそうです。そこで初代店長が提案したのが「これならどうか」と提案したのがドイツの国境近くにあるアルザス地方に伝わるシュトレンのレシピです。今でも東京の「ビゴの店」でクリスマスに近くなると販売しています。

老舗としての評価に頼らない、進化を続ける「ビゴの店 東京ドームシティ ラクーア店」

──そうやって新しい商品が生まれたのですね。定番以外でおすすめのパンはありますか?

ビゴの店

バターがジュワッと染み出すような「国産小麦の発酵バターバゲット」(手前)とパリパリとしたクラストと味わい深いクラムの定番「バゲット」(奥)(各378円)。

「バターバゲット」も売れ筋です。国産小麦を使ったもっちりやわらかなバゲットの中に、発酵バターを入れています。全体の18%がバターなので、ジュワッと口の中に広がります。

ビゴの店

ゲームに出てきそうな形に惹かれる「なめこ」(216円)。

「なめこ」と名付けたパンも人気です。クリームパンやあんぱんを作っていない代わりにお子さん向けに作りました。丸めて型に入れて、きのこのような形にしています。

ビゴの店

「ルヴァンショコラ」(432円)。

「ルヴァンショコラ」もおすすめです。天然酵母パンに500円玉のような大きさのチョコレートを混ぜ込んで焼いています。少し酸味のある生地にチョコレートが焼けて溶けて、おいしく仕上がっています。

──東京で唯一の「ビゴの店」として、お店をこれからどんな風にしていきたいと考えていますか。

ビゴの店

明るくキビキビ働くスタッフのみなさん。

基本的なことを守り、高いクオリティを保っていくことが「ビゴの店」として伝統を守ることにつながると考えています。それにプラスして、たくさんのお客様に喜んでもらえるような挑戦にも取り組んでいきたいと思っています。


お店の中を観察していると、様々な種類のパンが次々と焼き上がって並べられていきます。おいしそうなパンの香りに引き寄せられて、たくさんの人がパンを買いに訪れていました。ビゴさんの味や歴代店長の考えを引き継ぎ、新しい味も生み出す「ビゴの店 東京ドームシティ ラクーア店」。ぜひ訪れてみてください。

■ビゴの店 東京ドームシティ ラクーア店

住所
東京都文京区春日1丁目1−1 東京ドームシティ ラクーア 1F DELI&DISH
電話番号
03-3830-0811
営業時間
8:00~21:00
定休日
ビゴの店 公式サイト
https://www.bigot.co.jp
ビゴの店 東京本店 Instagram
https://www.instagram.com/doucefrance_bigot/

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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