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湘南・藤沢の「シェフが仕入れるベーカリー DISHES!」は老舗が作った新コンセプトのパン屋さん
パンやの夜明け

湘南・藤沢の「シェフが仕入れるベーカリー DISHES!」は老舗が作った新コンセプトのパン屋さん

野崎 さおり
野崎 さおり

神奈川県藤沢市に「シェフが仕入れるベーカリー DISHES!(ディッシーズ)」がオープンしました。シェフが仕入れるベーカリー? しかも営業開始時間が13時ってどういうこと? という疑問を胸に、責任者の齋藤孝曉(たかあき)さんにお話を伺ってきました。

老舗製パンメーカーがレストラン向けに作った味を、おうちでも楽しめる

藤沢 DISHES

2024年3月1日にオープン。JR藤沢駅から徒歩10分ほど。店舗近くに提携駐車場もあります

──シェフが仕入れるベーカリーというキャッチコピーを聞いて、頭に「?」が浮かびました。一体どういうことなんですか?

母体は「長後製パン」という製パンメーカーです。1926年に創業し、戦後すぐから藤沢市内を中心に学校給食用にパンの製造を行ってきました。「ロワール光月堂」というお店でパンを販売し、そしてレストランやカフェ向けのパンを製造して卸しています。

そのレストランやカフェ向けに卸しているパンを、一般のお客様向けに売るお店として開いたのが「DISHES!」です。

──現在進行形でシェフが仕入れているパンを販売しているという意味なんですね。なぜ既存のお店とは別に業務用のパンを小売りするお店を作ることになったのでしょうか?

店内には本物のパンをディスプレイ。

飲食店やホテルのシェフの要望に応えたパンを作ってきましたが、その数も増えてきました。シェフたちのこだわりに合わせて研究開発をしたパンなので、味のよさはもちろん、個性もあります。以前から「いずれは別の形で販売できないだろうか」と思っていました。

今年になって実現できたのは、時代の流れと卸先の理解があるからです。レストランがどこからパンを仕入れているかという情報は、ひと昔前ならば表には出ないものでした。でも今は少し調べれば一般の人にもわかってしまいます。

そんな話を卸先の方々としていたところ、業務用に特別に作ったパンを販売するお店があるのもいいとおっしゃっていただけました。

開発に6カ月かかったカンパーニュをはじめ、プロの要望にプロが応えたパン

──代表的なパンとその特徴を教えてください。

藤沢 DISHES

「横浜ビールバゲット」(450円)。

「横浜ビールバゲット」は地ビールの「横浜ビール」が開くレストラン「UMAYA」のために作っています。生地に使う水分の半量がビールです。ビールの材料は大麦なのでパンとの相性はよく、ふわっとホップの香りが感じられるバゲットです。

ビールを使った仕込みは初めてでしたが、ビールの風味が消えないようにするのが難しいポイントでした。

藤沢 DISHES

気泡は小さめ。1センチほどにスライスしてトーストしたら、軽くパリっとした食感に。

お店ではブルスケッタなどに使うので、具材をのせやすいように、クラムの気泡の大きさを調整しています。そのため少しソフトフランスに近い生地になっています。

バゲットはもう1種類用意していて、こちらも本格的なフランスのバゲットとは少し異なっています。フレンチトースト専門店のために作っているバゲットです。

藤沢 DISHES

フレンチトーストバゲットハーフサイズ(260円)。整った形もニーズを汲んでいます。

フレンチトーストを作るとき、「アパレイユ」と呼ばれる卵液を染み込ませますよね。その吸い込みがよくないとか、クラスト部分が固く残るとか、パンの食感がなくなってしまうという困り事に対応して作ったものです。

配合を工夫して、たくさんアパレイユが染み込むけれど、型崩れはしないバゲットになりました。バゲットとしては少し軽めですが、普通に食べてもおいしいです。

──齋藤さんのお気に入りのパンはありますか?

藤沢 DISHES

ほどよい酸味を最初に感じる「カンパーニュハーフ」(750円)

開発に半年をかけたカンパーニュです。カンパーニュといえば酸味が特徴ですが、あっさりした料理と合わせたときに、酸味を感じすぎないようにしたいと考えました。

ひと口目はカンパーニュらしい酸味や食感があるけれど、咀嚼するうちに酸味や香りが目立たなくなり、一緒に食べる料理の味がしっかり味わえます。日常の食事に取り入れやすいパンです。

食事に合ったボリュームも求められたので、粉はライ麦をメインに、食べやすさを考えて強力粉を配合。生地がダレないように自家製発酵種の量を調整したり、ライ麦の挽き方も細挽きと球状どちらも試したりと試行錯誤を重ねていたら半年かかってしまいました。

──リクエストに応えて作ったパンがメインということですね。

料理と一緒に味わったり、料理に使うために作られたパンなので、パンそれぞれにストーリーがあります。商品開発のプロセスも一般的なパン屋さんのパンとは違うかもしれません。

藤沢 DISHES

「ブリオッシュブールM」(170円は「切ってから焼いても表面がサクッとするように作っています」と齋藤さん。

また、業務用のパンは冷凍耐性も求められます。ハンバーガー用に作ったブリオッシュは、リッチなパンで冷凍しても味が落ちません。シャンピニオンは冷凍してもパサつかないようにするため、実はみりんを配合しています。

カンパーニュは1つ1200gほどもある枕型で、「DISHES!」ではハーフサイズで販売しています。それでも大きく感じるかもしれませんが、冷凍してもパサつきにくいパンなので、家庭でも楽しんでいただきやすいと思います。

藤沢駅周辺にパン屋さん巡りに来てほしい!

──ところで、お店の開店時間は13時。パン屋さんにしては珍しく遅いと思いますが?

藤沢 DISHES

甘いパンも置かれています。懐かしさの塊のような「カステラパン」はもうひとつの小売店「ロワール光月堂」のロングセラー。

レストランでは前日に翌日の仕込みを行うことが多いんです。その仕込みのタイミングにフレッシュなパンを使ってもらえるように、他のパンより遅く焼き上げるものがあります。「DISHES!」はそういったパンが揃ってからオープンするので13時になりました。

──13時オープンにはそんな背景があるんですね。最後にぱんてなの読者、パン好きのみなさんにメッセージをお願いします。

藤沢 DISHES

「長後製パン」専務取締役、齋藤孝曉さんはかなりのパン好き。入社から数年はパンを焼く現場でも経験を積んだそう。

「DISHES!」は食事に合わせることを目的としたパンがほとんどです。朝昼晩問わず、パンをもっと食事に取り入れてもらうきっかけになりたいと思っています。バターをつけて食べるのはもちろん、ベーコン1枚から、ローストビーフ、焼肉などジャンクで味の濃いものとも一緒に召し上がっていただきたいパンが並んでいます。

藤沢 DISHES

入り口側にある井出農園「シェフが仕入れる野菜」販売コーナー。

お店では「シェフが仕入れる野菜」として、地元藤沢の「井出農園」から仕入れた野菜も販売しています。なかなか手に入らないおいしいトマトジュースもあります。

藤沢駅周辺にはおいしいパン屋さんがいくつもあります。ぜひ藤沢でパン屋さん巡りをしつつ、「DISHES!」にも立ち寄っていただきたいです。


個性豊かなパンが並ぶ「DISHES!」。少数精鋭ながら気になるパンばかりが並んでいました。藤沢駅といえばJR、小田急線、江ノ島電鉄の3つの駅があるアクセスの便利な場所。海沿いへの散歩を兼ねて、「DISHES!」にも足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?

■ シェフが仕入れるベーカリーDISHES!

住所
神奈川県藤沢市藤沢1062-1 グランドメゾン藤沢1F
電話番号
営業時間
13:00~18:00
定休日

※商品情報は、2024年4月現在のものです。

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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