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神奈川県・相模原「UTOPIE du pain」は発酵種5種類を使い分け! 豊富な惣菜パンも魅力の本格派ベーカリー
パンやの夜明け

神奈川県・相模原「UTOPIE du pain」は発酵種5種類を使い分け! 豊富な惣菜パンも魅力の本格派ベーカリー

野崎 さおり
野崎 さおり

「UTOPIE du pain(ユトピーデュパン)」は、2022年4月に神奈川県の北部、相模原市にオープンしたパン屋さんです。JR横浜線相模原駅から徒歩3分の場所にあるお店は、シックな外観。お店に入ると、バゲットなどのハード系やクロワッサンのほか、惣菜パンも種類豊富に並んでいて、どれもこれも食べてみたくなります。魅力ある「UTOPIE du pain」のパン作りやラインナップの特徴について、オーナーシェフの宮澤峻一(みやざわしゅんいち)さんに伺いました。

バゲットやクロワッサンがスペシャリテ

ユトピーデュパン

お店があるのはJR横浜線相模原駅から徒歩3分のところ。向いにはマンションが立ち並んでいます

──宮澤さんのご経歴を教えてください。パン屋さんになったきっかけはありますか?

高校卒業後に進んだのは美容専門学校でした。ところが飲食店のアルバイトが楽しくなり、方向転換。いくつかイタリアンのレストランで働いて、そのうち1つで自家製パンを担当したことがパン職人になったきっかけです。

レストランでパンを焼くのがおもしろくなってきたころ、当時話題だった「メゾンカイザー」のバゲットをお客さんが持ってきてくれました。食べてみたら、こんなにうまいパンがあるのかと驚きました。

そこで「メゾンカイザー」に入って、フランスらしいパンづくりをひと通り学びました。次はまちのパン屋さん風の調理パン、菓子パンなども学びたいと白金の「セイジアサクラ」で修行しました。2つのお店で修行したおかげで、パンづくりの引き出しをたくさん作ってから独立することができました。

ユトピーデュパン

ポップにも注目!スペシャリテのひとつ「バゲット」(340円)。

──どれも食べてみたいと思うパンが並んでいますが、パンの種類はどれぐらいあるのでしょうか? 人気商品はどれですか?

多い時で50種類近く揃えています。「バゲット」や「クロワッサン」は店のスペシャリテとして人気があります。「カヌレ」も人気で、1日100個ほど売れる日もあります。

バリバリの食感がクセになりそうな「クロワッサン」(260円)。

定番のパンは、実は少しずつルセット(レシピ)を変更しています。クロワッサンなら、層をきれいに出そう、もうちょっと膨らませてみようなどと考えて、強力粉と準強力粉の配合や油脂の量を変えたりしながら調整を続けています。僕の好みに合わせて、バリバリ、ボロボロと気持ちよく層が崩れて、バター感もすっと感じるようなクロワッサンに仕上げています。

フォカッチャ生地を展開してつくるバリエーション豊かな惣菜パン

──惣菜パンも豊富ですね。おすすめはありますか?

相模原 ユトピーデュパン

惣菜パンいろいろ。「レモンタルタルチキン」(390円)。

惣菜パンは、その時々で素材を変えていて、見た目や味の組み合わせでおしゃれだと思うものを作っています。どれか1つが飛び抜けておすすめというわけではありませんが、最近個人的に気に入っているのは「レモンタルタルチキン」です。

「フォカッチャ」と同じ生地に炭火焼きチキン、レモンタルタル、さらに自家製の塩レモンをのせて、ピンクペッパーとブラックペッパーをトッピングして焼き上げています。

──惣菜パンの生地は、フォカッチャと同じ生地を使っているのですね。「フォカッチャ」の厚みが気になります。

相模原 ユトピーデュパン

厚みが10センチはありそうな「フォカッチャ」(290円)。

「フォカッチャ」を使ったドッグパンを作っていることもあって、見栄えがするよう厚みをつけています。「フォカッチャ」の生地は、扱い方によって表情が変わるおもしろい生地になっています。

相模原 ユトピーデュパン

厚みのある「フォカッチャ」を使ってボリュームたっぷりの「ラタトゥイユドッグ」(550円)と「地中海ドッグ」(590円)。

人気がある「塩バター包み」も同じ生地で作っていて、こちらはバターを巻き込んで大きめに焼いています。セミハードのような雰囲気に焼き上がっています。

ジュワッとバターを感じる食感もポイントの「塩バター包み」(250円)。

──自家製の塩レモンを「明太フランス」に挟んでいるのもおもしろいですね。

明太子と塩レモンのコンビネーションが新鮮な「明太フランス」(380円)

塩レモンを挟んだ「明太フランス」はリピーターが多く、根強い人気の商品です。塩レモンは働いていたレストランでもよく使っていましたが、トッピングとしても調味料としても万能。みじん切りにしてパスタと和えたりしていました。

「UTOPIE du pain」では防腐剤を使わないレモンに、塩とほんの少しはちみつを加えて、何日か漬け込んではちみつ塩レモンにして使っています。レモンは発酵種にも使っています。

発酵のコントロールが腕の見せどころ。使い分け、組み合わせる発酵種は5種類!

──レーズンやリンゴの発酵種はよく聞きますが、レモンも発酵種づくりに使われるんですね。

「UTOPIE du pain」では、発酵種を5種類準備しています。そのうち1つが、レモンを使ったレモン液種です。ブリオッシュ生地に使っています。レモン液種は、レモン単体からだと発酵が弱いので、レーズン種から発酵力をもらって、時間をかけて作る発酵種です。

──他の4種類は、どんな発酵種ですか?

相模原 ユトピーデュパン

気温が高いときは冷蔵庫に入っている醗酵種。右上から時計回りにサワー種、レモン液種、レーズン種、、黒アロマホップ種。

ルヴァン種はルヴァンリキッドとも呼ばれるもので、ライ麦粉と小麦と水を専用のルヴァンマシンで攪拌しながら、時間をかけて作っています。例えばデニッシュ生地はルヴァン種だけで発酵させていますが、「バゲット」はレーズン種とルヴァン種を両方使ったりと、組み合わせて使うことも多いです。

ライ麦や小麦粉と水のみで作るサワー種も、ルヴァン種と組み合わせて、「ルヴァン」や同じ生地やレーズンとクルミを入れた「ノアレザン」に使っています。

相模原 ユトピーデュパン

ルヴァンマシン。中はどろっとしたルヴァン種が入っています。

黒アロマホップ種は黒ビールを使って仕込んでいるので、黒い液体状の発酵種です。主に「食パン」に使っています。

ユトピーデュパン

しっとりしていて、伸び感があり、トーストするとさっくり。黒アロマホップ種を使う「食パン」(1斤380円、6枚切り2枚入り130円)。

パンに限らず、発酵の力は完全にコントロールするのが難しいです。職人にとっては腕の見せどころ。うまくいくと、発酵のさせ方も発酵種の掛け合わせも、素材を生かしただけでは生まれないような奥深い味に変化することがあります、そのこともパンづくりの楽しさのひとつだと思っています。

──ポップをよく見ると、そのパンに使われている発酵種が書かれていますね。

パン好きの方たちは、パンにとても詳しいですよね。僕は使い慣れた粉を使って、発酵種でうまみを出していくパンづくりを得意としています。どのパンにどんな発酵種を使っているかも知らせることで、お客さんに興味を持ってもらいたいと思っています。

流行はチラッと。エンターテインメント性のあるお店づくりを

──お店全体として気をつけていることはありますか?

相模原 ユトピーデュパン

1日100個売れることもある「カヌレ」(280円)。

いろんな商品があってワクワクする、そのエンターテインメント性をとにかく大事にしています。ポップに発酵種の種類を書くこともワクワクを呼ぶ仕掛けのひとつです。

相模原 ユトピーデュパン

「塩バター包み」に追いバターを塗り、黒豆黒ゴマきな粉をまとわせたから「ゴマキ」(320円)。

これまで身につけた技術の全部を、いつも商品にして出しているわけではありません。ときどき自分のこだわりを入れ込んだ、マニアックなハード系のパンや、具材がぎっしり詰まったパンを限定で出すこともあります。そういう変化を小出しにしているので、気づいてもらえると嬉しいです。

ユトピーデュパン

オーナーシェフの宮澤峻一さん。

同時に流行に流されすぎないことも意識しています。もちろん、商品のおいしさと見た目、お店の雰囲気も含めて、バランスが取れた店でありたいと思っています。

 


接客について伺うと「販売スタッフさんたちは、お客様とのコミュニケーションがとても上手なんです」とお話しされた宮澤さん。「ここのパンがすごい好きと言われることもあって、励みになっています。会話の中から気づくこともあってありがたい」とも話していました。相模原駅周辺で、「UTOPIE du pain」のパンをきっかけに発酵種などおいしいパンの裏側を知るパン好きが増えていきそうです。

■ UTOPIE du pain(ユトピーデュパン)

住所
神奈川県相模原市中央区相模原1-5-18
営業時間
10:00〜18:00 (延長有り)
定休日
火・水

WRITER

野崎 さおり

野崎 さおり

ライター。2017年パンシェルジュ検定2級合格。カンパーニュなどのハード系とクロワッサンが好き。旅の目的にはパン屋さん巡りとローカルフードの実食を必ず入れ、旅が「パンの仕入れ」になっていると揶揄されることもしばしば。早起きが苦手なのがパン好きとしての最大の弱点。

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