全国で愛されるパンたちが文具に!甲斐みのりさん監修「地元パン®文具」開発秘話
「イギリストースト」、「牛乳パン」、「バラパン」など、全国各地その土地で長年愛されている「地元パン®」が、文具になりました。手掛けたのは、「紙の町」とも言われる愛媛県四国中央市発祥の、フロンティア株式会社。監修したのは「地元パン手帖」(グラフィック社)著者で、地元パン®愛好家でもある、文筆家の甲斐みのりさん。地元パン®好きのぱんてなライターが、開発の経緯などお話を伺いました。
※「地元パン®」は甲斐みのりさんの登録商標です。
──今年6月「地元パン®文具」が発売されました。どのようなきっかけで開発されたのでしょうか。
西尾光平さん(フロンティア株式会社 NB事業部・統括マネージャー。以下、西尾さん):弊社では通常の文具の取り扱いもありますが、何か新しいことをしたいと考えていたときに、甲斐さんのご著書を拝見しました。文具業界では最近、駄菓子やお菓子のパッケージを文具に使うという流れもあって、地元パン®も文具にしたら面白いんじゃないか、と思ったんです。
ちょうど去年発売した「シモジマファンシーペーパーシリーズ」が好評だったこともあり、昭和レトロな商品が受けるのではないかと考えました。「地元パン手帖」は表紙がとてもかわいくて、パンがたくさん並んでいます。社内で話をしたときに、この表紙のイメージで、パンが実際に並んでいるような売り場を作れれば、楽しいのではないかと思いました。
──なるほど、そのような思いがあったんですね。甲斐さんはこのお話があったときに、どのような感想を持たれましたか?
甲斐みのりさん(以下、甲斐さん):とてもうれしかったです。「地元パン手帖」で紹介しているパン屋さんは、おもに昭和20年代から30年代、戦後すぐに創業したお店が多くありますが、今は大体3代目ぐらいになっていて、閉業していくことも増えています。いずれのお店も、今のようにどこでもものが手に入る時代ではなかったころに、地域に根ざしたお店ばかりです。そんな時代の食生活を支えたパンの記録を残したい、物のよさを知っていただきたいと思っていたんです。
パン自体は賞味期限もあるので持ち歩けないですけど、それが文具になったら、みんな持ち歩いて、愛でることができると思いました。フロンティアさんの文具は可愛らしいので、一緒に制作させていただけるなら、いいものができるという自信がありました。
──甲斐さんは文房具もお好きですよね。文具について、思い入れのあるエピソードはありますか。
甲斐さん:子どもの頃から手紙を書くことが大好きでしたし、包装紙を集めて手作りの封筒を作ったりしていて、それは今でも続けています。なので、あがってきたサンプルを見たときにはひとつひとつ感動しました。フロンティアさんは紙のプロなので、企画の力もデザインもよくて。かつて文房具好きだった少女の私も今の私も、「使いたい」と思う文具が出来上がってきたと思います。
──「これはレターセットにしよう」とか、「これは箱にしよう」とか、 アイテムの選定はどのように進めていったのでしょうか。
西尾さん:通常、文具を作るときは、人気が出そうな4柄を中心にアイテム展開をしていくんですが、それは今回せずに、いろいろなパンをいろいろなアイテムに落とし込んでいきました。そうすることで、先ほどもお話した「地元パン手帖」の表紙の世界観を作れると思ったんです。
刀禰美里さん(フロンティア株式会社 デザイナー。以下、刀禰さん):アイテムを決めるにあたっては、パンの特徴を絶対に活かしたいという思いがありました。パンの形状とか、サイズ感とか、色味とか全てトータルで見て、「どんなアイテムに落とし込んだら、可愛くて、たくさん使ってもらえるか」をいちばんに考えました。
例えば、「これは透明の袋に入っているから、トレーシングペーパーのような、透明感を生かせる素材で作ろう」など、パンの特徴によって、発想を膨らませて展開していきました。
──例えば、私は「イギリストースト」が大好きなんですけど、まさにこのレターセットが透明感のあるパッケージに入っていますね。
甲斐さん:そうなんです。パッケージはもちろんなんですけど、中のパンも本物を撮影したものが使われています。見た目だけじゃなくて、中身にもパン屋さんへのリスペクトを込めました。
刀禰さん:実は、パッケージデザインのデータというものがお店のほうにはなかったんです。なので、パン屋さんから実物を送ってもらって、ひとつひとつデータ化するところから制作をはじめました。その際にこだわっていたのは、忠実にきれいに再現すること。白いインクまで綺麗に再現しています。あとは、ロゴのデザインやサイズ感は基本的にそのまま使って、本物そっくりにしています。出来上がった商品とパンを横に並べて、 お客さんが手に取ってもらえるようなところを想像して、デザインをしました。
甲斐さん:「貼り箱」は、パンだけではなく、パンのお供からもセレクトしているので、飲み物のパッケージもラインナップされています。パン屋さんって、パンだけではなくコーヒーとか牛乳も売っていますよね。側面に栄養表示があって「エネルギー0Kcal」になっていたりとか、保存方法に「大切に保管ください」と書いてあったりとか、ちょっとしたユーモアもあるんです。
刀禰さん:細かい部分まで再現して、手に取ったお客さんが驚くぐらいの再現度にこだわりました。
甲斐さん:私は本当に「貼り箱」が大好きで。子どもの頃から、お菓子の箱を集めていて、文房具を入れたり、ちょっとした宝物を取っておいたりするのに使っています。アクセサリーとか切手とか、いろんなものを入れられますし、実用性もあります。 あと、マステ(マスキングテープ)を買ってくださった方を見ていると、マステ入れにも使われているようです。
──マステといえば、パンが並んでいるデザインもあれば、そのパン屋さんのキャラクターやロゴを集めた商品もありますよね。
甲斐さん:パンのキャラクターや、ロゴにも、その時代のよさを感じますよね。地元パン®文具で取り上げているようなパン屋さんは、グラフィックデザイナーとか、印刷会社の職人さん、看板職人さんなどが手書きでレタリングしているパターンもあれば、 絵がうまい店主さんが自分で描いているというパターンもあるんです。みなさん、そのデザインを大切にずっと使い続けているんですよね。
地元の人たちはある時期まで、パンが自分の地元だけのものだなんて思っていなくて、当たり前にあるものなんだと思っていたようなんです。「地元パン手帖」の取材でパン屋さんに行って、そこにあるパンたちを「かわいい!かっこいい!!」と騒いでいると、「かわった人が来た」と思われることもあったと思うんですけど(笑)。
──(笑)。
甲斐さん:でも、そこでみんな、「これは個性なんだ」とか、「他県の人から見たらすごく珍しいデザインなんだな」と気づいてくださったと思うんです。時代性とか土地柄を反映した、食べ物のデザインのよさが現れていて。こうして文具になることで、自分の推しキャラとか、推しのパンキャラとかも楽しんでほしいなと思います。
朝倉若菜さん(フロンティア株式会社 営業担当。以下、朝倉さん):今、文具ではデコレーションが人気なので、ノートをデコレーションしたりとか、今日あったことを記録して、その周りを飾るという楽しみ方があります。地元パン®文具でいちばん人気の「シール」も、そのように使っていただけると思います。
──「シール」は、手帳などに貼ったり、手紙に貼ったり使えそうですね。
朝倉さん:台紙もこだわっていて、パン屋さんにパンが並んでるような売り場風の見た目にしています。あと「裏紙メモ」は、メモだけではなく、切ってノートに貼ったりとか。
──素敵なデザインのパンはたくさんあるので、選定するのに苦労したのではないでしょうか。
刀禰さん:アイテム数は限られていますが、パンひとつひとつがメインとなって輝ける機会は絶対に与えたいなと思っていました。なかでも付箋は、今回出番の少なかった「ホワイトサンド」や「ソボロパン」、「本家サラダパン」などが使われています。どのデザインもすごく可愛かったので、個人的にはもっと使いたかったのですが、全体の色とか、並んだ時の見え方みたいなところも考慮して選んだので、心苦しさもあり難しかったです。
甲斐さん:早速、みなさんが「今度はあのパンを文具に」のようなご意見を寄せてくださっています。
──甲斐さんがとくにおすすめしたい商品はどれでしょうか?
甲斐さん:個人的には、東京・千駄木にある「リバティ」デザインの商品ですかね。15年ぐらい前、谷根千さんぽをしているときに偶然入ったお店で。すごく素朴だけど、街の人に愛されているお店なんです。定期的に訪ねたりしていました。「リバティ」のロゴの巾着には、小銭を入れてお店に連れていくとか、そういう楽しみ方をされている方がいてうれしいです。
あと、「バラパン」を製造しているなんぽうパンの方も喜んでくださっていて。バラって、贈り物を象徴する花なので、このカードでお祝いのメッセージとかをぜひ贈ってほしいです。いろんな方への用途に華やかさを添えられるので、気に入っています。
最初は、「イギリストーストなら青森の方」とか、そのパンを見慣れている方に喜ばれるのかなと思っていたんです。でも、食べたことがない方でも、まずは「素敵!かわいい」と見た目から入っていただいて、「食べてみたい」「青森に行きたい」など、この文具がきっかけで、旅をしたいという気持ちも盛り上がるようです。
──本当に、全国各地のパンがラインナップされているので、旅行に行きたくなりますね。
甲斐さん:地元パン®文具が、「この土地に行ってみたい」と思うきっかけになったら嬉しいなって思います。今、おいしいパンはどこでも手に入りますし、都内のアンテナショップでも手に入る地元パン®もあります。でも、その土地に行って、その店を見て、その店の人と触れ合うのが、私にとっていちばんパンをおいしく食べる方法なんです。
パンが好きというところから入られる方も、そうでない方も、パンの持ついろんなストーリーを知るきっかけになればと思います。コレクションするのが目的で買われる文具好きさんも多いと思うんですけど、今回は細かいところまで結構こだわって作ってるので、ぜひ使ってほしいなという気持ちです。
──甲斐さんは、街歩きで、ときめくものやかわいいものなどを多く見つけられていますよね。素敵と思えるパンに、どうしたら出会えるのでしょうか。何かコツがあれば教えていただきたいです。
最初は、「地元パン®」と私が名付けたように、自分たちの地元から広げていってほしいという思いがあります。地元というのは、今住んでいるところでも、生まれ育ったところでもいいです。たとえば私は静岡出身なので、静岡のパンも地元のものですし、今住んでいる東京のパンも地元のパンと言えます。遠くにパンを食べに行くのも楽しいですし、自分の住んでいる町や県内のパン屋さんを巡ってみるのもおすすめです。
まだまだ、ネットで検索しても、なかなか詳しい情報が出てこないような、地元で頑張っているパン屋さんはいっぱいあったりします。自分の身近にあるパン屋さんに全部行ってみようと意識して足を運び、みなさんの地元の味を、発信していただけたら嬉しいです。
■地元パンⓇ文具
https://www.frontiersman.co.jp/jimotopan
■地元パンⓇ文具を10名様にプレゼント!(10/16締切)
https://pantena.jp/present/present/6549
※ なお京都では、2022年9月28日~10月2日の5日間、「文具女子博 インクじかん・デコじかん in京都」(https://bungujoshi.com/event/ink_kyoto2022/)が開催されます。
(フロンティアは京都には出店いたしません。ご注意ください)
甲斐みのりさん
文筆家。静岡県生まれ。旅、散歩、お菓子、地元パン®、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。2022年の冬に、「地元パン手帖」のリニューアル版を出版予定。
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