

挽きたて全粒粉の香りとうまみ豊かなハードパン 神奈川・鎌倉「カノムパン」

2022年3月に行われた「パンのフェスアワード2021」。その特別賞である「ぱんてな賞」を受賞したのは、神奈川県鎌倉市にある「カノムパン」の「ボロディンスキー」でした。
エントリーされた20店舗の中から選ばれたパンは、どのようなお店が手掛けたのでしょうか。シェフのパンづくりへの想いなどを、店主の中村岳(がく)さんに伺いました。
「カノムパン」について教えてください。
国産の小麦やライ麦を使った、毎日食べても飽きのこない、素材を生かしたシンプルなハード系パンを揃えたお店です。
2000年、葉山に店をオープンした当初からハード系を中心としていましたが、本格的にライ麦パンを始めたのは、鎌倉に移転した2015年頃からです。以前から知り合いに、“ライ麦パンは作らないの?”とよく聞かれましたが、葉山の店を始めた頃は日本ではまだなじみがなくて。鎌倉に移転する頃になると、イベントなどで“ライ麦パンはありますか?”と聞かれるようになったので、“やっと作れる時代になったな”と思いました。
「カノムパン」はタイの言葉で、“パン”という意味。タイは、僕が好きでよく行っていた国です。ハードパンの店はドイツ語やフランス語の名前が多いと思いますが、単語の響きがかわいいのと、口にすると楽しくなる言葉だなと思って選びました。実際に、通園・通学路の沿いにあった葉山の店では、小学生の“カノムパン!”という声が、よく聞こえてきました(笑)。

現在の「カノムパン」は、中村美雪さんが店主を務める「cafe terre verte(カフェ テールベルト)」と同じ建物に。スタイリッシュな店内には、ハード系食事パンを中心に15~20種。独自のスパイスやハーブ使いのパンも揃っています。
商品の特徴や、素材について教えてください。
いちばんの特徴は、挽きたての全粒粉を配合していることです。小麦もライ麦も契約農家から粒で仕入れて、その日に作るパンに必要な分だけ、石臼で挽いています。手間はかかりますが、焼き上がった時の香りがぜんぜん違いますし、素材の味をしっかり感じることができるんです。
そして、皮はパリッと、中はもっちりとした食感となるよう、20年以上継いでいる自家製玄米酵母を使い、中種法で作ったパン生地を、フランス製の石床オーブンで、やや高めの温度で焼き上げています。

日本で栽培している農家がまだ少ないうえ、粒で仕入れることが難しいという国産のライ麦。「カノムパン」で契約している農家のライ麦は、特に香りを強く感じることができるそう。
また、「ヴィーガン」の考え方をベースに、ほとんどのパンは、動物性由来の原料を使わずに作っています。
それは、宗教的な問題やご自身の体調、信念などから食事制限をしている人も、そうでない人も、一緒に楽しく食卓を囲んでほしいという想いがあるからです。あえて厳しい基準に合わせたパンづくりをしています。
そして、スパイスやハーブ、そのほかドライフルーツやナッツ類なども、できるだけオーガニックのものを使用しています。
自分自身が食べたいと思えるパンを、お客様に提供することが大前提。そのため、すべての食材において、できるだけ高品質なものを使うようにしています。
「ぱんてな賞」受賞、おめでとうございます!受賞後、反響はありましたか?
ありがとうございます。いただいた盾と賞状は、店内にしっかり飾っています。横浜のパンフェスでも、4月に行われた石川県でのパンフェスでも、「ぱんてな」の記事をご覧になって来場された方が多かったようで、“賞を獲ったパンはどこですか?”と、多くの方に聞かれました。また、「ボロディンスキー」に使用しているライ麦の契約農家さんからは、お手紙までいただきました。

「ボロディンスキー」を、たくさんの方に受け入れていただけてよかったです!」と、中村さん夫妻。
「ぱんてな賞」受賞の「ボロディンスキー」について、また、そのほかのおすすめを教えてください。
そもそも「ボロディンスキー」とは、ライ麦が高配合されたロシアのパン。当店では国産ライ麦100%で作っています。少し黒糖のような甘みがあるので、塩けのあるものとよく合います。薄めにスライスして、クリームチーズとスモークサーモンをのせるのがおすすめです。また、ドライフルーツとも相性抜群。クリームチーズにクランベリーを混ぜてのせると、甘みと塩けの絶妙なバランスが楽しめます。
「ボロディンスキー」は店頭のほか、通販では「Komerco」というサイトのみで販売しています。

「ぱんてな賞」選考委員会では、“スパイス香る大人の味”や“食事やおつまみにも”などの高評価を得た「ボロディンスキー」。
ライ麦パンをあまり食べたことがない方には、「カンパーニュ」がおすすめです。当店の看板商品のひとつですが、ライ麦の比率を徐々に上げていった結果、現在は30~40%ぐらいになっています。食感や香りがよく、味のバランスも整っていると思います。これを食べれば、“ライ麦パン沼”に、ハマっていただけると思いますよ。

「カンパーニュ」は、“噛みしめると、口の中で香りとうまみがボンッ!と爆発する”と中村さん。ホールは30cmもの大きさなので、みんなでシェアして食べるのがおすすめだそう。
中村さんのパンづくりへの想いやこだわりをうかがえますか?
「カノムパン」のパンは、誰が作っているわけでもない自分のパンです。なので、自分がいちばんおいしいと思えるパンをずっと追求し続けています。もっと素材の味を引き出す方法と、もっとおいしくできる焼き方をと、同じパンでも改良を重ねながら、毎日新しいことに挑戦し続けています。

“どのパンも、レシピも完成することはないと思っています。だからこそ、パンづくりは飽きなくて、楽しいんです”と中村さん。
そして、デザインよりも、素材の魅力を最大限に引き出した、できるだけシンプルなパンを作りたいと思っています。バターやオリーブオイルなど自分の好きなものを足したり、食事と合わせたりできるからです。もちろん、“誰でも食べられるものを”という想いもありますが、自由な発想でパンを楽しんでいただきたいと思っています。

もともとグラフィックデザイナーだった中村さん。葉山の店でデザインの仕事を受けつつカフェを担当していたところ、パン担当の方が退職することになり、パン職人としてのキャリアがスタートしました。
ただ、どうやって食べていいかわからない、そんなパンもたくさんあると思いますので、食べ方や意外な組み合わせなども提案できたらいいなと思います。また、当店の2Fにある「cafe terre verte(カフェ テールベルト)」のランチプレートにもパンが使われているので、パンと料理の組み合わせをぜひお試しくださいね。

2Fにある「cafe terre verte(カフェ テールベルト)」のランチプレート。パンと料理の組み合わせなどはInstagramでも紹介されています。
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岳さんはプライベートでも、パンのことで頭がいっぱい。テレビを観ていても“これはパンづくりに生かせる”と話していると、美雪さんは言います。それだけ情熱を傾けているからこそ、「カノムパン」のパンが、たくさんの人を魅了するのだと感じました。
ハードパンをあまり食べたことがない人も、ハードパン好きも、きっと新しい味に出会える「カノムパン」。鎌倉にお出掛けの際は、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

オレンジの車が目印の店舗は、1Fがパン屋、2Fがカフェと靴職人のショールーム。初めて行く時は、Instagramの「お店までの道のり」を見ながら向かうのがおすすめです。
■カノムパン
- 所在地
- 神奈川県鎌倉市扇ヶ谷3-3-24
- 営業時間
- 12:00~18:30(18:00L.O)
- 定休日
- 火・水・木
- https://www.instagram.com/khanompang.jp/
WRITER

辻 美穂